自分は編集者&執筆指導の講師として士業・専門家の記事を多数直しています。2013年から編集長を始めたので、人の文章を直すようになってすでに10年たちました。編集の際に一番手を加えるのは書き出し、つまり冒頭です。丸ごと書き換えてしまう場合もあるくらいで、その理由は書き出し次第でどれくらい読まれるかが劇的に変わるからです。 ■書き出しに必要な「ネタと切り口」 書き出しに入れるべき要素は『この文章は「何を」「どのような視点」で読者に伝えようとしているのか?』です。これをハッキリと伝える必要があります。 何を・どのように、英語ならwhatとhow、自分はこれを「ネタと切り口」と呼んでいます。書き出しがピシっと決まれば文章全体も引き締まって見えます。 ネタと切り口を読者に明確に伝える。 記事を読む準備が出来ていない読者に「前フリ」をする。 これが書き出しに必要な要素です。プロの書き手、ライターや記者の書いた記事には必ず前フリがあります。 一方で文章を書き慣れていない人はこの書き出しが全く出来ていません。そもそも書き出し・前フリがすっぽりと抜けていて、いきなり「本文」から始まっている文章も珍しくありません。いうまでもなくこのような記事は全く読まれません。なぜなら大抵の読者は「文章を読む準備」、つまり「書き手が文章で伝えたいことを受け取る準備」が出来ていないからです。 大手メディアの記事でも「今回はこんな内容の記事です」と編集部側で冒頭に書き出しを補足して、その後に本文が始まるケースをたびたび見かけます。書き直しをさせる手間を考えると編集者が書いた方が早いからです。そのような記事の多くが専門家や士業、つまり専門知識はあっても文章を書き慣れていない人の記事です。 編集者は書き出しが0点のダメな記事をたくさん読んでいますので、書き出し・前フリの書き方をマスターするだけでも、書き手としてプロの編集者から一目置かれます。忙しい編集者にとって、直さなくてもいい文章を書ける専門家は神様のように有難いわけです。 編集者に限らず読者からの印象も、ヘタクソな文章はそれだけで頭が悪く見えます。専門知識、つまり頭の良さがウリの士業・専門家にとって、そんな印象を読者に与えることは致命的です。 ■なぜ前フリが必要なのか? わざわざ編集者が書き出しに手を加える理由は当然のことながらより多くの読者に読まれるためです。 せっかく記事に興味を持った読者を離脱させないために、記事の全体像・方向性を冒頭でハッキリと伝えて「この記事は最後まで読むだけの価値がある」と思って貰う事が目的です。たまに最後まで読まずに記事の内容を誤解されたと怒っている書き手を見かけますが、それは最後まで読ませることができなかった書き手の責任です。 ■少年ジャンプの読者は1ページ目で3割も離脱する。 書き出しが重要な事を示すエピソードとして、週刊少年ジャンプから派生したウェブマンガ誌「少年ジャンプ+(プラス)」が先日話題になりました。読み切り漫画で、読者は1ページ目で2~3割も離脱してしまうといいます。その後は3~5ページ、長くても10ページ程度で最後まで読むかを判断しているといいます。これはアンケートではなくネットで捕捉しているデータなのでまず間違いはありません。 (参照・【第93回】「少年ジャンプ+」のデータ担当Kさんに聞く! 読者の行動は数字で分かる!? 読者を逃がさない読切作品の作り方!! ジャンプルーキー! 2022/10/06) 1ページ目の離脱が極端に多い理由は、間違ってタップしてしまった数字等も含んでいるようですが、それを差し引いても1ページ、つまり一瞬で読むか読まないかを判断している人は多数いる事になります。スマホならば他にいくらでも面白いマンガもゲームもアプリもありますから、読者はつまらないマンガを最後まで読む義理は全くないわけです。 これは文章でも全く同じです。漫画と士業・専門家の書く文章は全く異なる分野ですが、どちらも同じコンテンツです。書き出しを丸ごと書き直してしまう場合があるという話を酷いと感じた人も多いと思いますが、せっかく書いた文章から1行で離脱されないために書き手のサポートとして心を鬼にして行っているわけです。 書き出しと前フリが重要なことは分かったけど、じゃあどう書けばいいのか? 何を書けばいいのか? と思った人のために参考記事の冒頭を9本分載せました。過去にITmediaビジネスオンラインというメディアに書いた記事で、どれも多数の読者に読まれたものです。 Yahoo!ニュースの経済ランキングで1位、総合ランキングで1位、ツイートが2000超、Yahoo!トップ掲載等々、実績のあるものだけです。目次から興味があるものだけ拾い読みして構いません。 1本を除いてどれも書き出しでちょうど1ページ分です。どこでページを分割するかは編集部の判断ですが、ちょうど区切りの良いように書いているので自然とそうなっています。あえて書き出しと本文の境目が分かるように書いていますので、この部分も注目して頂ければと思います。 ※「文章のコツとして書き出しで結論を書けとよく聞くけど、方向性・全体像だけで良いんですか?」と上記のようなアドバイスに対して質問を受けることがあります。手短に説明すると「文章の内容や目的による、結論を頭に書く事が常に正解ではない」という答えになります。 ■フジテレビの女子アナによるステマ疑惑が金銭トラブルに発展した理由 先日から話題になっていたフジテレビ女子アナのステマ疑惑に、新しい問題が発生した。エステサロンを無料で利用していた女子アナとサロンとの間でトラブルが発生したという。 フジテレビの女子アナによるステマ疑惑が金銭トラブルに発展した理由:専門家のイロメガネ(1/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2105/30/news019.html ■アメリカのスタバ時給1900円から考える「安い日本」 先日、コーヒーチェーンを展開する米スターバックスが、米国で時間給社員の平均賃金を来夏に平均17ドル、現在の為替レートで約1900円まで引き上げると報じられた。労働市場のひっ迫を受けた人材の確保と引き留めが理由だという。 アメリカのスタバ時給1900円から考える「安い日本」:専門家のイロメガネ(1/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2110/31/news027.html ■大戸屋の赤字転落、原因は「安すぎるから」? 