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政府は1月末、新型コロナの感染症法の位置づけについて、5月8日から季節性インフルエンザと同じ位置づけにすると発表しました。これが一般的に言われている「2類」から「5類」への移行です。

5類移行により、ワクチン接種費用が段階的に私費負担になったり、マスクの着用が個人の判断に委ねられるなど私たちの生活にも変化が訪れます。打撃を受けた経済の回復が期待される一方で新たな問題が生まれる可能性もあります。

注目される問題のひとつが海外渡航やインバウンド、留学など諸外国との交流です。特に日本では、深刻な人材不足から外国人労働者の雇用に期待がよせられていましたが、コロナ禍によってその目論見は脆くも崩れ去りました。

そして新型コロナ発生から約3年。各国の出入国やビザの対応は様々ですが、5類移行によって日本では外国人労働者の様相はどうなるのでしょうか。

外国人労働者を専門とする行政書士の立場から考えてみたいと思います。

■5類移行後に起こる人材不足問題の再燃
まずは5類移行の話をする前に、大前提として必要な理解は「観光客」と「外国人労働者」は違うということです。

最近では2022年10月に個人旅行の受け入れ再開や入国時検査の原則撤廃など水際対策が緩和され、インバウンド需要復活の兆しが見えてきました。観光庁によれば(※)、昨年日本を訪れた外国人旅行者数は前2021年の約15.6倍となっており、確かにインバウンド需要は復活してきていると言えます。

※訪日外国人旅行者数(観光庁より) 2021年1月~12月:24万5862人 2022年1月~12月:383万1900人

観光客が増えることは、経済効果を考えれば歓迎すべきです。特にコロナ禍によって大打撃を受けたホテル業、旅館業、飲食店などは失った利益を取り戻したいはずです。

しかしながら、観光客が増えるとサービスの質だけでなく「量」、すなわち「人手」も問われることになります。国内では人口減少・少子高齢化によってあらゆる業界が慢性的な人材不足に悩まされているのが現状です。観光客が増えたとしても、そのサービスの担い手を確保しなければならず、観光客の増加に諸手を挙げて喜べる状況ではありません。

2022年の出生数は80万人を切るという見通しも出ています。これは日本が出生数の統計を取り始めてから最も少ない人数で、人材不足は将来的にも解消されそうにありません。そこで注目されているのが外国人労働者です。確実に減少してしまう日本人の労働者を外国人労働者によって確保しよう、という考え方になります。

■5類移行後に外国人労働者は増えるのか?
現在、各国の出入国に関する水際対策には大きな違いがあり、そしてまた状況に応じて変化します。

例えば、本稿執筆時の状況ではタイやベトナムなどはすでに水際対策を終了しており、コロナ禍以前とほぼ変わらない状況にあります。これに対して、日本では入国するためにはワクチン接種証明書(3回接種済み)または出国前72時間以内の検査証明書の提示が必要とされています(2023年2月7日現在)。

この水際対策によって外国人が来日に二の足を踏んでいるというわけですが、これが「5類」への移行によって、大幅に緩和され日本への出入国も自由になると言われています(もちろん、感染者数の推移によっては再度の変更はあるかもしれません)。

新型コロナ感染症が5類に移行し、水際対策が撤廃された場合を想定すると、外国人観光客と外国人労働者は確実に増加すると思われます。外国人が増えると不法在留や犯罪の増加などの不安を感じる人もいるかもしれませんが、実際は外国人労働者の増加による問題より、外国人労働者の増加によって解決できることの方が多いと私は考えています。

■外国人労働者の奪い合いが起きている。
5類移行によって外国人労働者は確実に増えると書きましたが、これは外国人労働者の雇用を広げるチャンスと捉えるべきです。前掲の旅館、ホテル、飲食だけではなく、介護や建設業なども慢性的な人材不足。今後、外国人労働者の雇用は経営をする上で必要なものになると各業界で言われています。

一般的には「日本企業であれば日本人社員が主軸で、場合によっては外国人を採用することもある」という認識が強いと思われます。しかし、都心部の飲食店やコンビニエンスストアなどはすでに外国人労働者が主力となっていることから、このような「サブ」的な認識は大きく変わっており、実際は外国人労働者の争奪戦が始まっているのが現実なのです。

言うまでもなくこの話は個人的な意見や感想ではありません。つい先日も産経新聞でホテルや旅館が深刻な人手不足に対応するために、帝国ホテルが外国人留学生のインターンシップを受け入れている、東急ホテルズが外国人の採用に力を入れている、と大きく報じられたばかりです。

(参照・ホテルや旅館が人手不足でパンク状態 長引いたコロナ解雇の落とし穴 - 産経ニュース 2023/2/18)

つまり5類移行後に外国人労働者の争奪戦が激化する可能性がある、ということです。このように説明すると「少し大げさなのでは?」と思われそうですが、現場は違います。前出の業界では本当に人材そのものが不足しているのです。

なぜ日本人ではダメなのか?と思う人もいるかもしれませんが、旅館、ホテル、飲食、介護、建設業などサービス業は他業種と比べても不人気で常に人手不足です。そのため、やはり外国人労働者の雇用問題は、避けて通れない問題なのです。

■外国人の労働者は歓迎されている。
「避けて通れない」と言うと、やはり外国人の雇用は例外的措置のように聞こえますが、むしろ日本人よりも外国人労働者を歓迎する声も現場には多いのです。かつて日本の勤勉性や会社への忠誠度などは、世界でも驚かれるほどのものでしたが(個人的な見解ですが)現在はそのような状況にはありません。

これに対して、外国人労働者は基本的に真面目に就業します。ビザの種類にもよりますが、日本国内で合法的に活動するにはやはりビザが必要ですし、生活資金を稼ぐ必要もあります。問題を起こしてしまえば母国に強制送還もありえるため、外国人労働者は基本的にみな真面目です。

文化の違いはありますが、言語の問題はそれほど大きくありません。日本に来て就業するくらいですから、多くの外国人労働者は一定水準以上の語学レベルにあります。

例えば、特定技能という一定の人材難を抱える産業分野において、外国人を受け入れることを目的とした在留資格で、この在留資格を取得して来日する外国人の多くは、現地の教育機関であるいわゆる「送り出し機関」によって語学等の研修を済ませていたり、日本語能力試験を受けています。そのため日本語がまったくわからない外国人は少ないのです。

現場レベルでは労働意欲の低い日本人労働者よりも、むしろ外国人労働者を求める声は増えています。2023年の日経新聞によれば、千葉県の外国人労働者は最多の6万9000人(2022年10月時点)と言われており、すでにその兆しは見えています。いまでもこれだけの増加なのですから、5類移行で外国人労働者の争奪戦がさらに激化することは心に留めておくべきでしょう。

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小島健太郎 行政書士 さむらい行政書士法人代表社員

【プロフィール】
日本語教師を経て2009年に行政書士として開業。アジア・欧米など各国出身の外国人の法的手続きを支援。外国人の在留資格・VISA・対日投資手続きを専門に扱う。高度なコンサルティングで年間相談件数は1000件を超える。東京都行政書士会所属。

http://www.samurai-law.com

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