FireShot Capture 111 - Introducing ChatGPT - openai.com (2)
ChatGPT、トップページより

質問をすると、適切な回答をしてくれるAIチャットのChatGPTが日々話題となっています。ChatGPT登場時は、回答レベルがまだ高くなく遊びのように使われていましたが、GPT-4にグレードアップされると、その回答精度は飛躍的に高まりました。

弁護士や税理士、いわゆる「士業」と呼ばれる専門家の主要業務に「相談業務」があります。もしChatGPTの精度がさらに高まると士業の相談業務はなくなってしまうのか? この話はコンサルティングやアドバイスを仕事にするあらゆる分野のプロに関係のある話です。

そこで士業向けの経営コンサルタントで自身も行政書士である筆者の立場から、AIと士業の相談について考えたいと思います。

■精度問題と法律の”個別”問題
ChatGPTにチャットで質問をすると、様々な回答をしてもらえます。

そのため法律問題もいつかChatGPTが回答してくれるようになるのではないか。士業に相談する必要がなくなってしまうのではないか?これが本題です。もちろん、ある程度の画一的な法律相談はChatGPTが答えてくれます。ただし下記のような反論もあります。

「法律問題は、同じような問題に見えても同じものはひとつもない。個別でみればすべて違う問題なのだから、いくらAIが優秀でも回答し切れるわけがない」

確かにそのとおりです。個別具体的な問題はひとつひとつ違います(chatGPTと弁護士法との兼ね合いは省略)。ですから、本当にひとつひとつの事案を検討して個別具体的な回答を出すことは現段階では難しいかもしれません。

しかし重要なことはそこではありません。個別具体的な回答がなくても、「問題に関する全体図の把握と一定の結論」くらいまではChatGPTでわかるようになります。

すると何が起こるのか?

そう、「この問題の依頼先は士業であることがわかり、相談内容についてもある程度理解した上で依頼先を検討するようになる」のです。

例えば社員を解雇させたいと思ったら解雇の方法はChatGPTで出てくる。相談先も弁護士か社労士が提案されるでしょう。

ということは「解雇の問題はこのように解決し、相談先は弁護士か社労士」という結論から依頼先探しが始まるわけです。となれば同じ仕事を依頼するなら安い事務所の方が良くなります。当然ですね。多少、過去の実績を検討材料として見られるかもしれませんが、基本的には価格で判断されることが多くなるでしょう。

これは定型業務や代行業務、つまり個々のオリジナリティを発揮しにくい業務ほどその傾向が強くなるはずです。

■「なんとなく」の依頼が消える。
なぜ過去の実績がいまよりも重要視されなくなるのか? 現在の顧客はまず「相談先がわからない」「士業というものがよくわからない」という状況からスタートして、なんとなく自分で検索してそれぞれの士業にたどり着きます。

どの士業に頼めばいいか分からない、そんな事があるのか?と思った人もいるかもしれませんが、あなたは行政書士と司法書士の違いを正確に説明できますでしょうか?税理士と公認会計士の違いを説明できますか? 多くの人が正確に説明できないと思います。これは実際に士業に仕事を依頼する人も同じです。

つまり士業を選択したのは「選び方を良く分かっていない自分」なので士業の選択にも不安が残る。相続や会社設立等は取り扱う専門家が多数いるのでこのあたりの問題は顕著です。そうした点からも従来の士業は「顧客が私を選ぶべき理由」をホームページやSNSでアピールして、安心してもらわなければならないし、説得や説明も必要になります。つまりは信頼や信用がベースとしてあるわけです。

これに対してChatGPTで回答を得ていれば、「この仕事は◯◯士に依頼するのが当然」というある種確信めいた結論を持って士業を探すことになるので、そもそも士業がその案件をできないと考える発想がない。

結果的に「高値でも信用が出来そうな士業に依頼する」という従来の選び方が減り、より価格競争に陥るのではないか?と私は考えています。

■士業はAIで顧客を獲得するきっかけが激減?
ChatGPTが相談を受けてくれるとなれば、士業全体の相談業務も激減します。これまでは、「なんとなく」「とりあえず」士業に相談という人も多数いたと思いますが、「まずはChatGPTで相談」という習慣が生まれる可能性があります。

実際、検索サイトであり、ChatGPTと並んで有名なAIである「Bing」の影響により、検索エンジン最大手のGoogleの閲覧回数が減ったとロイターで報じられています。自分なりに検索して調べたけどよく分からないから結局は専門家にお願いする……このような流れがAIへの相談で激減するという話は、決して大袈裟ではないわけです。
『マイクロソフトが2月7日にBingなどのサービスにAIを搭載して機能を強化すると発表して以降、Bingのサイト閲覧回数は3月20日までに15.8%増加。同じ期間中にグーグルのサイトの閲覧回数は約1%減少した。
焦点:検索エンジン市場、オープンAI導入のMSがグーグル猛追 Reuters 2023/03/23』

「無料相談で聞かれるだけ聞かれて、依頼がこなかった」

士業がSNSでこんな風に嘆いていたりもしますが、そういうのもなくなり、相談の機会の絶対数は減少します。となると、集客のきっかけとなるフロントエンドとしての相談業務が使えなくなるわけです。

文章が苦手、ネットが苦手。そんなことを言う士業も多いのですが、実際に面談になったら高いクロージング力を持っている。そういう人もいます。商談力だったり、コミュニケーション能力だったり、あるいは人柄やホスピタリティなど、「総合力」とも言えますが、これらを発揮する機会が減るわけです。

これも定型業務、代行業務に近づけば近づくほどその相談数は減少していくでしょう。

■士業・専門家はこれからどのようにすればよいのか?
では結局どうすれば良いのか?

原則として、コンサルティング能力や問題解決能力など、コンサルタント的要素を高めて代替性のない存在になるしかありません。AIチャットはまだ一般論レベルでしか回答できませんが、いずれ精度は高まっていくでしょう。となれば前例のない問題をどう解決するか、イレギュラーな案件にどう対応するかなど「人間の頭でないと解決できない問題」を解決できる能力が求められてきます。

これは従来から言われてきた話ですが、その重要性がより高まったという事になります。

AIチャットの進化を止めることはできませんし、他人事と見ることはできません。士業・専門家にどのような影響が出てくるのか。今後もリサーチを続けていく予定です。

横須賀輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士

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【プロフィール】 横須賀輝尚
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ2,000人以上が参加。著書に『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、他多数。

公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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