定食チェーンを運営する大戸屋HD(以下、大戸屋)が赤字に転落した。11月に行われた2019年9月期の中間決算では、上場来初の営業赤字として大きく話題になった。 大戸屋の赤字転落、原因は「安すぎるから」?:専門家のイロメガネ(1/7 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1912/11/news036.html ■【前編】食べログはなぜ何年も炎上し続けるのか? 10月1日、1つのツイートが話題になった。レシピ情報を発信する料理研究家が、とある居酒屋に掲示された「当店は食べログへの掲載を断りします。」と題した張り紙を撮影したものだ。張り紙の内容は以下の通りだ。 【前編】食べログはなぜ何年も炎上し続けるのか?:専門家のイロメガネ(1/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1910/17/news037.html ■テレビ局が吉本興業を出入り禁止にすべき理由 先日から芸能事務所大手、吉本興業の芸人による闇営業が問題になっている。 テレビ局が吉本興業を出入り禁止にすべき理由:専門家のイロメガネ(1/8 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/08/news071.html ■「テレビ局が株主だから大丈夫」宮迫・亮の謝罪会見に見る、吉本興業の深刻な勘違い 先日から問題になっている吉本興業(以下、吉本)の闇営業トラブルについて、雨上がり決死隊の宮迫博之氏と、ロンドンブーツ1号2号の田村亮氏が7月20日、謝罪会見を行った。 「テレビ局が株主だから大丈夫」宮迫・亮の謝罪会見に見る、吉本興業の深刻な勘違い:専門家のイロメガネ(1/6 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/22/news065.html ■吉本興業がテレビ業界から干される日 7月22日、吉本興業(以下吉本)が記者会見を行なった。反社会的勢力のパーティーに所属芸人が参加したと週刊誌に掲載されたことで一連のトラブルが発生し、7月20日には宮迫博之氏、田村亮氏の二名が謝罪会見を行い、それを受けたものだ。 吉本興業がテレビ業界から干される日:専門家のイロメガネ(1/7 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1908/01/news113.html ■日本のタブーに触れた「バカッター」たち なぜバイトテロは大炎上するのか 先日からアルバイト店員の撮影した問題行動がSNSで拡散される、いわゆる「バカッター騒動」が立て続けに発生している。 日本のタブーに触れた「バカッター」たち:なぜバイトテロは大炎上するのか(1/4 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1902/25/news085.html ■ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮前編 11月19日、日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反の容疑で逮捕された。 ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 前編:ゴーンショック(1/4 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/28/news108.html ■なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか 10月からの消費増税に伴う軽減税率の仕組みが話題になっている。 なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか:専門家のイロメガネ(1/8 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1909/19/news074.html 以上、参考にして下さい。 【関連記事】 ■漫画「ドラゴン桜」の国語教師に学ぶ、読まれる文章の書き方。 https://sharescafe.net/59893646-20221108.html ■「ミスチルの歌は恋愛あるある」レイザーラモンRGに学ぶ、読まれるネタの選び方 https://sharescafe.net/59893650-20221108.html ■ガイアの夜明けに学ぶ、読まれる文章の書き方 https://sharescafe.net/59893658-20221108.html ■夏目漱石が「I love you」を「月がキレイですね」と訳した理由 https://sharescafe.net/59893660-20221108.html ■NHKの「プロフェッショナル・仕事の流儀」を見ながら、ドラマ「逃げ恥」が平凡なのに面白い理由を考えてみた。 https://sharescafe.net/59893666-20221108.html 中嶋よしふみ シェアーズカフェオンライン編集長・FP ビジネスライティング勉強会講師 ■ビジネスライティング勉強会とは? ![]() 士業・専門家向けの執筆勉強会(オンラインサロン)として、「文章教室」ではなく専門家の情報発信に必要な具体的・実践的なテクニックとノウハウ、思考術を提供する。 講師の中嶋よしふみは2011年にFPとして開業以来、執筆のみで12年間集客を実現。日経DUAL、東洋経済、プレジデント、ITmedia等の大手ウェブメディアで執筆する他、書籍出版、テレビ・ラジオに出演、雑誌・新聞等の取材協力、経済紙等での取材協力多数。これらの業務をすべて執筆で獲得。2013年に開設した自社メディア「シェアーズカフェ・オンライン」では編集長として専門家・士業へ執筆指導を行う。執筆をきっかけに業務拡大や出版を実現した専門家の書き手を多数育成。Yahoo!ニュースにも配信中。 ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |