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1990年代を代表する人気バンド「THE BOOM」。1993年発売の「島唄」は150万を超える大ヒットとなり一世を風靡した。THE BOOMは2014年、メジャーデビューから25年目にして解散に至る。

現在も音楽活動を続けるTHE BOOMの元ベーシスト・山川浩正氏は、音楽がCDで発売されるようになった1989年にTHE BOOMのメンバーとしてメジャーデビュー。その後はミリオンセラーが年間数十作も生まれる1990年代から2000年代初頭の黄金期を経て、iPodやiTtunes、YouTubeやサブスクなど、音楽業界をが根本から変えわるような仕組みが登場しては、当たり前になっていく状況を当事者として目の当たりにして見てきた。

そんな立場から山川氏本人が現在の音楽業界を語った。

■なぜ「バンド」は減ったのか。
「CDが売れなくなった」と言われて久しい。

僕が「THE BOOM」というバンドで活動していた頃、たった1枚のアルバムに何千万円という制作費をかけていた頃が、まるで嘘みたいだ。いまはレコード会社に所属しなくても、CDをつくらなくても、YouTubeやiTunesなどで自由に自分の音楽を表現できる。でも、本当に音楽はそれで自由になったのか。ミュージシャンは自由になれたのか。少し考えてみたい。

音楽というのは、多数の楽器や歌唱が織りなす表現の集合体だ。ヴォーカルがいて、ギター、ベース、ドラムなど複数の音楽要素で構成されている。僕らがTHE BOOMとしてデビューしたのは1989年。当時はCDでの販売が始まった年でもあり、カセット・テープとCDの同時発売ということでデビューした。

なぜバンドという構成だったのか。それは自分たちの表現したい音楽をつくるには、人が必要だったからだ。いまのようなテクノロジーのなかった時代には、機械やパソコンから音を出すという概念はまだなかったし、音をつくるには自分たちで演奏するしかなかった。そういう意味では、かつては音楽で表現したい場合には、バンドメンバーを集める必要があり、社交性やコミュニケーション能力が必要だったといえる。

ところが今はそんな煩わしい人間関係など気にせず、ひとりですべて完結させることができる。パソコン1台で音楽はすべてつくれてしまうし、つくった音に歌を合わせれば立派な音楽の完成だ。そういう意味では、いまのミュージシャンはメジャー・インディーズ問わずとても自由だと感じる。

でも、自由だからといって、それが素晴らしいとは限らない。少し面倒で、喧嘩をすることがあっても人と人がぶつかり合って素晴らしい音楽が生まれることもある。こんな事を言うと老害なんて言われてしまうかもしれないが(笑)。

■1990年代、J-POPバブルの現場。
1990年代のいわゆるJ-POPバブル時代には、CDもよく売れたし、予算も豊富だった。だから当時、THE BOOMは4名のメンバーで構成されていたけど、サポートミュージシャンがライブ時には10人以上いたこともあった。ところが、そんな恵まれた時代は続かない。CDが売れなくなると、当然ライブにも予算をかけられなくなる。こう言ってしまうと切ないが、ライブも「人件費の削減」という問題が出てくる。

そこで、シーケンサーという自動演奏ソフトを通じて、あらかじめ録音された音源を使用することでライブ時のミュージシャンの数を減らすことができる。僕らもTHE BOOM時代、まったく機械音源をつかわなかったわけではなく、シーケンサーを使って生演奏と同期させることも多かった。今では当たり前の手法となり、ライブを観に行っている人もシーケンサーの音源に気づかないことも多い。このように、必ずしも生演奏がすべてではない。

生演奏は確かに臨場感も感動もある。しかし、一方で楽器が増えれば増えるほど、総合的なバランスを取るのが難しくなる。だから、いまのひとりで表現できること自体は、決して悪いことではないと僕は考えている。最近はドラムとヴォーカルだけ、といったかつてでは考えられない編成のミュージシャンも出てきている。

そういう意味では、本当に自由になったのではないかと思う。とはいえ、扱う楽器が少ないとひとつひとつの演奏を細かく見られることになり、今度は技術が試されることから一長一短なのかもしれない。

ひとりでできることは自由ということでもあり、お金もかからない。レコード会社との契約もいらないし、CDをつくらなくても、音楽活動はできる。ただ、それが人を感動させられるかどうかはまた別問題で、音楽で食べていくのはとても難しい。自主制作でCDをつくっても制作費はかかるし売るのも大変だ。ライブはコロナ禍で大打撃を受け、その余波はまだ残っている。

■音楽活動は自由になったが……
自由にはなった。でも、「音楽で食べていく」、あるいは「音楽で成功する」というのは本当に難しくなったと僕は感じている。僕らがデビューした頃は、CDを出せば「当たる」可能性があった。実際に僕らが出した「島唄」という曲は150万枚を超えるヒットになったし、この曲で僕らを知ってくれたファンもいると思う。でも、いまはそんなヒットは期待できない。

だから今後、音楽はビジネスとしては構造を変えないと生き残っていけない時代になったのだと考えている。そもそも音楽業界は不思議なことが多い。

例えば、どんなに制作費がかかっても、かからなくてもシングルCDは1000円くらいで、アルバムは3000円。ライブのチケット代金はバラバラなのに、音楽の値段は同じだ。本来、音楽の価値は人によるものなので、例えば高音質のハイレゾ音源などはもっと高額で販売しても良いはずだ。僕だったらそういう高音質の音源で聞きたいと思うし、同じ意見の人もいるだろう。

ほかにも、仮にレコード会社に所属していれば行動に制限がかかる。YouTubeを始めたくても、事務所からストップがかかる。あるいはヒット曲を連発したとしても、バンドが解散してしまえば生活の保証はその時点で終わる。ヒット曲を出してもその後の生活は保証されないのも現実で、そうなると音楽だけで自由に生きていくことは難しくなる。

表現は自由になった。しかし音楽とお金の問題はまだいびつなままで、ミュージシャンの金銭的な問題は解決していない。そういう意味ではこれだけ自由に表現できるようになっても、まだミュージシャンは自由になれていないのかもしれない。

山川浩正(ベーシスト)

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■Live!
THE BOOM tribute LIVE「WE LOVE THE BOOM」
2023年5月21日(日) 南青山MANDALA
https://20230521live.pickmusic.training/

■山川浩正 プロフィール
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Photo by Masao Sekigawa

2014年に解散したロックバンド「THE BOOM」の元メンバー。THE BOOMは「島唄」(150万枚)、「風になりたい」等のヒットで知られる。「島唄」は第35回レコード大賞ベストソング賞受賞。第44回、第53回、第59回NHK紅白歌合戦出演。現在はソロで音楽活動を続ける傍ら、ベーシストとして東京60WATTS、馬場俊英ライブツアー、大沢樹生ソロライブ、The Musical Day ~Heart to Heart~2023など様々なアーティストのサポートやアレンジャー、レッスン講師としても活動。自身が一型糖尿病に罹患していることから、病気・障害を支援する啓蒙、音楽活動も行う。1965年、山梨県生まれ。

公式サイト https://www.happymt.club/
Twitter https://twitter.com/jazzbass1965
Instagram https://www.instagram.com/yamakawa_hiromasa/

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