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【連載】滝川徹のストーリーで学ぶタスク管理術[vol.10]
先日Yahoo!ニュースでタバコ休憩に関する記事が話題になっていた。記事の内容は昨年12月に元迷惑系YouTuber・へずまりゅうが「喫煙者の方が休憩を多くとっており不公平ではないか?」と投稿したことに触れ、喫煙者と非喫煙者の双方に話を聞くというものだった(“たばこ休憩”は不公平か 喫煙自由の会社に勤務、非喫煙者の不満と喫煙者の本音
ENCOUNT 2023/02/19)。

当時コメントも多数つきタバコ休憩の賛否が議論になっていた。この記事に限らず、日本ではタバコ休憩に関する議論が絶えない。

なぜタバコ休憩はこれほどまで議論になるのか。その本質を紐解くと、日本の働き方改革が思うように進まない理由と同じ問題が浮き彫りになる。

タバコ休憩と働き方改革に共通する日本の問題点・課題は一体何なのか。

著名な経営コンサルタントが日本の大企業に勤めていた頃、会社の人間と衝突したエピソードを皮切りに、より良い働き方を追求する時短コンサルタントの立場から考えてみたい。

■ 「あれはなんだ?」と言い返した大前研一氏
英国エコノミスト誌でピーター・ドラッカーと並ぶ思想的リーダーと称された経営コンサルタントの大前研一氏。彼は日立製作所に勤務していた頃、勤労課の人間としょっちゅう衝突していた。

仕事は原子炉の設計だった。仕事中眠くなって裏庭を散歩していると、勤労課の人間に席に戻るように注意された。

新しい設計や発想をするために考えごとをしていると伝えても、みんな自分の机で仕事をしているからという理由で机に戻るように言われた。当時は変な時間にトイレに行くだけで「休憩時間に行ってください」と注意されることもあった。

コーヒー抽出機を持ちこんでコーヒーを楽しんでいたら勤務中にコーヒーを飲むのはおかしいと注意されたこともある。「火気厳禁と書いてあるじゃないか」などと言われ、タバコを平然と吸っていた課長を指さして「あれはなんだ?」と言い返した。

その後、大前氏が会社を辞める頃には職場のいたるところでコーヒーの湯気が上がっていたという。このことをふまえ大前氏は『日立での2年間で「学んだ」こと(PRESIDENT Online 2012/05/28)』で次のように書いている。
こっぴどく叩かれるから、最初の違反者にはなりたくない。でも怒られないと分かるとこぞってやりはじめる。日立時代は日本企業の組織の本質やサラリーマンの集団心理を学んだ2年間でもあった

大前氏のこの発言はタバコ休憩の議論の本質を紐解く鍵になる。説明していきたい。

■ タバコ休憩と単なる休憩は何が違うのか?
タバコ休憩に関する議論を見ていると、匂いが不快という点を除けば業務時間中に休憩を頻繁に取ることの是非が論点になっていることが多い。

ファミリーレストランを運営するすかいらーくは喫煙による周囲の社員の健康被害、いわゆる受動喫煙による健康被害を考慮して、社内はもちろん勤務先周辺での喫煙まで禁煙とした。2019年にこのルールが開始された際には大きな話題となり法的な妥当性まで論じられたが、ここまで厳しいケースはかなりのレアケースだ。
(参考:「すかいらーく」通勤途中の喫煙禁止に賛否両論…会社の対応に法的問題は? 弁護士ドットコム 2017/12/16)

たとえばYahoo!ニュースのタバコ休憩に関する記事のコメント欄には、タバコ休憩だけ黙認されていてズルいという趣旨のコメントも多い。一方で仕事で成果さえ出していれば(常識の範囲内なら)別にいいのではないかという趣旨のコメントも多数見られる。

筆者はタバコは吸わないしむしろ嫌いだが、こうしたコメントを見ているうちに一つの疑問を感じた。それはタバコ休憩と単なる休憩は何が違うのだろうか?というものだ。

たとえば業務時間中に席を立ち、近くの窓から外の景色をしばらく眺める。この行為はタバコこそ吸っていないが、タバコ休憩と本質的になんら変わらないのではないだろうか。

そうするとタバコ休憩が黙認される職場であれば同じ頻度で休憩を取っても問題ないということになる。

大前氏がそうだったように、ある程度の休憩は創造性や生産性にとって必要なものだ。非喫煙者で「タバコ休憩がズルい」と言う人は、自分もタバコ休憩と同じ頻度で休憩を取ればいいのだ。

