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湾岸タワマンの購入を検討中の伊東夫妻。世帯年収1560万に対して購入予定のマンションは9540万、どちらも金額が大きく判断に迷っている。

前回の相談では家賃と比べて返済額は年間240万も増えるが、住宅ローン減税や保育園の費用が3歳から無料になることで、年間貯金額は350万円から223万円の減少に抑えられることが分かった。

今回は変動金利で借りた場合と私立中に入学した場合に収支はどうなるか、そして高校大学と進学した時点でどうなるか、さらにシミュレーションを進める。まずは伊東さんご夫妻のデータを再度確認したい。

■.伊東さんご夫婦のデータ
●家族構成
夫: 30歳
妻: 32歳
子:3歳

●夫婦の年収と働き方
夫: 会社員(国内大手IT企業)
年収860万 手取り約630万

妻: 会社員(中堅広告代理店)
年収700万 手取り約520万

世帯年収合計 約1560万
手取り合計 約1150万
年間の貯金額 350万

●資産
預金:1,800万
投資(株・債券等の投資信託):540万
企業型DC: 夫 300万 妻200万
その他資産:なし

●現在の家賃
17万

●購入予定の物件
予算:9,540万
管理費等:5.5万
固定資産税:28万
場所:湾岸地域のタワーマンション 93平米 3LDK(中古)

●マンション購入後の収支
年間223万円の貯金が可能
(購入前の貯金額350-支払い増加額240.4+減税42+保育園無償化72=223.6)


中嶋:まずは質問を頂いた変動金利の収支を計算しますね。違いは固定との差額だけですから、返済額は月5.1万、年間で61.2万円少なくなります。なので年間の収支は+223.6万から+284.8万とかなり改善されます。これも毎年の貯金額を基準に収支を計算する「バッファー」で考えます。 
バッファー1
バッファー2
バッファーの図・固定金利と変動金利の比較。

中嶋:住宅ローン減税も変化は無いので、10年後の金融資産は固定金利で計算した4750万円に612万を足して5362万円です。もちろんこれは金利変動が10年間無いと仮定した場合のシミュレーションですが……。あとはローンの残高も変わります。金利が低いので返済は固定金利より早く進みます。変動金利のケースもバランスシートを作りますので……固定金利で作ったバランスシートをコピペして数字を変えて……こんな感じになります。
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購入から10年後のバランスシート、固定金利と変動金利の比較

中嶋:マンション価格の1000万マイナスはテキトーです(笑)。10年後のマンション価格は10年後の日経平均と同じで予想ができませんので。返済のスピードより価格下落は大幅に遅いと仮定してます。バランスシートで比較すると、変動金利のケースは固定金利より貯金が多くて残債も少ないので、10年後の自己資本、純資産は1000万も多いことが分かって頂けると思います。

夫:これも金利が上がらなければ、ということですよね。

中嶋:おっしゃるとおりです。変動金利と固定金利の違いは損得の違いではなくリスクの違い、という説明になります。購入後は1年に1回、実際にバランスシートを作って資産と負債の差額、実質的な資産、企業で言う純資産、自己資本ですね。それを計算するようにしてください。住宅ローンがあると実質的な資産が増えているか分かりにくくなってしまいますので。企業と同じで自己資本は右肩上がりが理想です。バランスシートの作り方は……。

夫:学生時代に簿記三級の資格を取ったので分かります。大丈夫です。家計でバランスシートを作る発想はなかったんですけどこの形で見ると超分かりやすいですね。

中嶋:バランスシートを読める人はそうだと思います。企業のバランスシートは複雑な数字をシンプルに表すのが目的ですから。お二人ぐらい金融資産が多くて、ローンも多くてマンション価格も高くて、となると収支だけではなく資産と負債の側面から見る必要が出てくるんですね。企業分析はPLとBSをセットで見るのが基本ですけど、それは家計も同じです。

中嶋:あとは団信ですね。団信の特約は金利0.2%上乗せで計算するとお二人合計で月9000円、年間で10.8万円くらい。年間の収支が10万円悪化する程度ですから。そんなに大きな変化ではないですね。安くありませんけどこれは二人分なのと、3大疾病特約でしたらガンとか脳卒中、心筋梗塞でローンがチャラになります。団信の特約は保障が手厚くて非常にお得ですから入った方が良いと思います。今入っている生命保険に団信と特約、これだけ入れば保障は十分過ぎるという感じですね。

妻:団信の特約、あまり考えて無かったんですけど二人で月9000円ならそんなに多くはないと思いました。

■私立中の進学で家計はどうなる?
中嶋:私立中への進学については、塾の費用と学費ですね。これはもうピンキリということになりますけど、例えば受験対策に小四から塾に通わせて年間50万、三年で150万、という事であればさきほどの10年後の金融資産から150万を差し引けば良いだけです。

実際に私立中学に通う場合ですが、目安としては学費で年間100万の上乗せです。もっと高いところも安い所もありますけどさすがに通わせたい中学はまだ決まっていないと思いますので。固定金利の収支で考えると、+223.6万から100万円減らして+123.6万になります。

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私立中に通う場合のバッファーの図

夫:それくらいは見ておかないと、という感じですよね。

中嶋:私立中の次の変化は購入から13年後、お子さまが16歳で高校生になる頃ですね。このタイミングで住宅ローン減税が終わるのでバッファーに載せていた+42万が消えます。

ーーこの夫婦の場合、住宅ローン減税の終わるタイミングと子どもの高校進学のタイミングがおおむね重なる。

東京都の高校生は来年度から学費が実質無償化される方針だ。無償化と言われているが完全無料ではなく、高所得者にも年間47.5万円が補助される予定となっている。これは同時期に終わってしまう住宅ローン減税の42万とほぼ同じだ。

そこで私立高校の学費が私立中と同じく年100万円かかるとやや多めに想定しても、減税額が消えた分は補助金で穴埋め出来る。したがって中学時代と同じく、高校に通う時期も家計の収支は+120万円くらいを維持出来ると想定して問題無いだろう。

高校卒業時点のバランスシートも作成した。購入から10年後の金融資産は4750万円と試算したが、中学・高校と収支は年間で+120万と仮定、企業型DCは夫婦で年間+42万、6年間で972万円が上乗せされる。結果として金融資産は5564万円となる。住宅価格は10年で1000万円下落させたが、同じ状況が続くと仮定して1年あたり100万円、6年で600万円引き下げた。
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16年後、高校卒業時点のバランスシート

妻:ニュースで無償化は知ってましたけど、シミュレーションに組み込むとこんな感じになるんですね。金銭的にかなり助かります。

中嶋:もちろんこれも13年後まで続いていれば、という前提です。あとは大学の話もしちゃいますが、私立だと学費は年間100~150万円くらいですかね。大学卒業時点のバランスシートも作りますので少し待ってくださいね……。

ーー私立の大学費用は入学金も含めると高いところでは4年で700万円くらいになるため、大学生の時期は収支がゼロかマイナスになるかもしれない。しかしこれは4年間だけの一時的なもので、それまで+100万円以上の収支を維持できるのであれば問題は無い。

1年あたり50万円のマイナス、4年間で200万円のマイナスと仮定した。所得制限で奨学金は使えないが、この夫婦ならば貯金額の多さを考えると収支がマイナスで貯金を取り崩しても不安になる必要はないだろう。
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20年後、大学卒業時点のバランスシート


中嶋:こんな感じになります。お子さまが大学を卒業した時点で金融資産は5564万、ローン残高は4705万。この時点で金融資産がローン残高を1000万も上回っていますから実質的にローンの返済は終わっていると考えて良い状況です。

■住宅購入は働き方の話とイコールである。
妻:ありがとうございます。子どもが大学を出るまでかなり正確に見通しが出来たと思います。

中嶋:実際に生活を送っていけばズレは当然出ますので、その時々で軌道修正をする必要はあると思いますが、バッファーと、バッファーから作成したバランスシートを基準に考えて頂ければ間違いなく指標になると思います。購入の判断だけでなく今後の家計をどうするかの指標です。

妻:やっぱり負担が大きいというか、大きな違いが出るのは教育費の部分ですね?

中嶋:おっしゃる通りです。

夫:あとは二人とも今後ちゃんと稼げるか、いくら稼げるか、ということですよね。

中嶋:ええ、それもおっしゃる通りです。収支のシミュレーションは基本的に収入が横ばいの前提で行ってます。お二人ともまだお若いので今後の収入アップは期待出来ると思いますけど、もちろんそこは確実ではありませんので。極端なことを言うと収入が半減しても世間一般のご家庭と比べればお二人の場合はまだ高い方です。生活が出来なくなることはありません。ただ、そうなってしまえば今お考えのライフプランは実現が出来ませんので、今回のシミュレーションは収入を維持・向上することが大前提ということになります。当たり前の話ですが要するにそこが最大のリスクということです。

夫:そうなりますよね。そこら辺、妻は案外楽観的で、僕は中立からやや悲観的という感じでして。予算が大幅に増えた時点からこれはどうしようかなと。

中嶋:今後の収入の見通しについてですね?

