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【連載】滝川徹のストーリーで学ぶタスク管理術[vol.7]
長時間労働をはじめ、日本ではオーバーワークややりたくないことを無理してやること、つまり「がんばる」ことを肯定する風土が根強い。しかし、筆者はがんばることが必ずしも良い結果につながらないと考えている。むしろマイナスに作用することもある。

筆者にはかつて「がんばらない自分には価値がない」と感じ、長時間労働をしていた時期がある。当時、仕事の生産性は低かった。しかし効率を考えた働き方にシフトしてからは、成果を落とさずに残業ゼロを達成できるようになった。

本稿では、がんばることにどれほど意味が無いか、また分かっていてもついがんばってしまう人がどうすればがんばらず、もっと効率的に働けるのかについて、現役会社員で時短コンサルタントの立場から考えてみたい。

■がんばった見返りはたったの2分
がんばることがどれほど無意味かについて、まずは起業家デレク・シヴァーズのエピソードを紹介したい。

デレクは普段から、近所にある約40kmの自転車専用道をサイクリングしていた。いつも全力で走っていて、時間を計測すると決まって43分だった。

ある時サイクリングを億劫に感じ、いつもの半分のペースでリラックスして走ってみることにした。必死に自転車を漕ぐいつもと違い、まわりの景色を楽しみながら走る素晴らしい時間を過ごした。

走り終えて時計を見ると、なんとかかった時間は普段と2分しか違わない、45分だった。デレクは次のように語る。
計算すればわかるけど、顔を真っ赤にしてハァハァ息を切らしながらストレスまみれでがんばった93%かそこらが、たった2分の違いしか生み出さなかったんだ。ほぼ無意味だよ。人生で僕はいつもできるだけ多くのことを得ようとするわけだけど-何をしてもできるだけ多くドルを稼ぎたいと思うし、1分1秒も無駄にしたくないと思う-でもそのためにストレスを感じる必要はない。そう考えるようになったんだ。本当だよ』(引用:Tools Of Titans Harper Business 2016 )

その後デレクは何事もストレスを感じる前にやめるようになった。ストレスを感じる時はオーバーワークとなっている時か、本当はやりたくないことを無理してやっているサインだと考えるようになったという。

■長期的にがんばることの影響
デレクが語るように、全力でがんばっても大きな差は生まれないのかもしれない。でも、わずかな違いも長期的に見れば大きな差につながるのではないか。そう考える読者もいるのではないだろうか。

そこで次に、長期間がんばり続けることがどのような影響を生むかについてのエピソードを、グレッグ・マキューン著『エフォートレス思考(かんき出版 2021)』から紹介したい。

まだ南極点に到達した者がいなかった1911年、2つのチーム間で南極点到達レースが開催された。対峙したのはロバート・スコットとロアール・アムンセン。両者はほぼ同じ日程で出発した。

スコットのチームは天気がいい日は疲れ果てるまで前進し、悪天候の日だけ休んだ。一方アムンセンのチームは天候に関係なく一定のペースで進み続けた。

スタートから1ヵ月ほど経った12月12日。アムンセンのチームは一気に前進すれば1日で南極に到達する地点に到着した。その日の天気はすばらしかったが、彼らが南極に到達したのは3日後だった。出発した時から毎日15マイルずつ前進することを決めていたからだ。

天候の悪い日以外は疲れ果てるまで前進したスコットのチームと対照的に、アムンセンのチームは十分な休息を取ることにこだわり、ペースを保って前進し続けた。どんな日も15マイルを超えることはなかった。

12月14日、アムンセンのチームは人類史上初の南極点到達を果たした。スコットのチームが到着したのは34日後だった。レースのことを本に書いたローランド・ハンフォードは、勝利の秘訣を一定の持続可能なペースを設定したことに尽きると記した。

がんばることは短期的に大きな違いを生み出さない。また、長期的にはむしろマイナスに働くということが、デレクとアムンセンのエピソードから分かる。

■ウィル・スミスが依存していたもの
がんばることに意味がないのなら、なぜ多くの人はがんばって働くのだろうか。

俳優のウィル・スミスは自身の経験を通してこの疑問に対する解を発見した。ベストセラーとなった自伝『Wil Penguin Press 2021)』のあるエピソードを紹介したい。

ウィルは42歳の時、カリブ海にある人里離れた入江にきていた。ハリウッドで成功し、これまで欲しいものは全て手に入れてきた。しかし妻との関係は悪くなるばかりだった。

昔付き合っていたタニヤに相談すると夫のスコティに会うことをすすめられた。そうして今、ウィルはスコティの仲間とボートに乗っていた。セキュリティガードなしで旅するのは15年ぶりだった。