そしてもし上司から文句を言われたら、大前氏ではないが、タバコ休憩と何が違うのかと問いただしてもいいはずだ。

しかし、実際には多くの人がそうしない(できない)。その理由は、大前氏の言う「最初の違反者になりたくない」という日本企業の本質・サラリーマンの集団心理が働いているからだろう。タバコ休憩問題の本質はタバコそのものではなく、まさにこの部分だと言えるのではないだろうか。

大前氏と勤労課が議論したコーヒーも、大前氏が会社を辞める頃には職場のいたるところでコーヒーの湯気が上がっていた。仕事中の休憩も、職場の誰かがはじめれば当たり前になる可能性も十分ある。

しかし、職場で休憩を自由に取るために大前氏のように会社の人間と言い争うのは現実的ではないと感じる読者も多いだろう。

この点について、職場の慣習を変えるのには必ずしも争う必要まではない、というのが筆者の考えだ。ちょっとしたことで会社の風土を一気に変えることもできたりする。ここである起業家のエピソードを紹介したい。

■張り紙だけで会社を変えた起業家
ニューヨークタイムズ紙のベストセラー作家ケビン・クルーズ。彼はある企業の社長だった頃、部下から頻繁に「ちょっといいですか?」と声をかけられて時間をとられることに強いストレスを感じていた。

そこでケビンは紙に「1440」と大きく印刷し、社長室のドアの外側に貼った。数字は1日の分数=1440分を意味していた。しかし他に何も説明を書かなかった。

部下から1440の意味を尋ねられると、時間の大切さを思い出すための工夫だと答えた。ケビンは自分自身のことを言っただけだったが、しばらく経つと飛び入りの相談が急に短くなった。

時には1440の意味を説明しただけで『それでしたら、これ以上話す必要はありません。月曜日のチームミーティングで話せばいいとわかりましたので(引用: 1440分の使い方 パンローリング株式会社 2017)』と答えた人もいた。

やがて社内で「1440分しかないから」という声があちこちで聞こえるようになった。社員達はタスクに優先順位をつけたり、不必要なミーティングの誘いを断るようになったという。

ケビンは時間を大切にしようというメッセージを示した。その点で最初の違反者になった。その後同じように行動しても怒られないとわかった社員はこぞって時間を大切にするようになったのだ。

ケビンがこうした風土を作りあげるために必要だったのは紙に1440と印刷してドアに貼ることだけだった。ちょっとした意思表示でまわりを変えることに成功したのだ。

これはケビンが社長だったからこそできたこと。そう考える読者もいるかもしれない。しかし筆者は一社員でも同じことができると考えている。

参考までに筆者が最初の違反者になった経験を紹介をしたい。

■上司と同僚から返ってきた予想外の反応
今でこそ筆者の職場では早く帰ることが推奨されているが、数年前、まだ働き方改革という概念がなかった頃は残業している同僚も珍しくなかった。

そんな中筆者は常々早く退社したいと考えていた。しかし多くの同僚が残業している中、課長に次ぐポストの自分だけが早く帰ることに抵抗を感じていた。当時の上司は部下が残っている時は自分も帰らないというポリシーの持ち主だった。このことも抵抗を感じる理由の一つだった。

しかしある時、意を決して上司に早く帰りたいと自分の気持ちを打ち明けてみたことがある。筆者は全否定されると思いこんでいた。しかし意外にも返ってきた回答は仕事さえきちんとやれば問題ないというものだった。

その後上司のアドバイスもあり部下に同様の話をした。予想に反し好意的な反応がほとんどでびっくりしたのを覚えている。子供が小さいうちは家族との時間を大切にしたほうがいいと言ってくれた人もいた。

それから筆者は気兼ねなく早く帰れるようになった。その後残業ゼロの働き方を達成したが、この時の体験が大きなきっかけになったのは間違いない。

ケビンや筆者の体験は一例にすぎない。しかし自分の考えを他人に表明・主張すれば想像以上に自分の環境を変えられる可能性はあるのだ。

働き方改革が思うように進まないのは企業の責任も大きい。しかし企業や環境のせいにしていても不満は募るばかりだ。我々の精神衛生上よくない。

最初の違反者になるにはたしかに勇気がいる。しかしほんの少し勇気を出すだけで職場の風土を変えられる可能性があるのであれば。そこに賭けてみる。そんな選択肢もあるのではないだろうか。

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滝川徹 時短コンサルタント

【プロフィール】
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。(金風舎)』はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。

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