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ジャニーズ事務所は喜多川氏の性加害を認めた。

そんな情報は出ていない、一体どこの情報か? と驚かれそうだが、ジャニーズ事務所は5月26日に公式リリースを出した。

これは14日に公表された謝罪動画と公式コメントに続く、ジャニーズ事務所によるリリースの第二弾となる。このリリースでは相談窓口の設置、社外取締役の就任、そして再発防止特別チームの設置が報告されている※。すでに各種メディアで報じられているため目にした人も多いだろう。

※参照 「心のケア相談窓口の開設」 「外部専門家による再発防止特別チームの設置」 「社外取締役」についてのお知らせ ジャニーズ事務所公式リリースより 2023/05/26

事実確認をせずに再発防止と言われても意味が分からない、人選は適任なのか? なぜこの人なのか? など、すでに多数の批判が寄せられている。筆者もジャニーズ事務所が設置した窓口に相談したい人はいるのか?と疑問を感じた。

大きな情報は無いと思って確認が遅れていたが、改めて26日のリリースを見ると「再発防止」のワードが多数踊っており、7回も再発防止と書かれている。

事実確認が先という批判はその通りだが、「再発防止」という言葉をこれだけ使っているのなら、少なくとも性加害の再発を防止すべきと考えている事は伝わる。

そして「再発を防止する」ということは、すでに性加害の発生を前提としている。「まだ起きていないこと」の「再発防止」はできないからだ。リリース全体を見ても性加害が事実であれば、という但し書きも一切ない。

以下のように「ガバナンスをはじめとした社内の事実関係を確認の上で」という、何を指しているのか極めて不明瞭な説明もあるが、これが性加害を指しているとは到底読めない。

『このチームはガバナンスをはじめとした社内の事実関係を確認の上で、再発防止に向けた弊社への提言を行います。』

そもそも性加害が無ければ防止すべき「再発」も存在しない。「調査チーム」であれば事実関係を確認する、性加害が起きたかどうかまだ分からない、というこれまでのスタンスに変化は無いが、「再発防止特別チーム」の設置であれば、これまでのスタンスと明らかに変わっている。

社外取締役の役割にも「コンプライアンス遵守、再発防止策の確実な遂行を含めた経営体制の改善と強化」と再発防止策について極めて強い表現が使われている。ジャニーズ事務所にとって「再発防止策」の実行はすでに確定した経営判断であることは間違いない。

つまりジャニーズ事務所は、性加害を明確に認めていることになる。

筆者はこの深刻な問題をネタにして言葉遊びをしたいわけではない。性加害を認めたとしか読めない、読みようがないリリースを出してしまうジャニーズ事務所の壊れたガバナンスが、リリースにそのまま表れているということだ。

上記のように26日に公表された公式リリースはもちろん、14日の公式リリースも改めて確認をすると矛盾だらけであまりにボロボロであることが分かる。14日の時点でいつの間に性加害を認めたのか?と驚くような表記まである。

公表されたリリースの内容は多数報じられているが、文章や問答の矛盾と問題点を詳細に説明・分析しているメディアは見当たらない。ジャニーズ事務所をまともに取材をするメディアが無い状況で、現在手に入る最も重要な資料であるにもかかわらずだ。

筆者はウェブメディアの編集長を10年、経済メディアでの執筆と執筆指導も10年間継続し、広報向けのセミナーも行っている。そんな「文章のプロ」「情報発信のプロ」としての立場から、芸能ネタでも喜多川氏の個人的なスキャンダルでもなく企業の不祥事として、ジャニーズ事務所の公式リリースから読み取れる問題を紐解いてみたい。

■繰り返される矛盾した回答。
14日に謝罪動画と同時に公表した公式コメントでは、BBCの告発番組とカウアン・オカモト氏の告発会見について、「事実であれば」と但し書きをつけた上で「極めて深刻な問題である」「事実確認をしっかり行う」と回答している。

告発は事実か? という問いには問題が無かったとは思っていない、しかし喜多川氏がすでに亡くなっているので確認ができない、事実と認める・認めないと言い切ることは難しいと回答している。以下の通り、これらの回答では事実認定を保留している。


『BBCの番組報道、またカウアン・オカモトさんの告発について、どのように受け止めているのか?
事実であるとすれば、まず被害を訴えておられる方々に対してどのように向き合うべきか、また事務所の存続さえ問われる、極めて深刻な問題だと受け止めました。
あらためて事実確認をしっかりと行い、真摯に対応しなければならないと思いました。』

『BBCの番組報道、またカウアン・オカモトさんの告発は事実か?
当然のことながら問題がなかったとは一切思っておりません。加えて会社としても、私個人としても、そのような行為自体は決して許されることではないと考えております。
一方で、当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、私どもの方から個別の告発内容について「事実」と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではなく、さらには憶測による誹謗中傷等の二次被害についても慎重に配慮しなければならないことから、この点につきましてはどうかご理解いただきたく存じます。
とは言え、目の前に被害にあったと言われる方々がいらっしゃることを、私たちは大変重く、重く受け止めております。』