うたた寝から目を覚ますとスコティ達は水に入って楽しんでいた。ウィルはスコティに向かって「おーい!今日これからどーすんだ!」と叫んだ。スコティは水平線を示しながら「まわりを見てみろよ。(自然と)つながるんだ」と言った。

ウィルにとって、スコティの言っている意味はよくわからなかった。ひとまずボートに戻りソファに座って30分ほど目を閉じた。携帯の電波は圏外。陸地から離れていてどこに行くこともできない。次第にウィルは貴重な時間を無駄にされているように感じイラつきはじめていた。

デッキに戻るとスコティ達はまだ水の中で談笑していた。ウィルはイラだちながら頻繁に携帯で時間をチェックし、同じ場所を行ったりきたりしていた。

自分の様子がおかしいと気づいたのはその時だった。まるで麻薬常習者の禁断症状のようだと思った。ジッとしていられなかったのだ。いますぐ何かやることを見つけないと頭がおかしくなりそうだった。

自分は依存症なのだろうか?と頭によぎったのはその時だった。麻薬や酒にではない。他人からの承認、成功、仕事にだ。なぜ自分が常に何かしていないと落ち着かないのか、ウィルは理解しはじめた。

幼い頃からウィルにとって空白・余白は敵であり災いをもたらすものだった。父親の仕事を手伝う時も、絶え間なく作業を続けていないとサボりとみなされた。高校の時の彼女には仕事が忙しくなり会えなくなると浮気された。

テレビ番組や映画を絶え間なく受け続けたのも、人々の心が自分から離れていくのが怖かったからだった。ウィルは常に忙しくすることで自分の不安・感情を感じないように今まで生きてきたことに気がついたのだった。

■「がんばらない自分には価値がない」と感じていた筆者
多くの人ががんばってしまう理由。それはウィル同様、不安・感情を感じたくないからだと筆者は考えている。少なくとも長時間労働していた頃の筆者はそうだった。

たくさん仕事が残っていると不安だった。犠牲心を示さないと上司や同僚から認めてもらえないと不安だった。当時自覚はなかったが、不安を解消するために毎日朝早くから夜遅くまでがんばって働いていた。当時は「がんばらない自分には価値がない」と思いこんでいた。

がんばっていれば不安と「自分には価値がない」という感情を感じずにすんだのだ。

今からふりかえると当時は仕事の生産性も低かった。毎朝始業前の1時間半、いわゆる前業をしていた。しかしある時期からブログを毎日書くために前業をやめる決断をした。

仕事が回らなくなったらどうしようと不安になった。しかし蓋を開けてみれば何ら支障は生じなかった。少なくとも月あたり20時間は労働時間が減っていた。毎日朝早くからがんばって働いていたのは一体なんだったのだろうと感じたのを覚えている。

それ以降、筆者はがんばって働くより、働く時間に制限を設けて一定のペースで働き続けるほうがはるかに効率的に働けると考えるようになった。その後残業ゼロの働き方を達成し、このことを確信するようになった。

■「がんばる」を手放してみる
どうすればリラックスしながらもっと効率良く働けるのか。

その鍵は少しずつ「がんばる」をやめてみて、小さい成功体験を積み重ねていくことだと筆者は考えている。

たとえば今まで1時間かかっていた仕事があるとする。試しにリラックスして取り組んでみて、時間を計測してみるのだ。試してみるとデレクのように2分程度しか違いがないかもしれない。一度でもそうした経験を積めば、その他の仕事もリラックスして取り組もうと思えるはずだ。

あるいは今、毎日20時まで働いているとする。ひとまず1週間、毎日19時30分に帰ってみる。1週間試してみて支障がなければもう1週間続けてみる。次は19時に1週間帰ってみる。小さい実験を続けて成功体験を積み重ねていくことが大切だ。

勇気を出して、がんばることを手放してみよう。他人の承認を得るためにがんばり続けたウィルが至った結論も手放すことだった。

習慣となっている「がんばる」をやめるのは、もちろん簡単ではない。筆者も気づけば肩に力が入ってしまっていることが多々ある。その度にデレクのエピソードを思い出すようにしている。

リラックスして取り組んでも、成果はそう変わらないかもしれない。毎日がむしゃらに働くより、たとえば8時間と決めてペースを守って働くほうが効率がいいかもしれない。

そんな新しい視点で今日から仕事に取り組んでみてほしい。新しい気づきがきっとあるはずだ。

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滝川徹 時短コンサルタント

【プロフィール】
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。

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