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普段、ウェブメディア編集長として執筆指導をしていると「何を書けば良いのか分からない」と必ずと言っていいほど相談される。

では自分もネタに悩むかというと、そういったことはほとんどない。ネタが多すぎてどれから書こうか困ったり、書こうと思っていたネタの鮮度が落ちてしまうことはあっても、ネタ自体に困ることはまずない。

ではネタに困る人と困らない人の違いはどこにあるのか? その答えはお笑い芸人のレイザーラモンRGさんが明解に教えてくれる。

■レイザーラモンRGの「あるあるネタ」
レイザーラモンRGさん(以下、RG)は、当初相方のレイザーラモンHGさんがブレイクした際、便乗するようにテレビ出演しては滑りまくるなど、全くパッとしないイメージだった。しかし徐々にそのキャラクターが知られるようになり、今ではバラエティ番組で披露する「あるあるネタ」でお馴染みの芸人になっている。

RGのネタは80年代の人気楽曲に合わせて「あるある早く言いたい~♪」と繰り返し歌い、周囲の芸人から「早く言え!」とヤジを飛ばされながら、最後はどうでも良いような「あるあるネタ」(セミあるあるなら「うるさい」)を披露する、という内容だ。

ネタの内容からRGは天然キャラだと思っていたら、じつは「あるある」について極めて深く、哲学的な深みまで探求している。

「あるあるネタ」は定番のお笑いネタだ。例えばお笑い芸人「テツ&トモ」はギターを弾いて踊りながら「なんでだろう」とあるあるネタを披露する。誰もが体験したり見聞きしたことのある、思わず「あるある!」と言いたくなってしまうような共感できるネタだ。つまり「あるあるネタ」は別の言い方をすれば「共感ネタ」とも言える。

RGはラジオ番組「オードリーのオールナイトニッポン」にゲスト出演した際、あるあるネタについて「お笑いに限らず映画、小説、音楽とあらゆる表現はあるあるだ」「ミスチルが歌っているのは、壮大なあるある」という話をしている。

つまりミスチルの恋愛ソングは「恋愛あるある」ということだ。オードリーの二人はその話の深さに「お坊さんの話を聞いてるみたい」と驚嘆している。(オードリーのオールナイトニッポン ニッポン放送 2012/09/01放送)。

■記事シェアは「あるある」のバロメーター
RGが指摘するように、ドラマでも歌でも映画でも「共感」できるかどうかはその作品の人気と強く関係する。

ウェブメディアに掲載された記事でも、人気のあるものは数千・数万とシェアされる。SNSでの拡散はその記事がどれ位支持されたかを表すバロメーターでもあるが、これはいかに多くの人が共感したか、「あるある」と感じたかという指標でもある。

例えば最近自分が書いた記事では、解雇規制の緩和について言及した。

>> 日本企業の給料が低いのは、社員を解雇できないから。「雇用」より「人」を守れ。 | Books&Apps
https://blog.tinect.jp/?p=51515

この記事は幸い多数の人に読まれイイネが1,600を超えた。この記事を読んで共感した人がイイネを押してくれたことは間違いないだろう。ではこの記事で書いた「解雇規制を緩和した方がかえって雇用は増える」という意見は何か特別な、誰も聞いたことの無い斬新で特別な意見や考え方かというと、全くそうではない。内容の賛否は別にして、過去には経済学者や雇用の専門家が散々提案してきた手あかにまみれた内容だ。

SNSでの反響でも意見が近い人からは、完全に同意、まさにコレ、今まで読んだ中で最も納得した、といった「共感」のコメントを頂いた。つまりそういった共感コメントを書いた人たちにとって、自分の書いた記事は「あるあるネタ」だったわけだ。もちろん反対意見もあったが、雇用と無関係な大人はほぼゼロに近い。近年ではブラック企業や働き方改革など、雇用に関わるニュースは繰り返し報じられ、多くの人が関心を強く持っているネタでもある。

「何を書いたらいいのかわからない」とネタに悩んでいる人がいる一方で、自分は手あかにまみれた「あるあるネタ」で多数のイイネを獲得している。これはズルイ書き方かというと全くそうではない。自分が書いた記事は「雇用あるある」、もう少し幅広く言えば「ビジネスあるある」ということになる。

■「斬新なネタ」は誰も好まない
普段の執筆指導でも、誰も見たことも聞いたことも無いネタは読まれない、とハッキリ伝えている。書いたらダメということは無いが、読まれにくいことは間違いない。つまり自分が執筆指導をしているような税理士や社労士、司法書士、キャリアコンサルタント、FPなどのビジネス・法律・マネーの専門家が書くべきネタは「ビジネスあるある」「マネーあるある」「経済あるある」だ。

こういった記事やお笑いに限らず、あらゆる分野で「定番」「ベタ」なものは支持される。人気のある飲食店の上位は寿司・ラーメン・焼肉であり、デパートで人気のある物産展はダントツで北海道展だ。洋服であれば白・黒・グレーが売れ筋で、スマートフォンならばiPhoneが好まれる。みんな定番・ベタが好きであらゆる面で多くの人は保守的な行動をとる。定番・ベタとは誰もが知っている、つまりは「あるあるネタ」だ。

ウェブで読まれる記事は皆が知っているもの、使ったことがあるもの、見聞きしているものなど、身近なネタが好まれる。東洋経済オンラインの編集長はiPadよりもiPhoneネタ、高級な食材よりも牛丼、タリーズよりもスタバの方が鉄板で読まれるとインタビューでは説明している(東洋経済、月間1億PVの秘密 「ヒットの法則はデータが語る」・上 withnews 2015/02/09)

■書きたいネタと読まれるネタの違い
ここまで読んで違和感を覚えた人もいるだろう。あるあるネタが読まれるのが仮に正しいとして、読まれる記事を書くことだけが正解なのか? 自身の書きたいことを書いたらいけないのか?と。

これについては、問いの立て方が間違っている。「誰も読まない記事」を書いて意味はあるのか? 「誰も読まない質の高い記事」は本当に良い記事なのか? ということになる。研究者が書く論文などを除けば、多くの人に読まれる範囲で、自身の言いたいこと、伝えたいことを表現するのが正しい書き方だ。分野を問わず表現をしたことと、読者(客)が求めることの間には必ずズレがある。これはクリエイターならば必ず抱えている葛藤ともいえる。

このようなズレは表現に限らず、上に書いたような食べ物でも洋服でも、どんな分野でも存在する。例えば寿司職人が、誰も知らないけどメチャクチャ美味しい地魚を食べて欲しいと考えていても、お客さんが注文するのはマグロとサーモンばかり、といったこともあるかもしれない。そこで「ウチはマグロもサーモンも出しません」とやってしまえばお店が潰れてしまう。

そのズレをいかに上手く解消するかが腕の見せ所になる。読まれるネタを扱いながら書きたいことを書くにはどうしたらいいか? と悩むことは、売上げを維持しながら無名でも美味しい魚を食べてもらうにはどうしたらいいか? と考える寿司職人の発想と同じだ。

個人的な事を書くと、自分の場合はクリエイターでも作家でもなくただの経営者なので、書きたい記事=読まれる記事ということで、さほど葛藤は無い。自身を作家と勘違いしないように、たまに注意をしている程度だ。

■「あるあるネタ」は難しい
このように説明すると、あるあるネタで記事を書くことが簡単なことかのように誤解されそうだが、実際にはそんなことは無い。あるあるネタで笑いを取るのと同じくらい「ビジネスあるある」で読まれる記事を書くことは難しい。

多くの人にとってのあるある、つまり当たり前・当然・身近なものを把握できる人は優れたマーケターや経営者の能力と共通点がある。なぜなら「ベタなものは支持される」と書いた通り、何がベタか理解できることはビジネスでも記事を書く上でも重要な能力となるからだ。つまり「ビジネスあるある」を理解することは、専門家にとって執筆に役立つ以上のメリットをもたらすともいえるわけだ。

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