■謝罪動画の公開時点ですでに性加害を認めていた?
筆者は15日に公開した「ジャニー喜多川氏の性加害疑惑を、企業不祥事の視点から考える」の中で、事実関係についてはゼロ回答と書いた。その一方で批判を多数浴びた、社長である景子氏の「知らなかった」発言には「事実であれば」という但し書きが無い。

これは過去の報道や裁判に関する回答ではない。以下の通り「ジャニー喜多川氏の性加害」を「知りませんでした」とある。この書き方もまた性加害の発生を前提としている。

『ジャニー喜多川氏の性加害を事務所、またジュリー社長は知らなかったのか?
知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした。』


とはいえ重箱の隅をつついても仕方ないと思い、この記事では文面の疑問は一旦横に置くと説明してスルーした。しかし26日のリリースでも事実関係について保留している段階にも関わらず、冒頭で書いた通り但し書きもないまま再発防止を連呼している。

改めて読み返すと14日の公式コメントでもすでに再発防止という言葉が使われている。以下の通り、ここでも「事実であれば」という但し書きは無い。その後には「二度と同じような事態を起こさないためにも」とあり、この時点ですでに性加害を認めている。

認めているように読めなくもない……といった曖昧な文言ではなく明らかに認めている。「今回の件を受け」とあるので別の話をしていることも考えられない。この問答だけを読めば多くの人が「いつの間に認めたの?」と驚くだろう。この矛盾は一体なんなのか。


『再発防止策をどのように考えているか?
再発防止策を講じるにあたっては、初期の段階から弁護士をはじめ、様々な分野の有識者の方々から、会社としての問題点や改善策についてご指摘やご意見をいただいてまいりました。大前提として、私が代表に就任して以降は、エンタテインメント業界という世界が特殊であるという甘えを捨て、コンプライアンスの強化を進めており、「ホットライン(匿名相談窓口)の設置」、未成年に対する「保護者同伴の説明会の実施」、「コンプライアンス教育の実施」、「保護者宅からの活動参加」等を推進してまいりました。しかし今回の件を受け、二度と同じような事態を起こさないためにも、外部からの協力も得ながら「コンプライアンス委員会」を設置しており、これまで以上に取り組みを強化、徹底させてまいります。

さらには、企業のあり方や社会的責任として不安な点がないか、社内外に適切なコミュニケーションが行われているか、また社内の価値観や常識だけで物事を判断していないか等、外部の厳しい目で指摘する役割として、社外取締役を迎え入れて経営体制を抜本的に見直すよう、現在人選、依頼を進めております。新しい社外取締役については、確定次第改めて発表させていだく予定です。』


あえてジャニーズ事務所側の立場で反論を考えると、BBCとカウアン・オカモト氏の告発について「事実であるとすれば」と答えている但し書きがすべての問答に対応している、といった所か。明らかに無理な反論であると同時に、結局はなんで事実確認をする前に再発防止を宣言しているんですか? ということになる。

筆者がジャニーズ事務所の立場でこのリリースを書くとしたら、批判を覚悟で「事実であれば」を連呼する形にする。そして事実関係を認めていない段階で再発防止を強く主張することは完全な矛盾であり、ツッコミどころを与えているだけなのですべて削除をする。

実際は事実確認の前に再発防止チームを設置している時点で文面だけの問題ではなく、小手先で文章を直した所で何も解決はしない。文章に問題があるのではなく、企業の問題が文章に表れているだけだ。

事実認定について認めたり認めなかったりあまりにブレブレで、それにも関わらず再発防止策だけは力強く宣言するという、一体何を言いたくて何をしようとしているのか理解不能だ。結局は事実確認の話を避けようとするあまり支離滅裂な文章になっているということだ。

このように、公開された文章を分析していくだけでも企業の問題点は簡単に浮き彫りになる。

■すべての対応が性加害の発生を前提としている。
再発防止と同時に公表された「心のケア相談窓口の開設」 と 「社外取締役」、これらもすべて性加害の発生を前提としている。14日の公式コメントで「改めて事実確認をしっかり行い、真摯に対応」と、事実関係はまだ不明という立場を取っているにも関わらずだ。

事実確認はこれからというジャニーズ事務所のコメントを受けて、テレビ各局は今後の推移を見守る、今後も出演してもらう、ジャニーズ事務所の対応を見守る、注視したい、と静観の立場を取っている。

しかし事務所の対応もリリースの表現も明らかに性加害の発生を前提としている。

再発防止チームの設置について、事実確認もせずに再発防止なんて誤魔化そうとしているだけ、事実確認をしたくないだけ、という批判を多数目にしたが、仮にそうであれば自ら墓穴を掘ったことになる。

事実確認をします、そのうえで再発防止策に取り組みます、と説明すれば矛盾は一切生じない。前述の通り事実確認を避けることが支離滅裂な説明になっている根本的な原因だ。これもまた文章の問題ではなく企業の問題がそのまま文章に表れている。


後編に続く
→ジャニーズ事務所はテレビ各局から出入り禁止にされるのか?
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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 FP

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2011年にFPのお店、シェアーズカフェを開業。保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・日経DUAL等のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演・取材協力多数。2013年、士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを開設、翌年よりYahoo!ニュースに配信を開始。専門家向けに執筆指導も行う。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。お金より料理が好きな79年生まれ。
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中嶋よしふみ
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