夫:ええ。そんな話も出来たらと思ったんですけど、そこはさすがに中嶋さんの守備範囲外ですよね。

中嶋:雑談レベルの話で良ければ(笑)。的確なキャリアプランのアドバイスを期待されたら無理ですけど、住宅購入の話をすると最後は働き方の話になるんです。10年以上そういう話はしてますので壁打ち的に話を伺う程度でしたらいくらでも。話しながら整理できることはあるのかなと思いますので。

妻:そういう話なら私もぜひ。家を買えば定年まで働くことになりますけど、定年まで働いてる女性社員って上を見てもほとんどいないので、そういう意味では不安は無くもないです。

中嶋:女性が産休・育休を取得して働き続けるのが当たり前になってまだ10年やそこらですから、そうだと思います。奥様の一回り上の世代がトップランナーと考えると、その上に女性がいないのはどの企業でも多分珍しくないと思います。

中嶋:雇用機会均等法が80年代半ばなので、それからまだ40年は経ってないんです。となると新卒で会社に入った人が定年になるかならないか、そんな風に考えると女性が住宅ローンを組んで定年まで働く、というのは先人がほとんどいない、これからの新しい時代の話ということになるんです。

妻:あぁ……そういうことなんですね。時代のうねりというか、歴史を感じます(笑)。私は働くのも夫婦でローンを組むのも当たり前と考えてましたけど、定年まで働く女性の先輩が居ないのは偶然じゃないってことですよね。

中嶋:10年ちょっと前に相談を始めた頃は住宅ローンの返済に見通しが立ったら奥様が働き方をセーブするとか仕事を辞めるとか、そんな話は普通に聞きましたから。だんだん住宅価格が上がってくると今度は「家を買ったら定年まで働くことが確定する」なんて話もよく聞きましたし、今は家を買うご夫婦で仕事を辞める前提の話を聞くことはまず無いですね。

■買っても大丈夫? 家計、保険、運用、老後資金、住宅購入は全ての話と繋がる。
中嶋:相談中に作ったバランスシートとか収支の計算はGoogleドライブで……今共有しておきました。あとは団信と保険の兼ね合い、これは保険の部分でお話ししますね。ぶっ続けで相談をしてしまったので少し休憩を入れましょうか。

妻:ありがとうございます。住宅については今すぐ判断は出来ませんけど、作って頂いたシミュレーションで夫としっかり話し合います。あとは休憩の後でいいので、子どもが大学を出て、その後の話も伺えればと思うんですね。
今回の物件は仮に見送るか先に買われてしまっても、いずれにせよ住宅は近いうちに買いますし、金額も安くて9000万位はかかると思うんです。それだと今回のシミュレーションと金銭的に大きく変わらないと思うので、先ほどの続きとして老後……自分の口から老後って言葉が出て今びっくりしてますけど(笑)。住宅ローンの完済が今から35年後だと老後の資金とか年金とか、全部関係してくると思いますので。

中嶋:ええ、まさにそれなんです。今日も住宅購入の話と言いながら家計と投資と保険、全部の話が出ましたよね。教育費も家計の一部です。で、それに老後と年金も関係してくると。バラバラではなく全部繋がっているといつも説明しています。住宅とか子育ての将来を考えると老後って案外すぐなんです。

夫:妻の口から老後なんて言葉を聞いたのは初めてです。僕もずっと遠い将来の話だと思ってましたから。

妻:中嶋さんから見て買っても大丈夫そうに見えましたか? ここまで高額なマンションだと周りに買っている人も居なくて参考とかお手本も無いもので……。

中嶋:最初は収入に対して予算が高いと思いましたけど、シミュレーションを通じて貯蓄体質の面を考慮すれば大丈夫かなと思いました。お子さまの大学卒業時点で実質的に返済は終わってるという話をしましたよね。そうすると20年後に教育費の負担がなくなって、お二人はまだ50歳と52歳、定年退職を65歳と考えれば老後資金を貯める期間が10年以上ありますから。

中嶋:で、最初の話に戻りますけど、このシミュレーションは節約をせずに、生活費とは別に月21万円のお小遣いを使える前提ですから。カツカツの生活でローンを返すだけの人生、みたいなことにはならないはずです。なので大丈夫かなと。ちゃぶ台返しの話をすると、もっと安い家でも生活は普通にできますから(笑)。あとはお二人の判断に任せます、ということになります。

妻:……そう考えるとなんとかなりそうです。やっぱり私も夫も定年まで働けるかということですよね。

中嶋:ええ、最後は働き方の話になると説明した通りですね。では少し休憩にして、その後に今後の働き方と保険、老後資金の話もしましょう。一旦、お疲れ様でしたということで……。

ーー都心部のマンション価格が高騰したことで億ションクラスの物件はすでに珍しくなくなった。「収入の高い共働き夫婦がペアローンで高額なマンションを買う」という購入プランは、相談でも言及したように、これまでになかった現代ならではの新しいシチュエーション、新しいライフプランだと言える。住宅購入を検討している方は参考にしていただければと思う。

なお、文字数の都合で省いた繰上返済や生命保険、資産運用、老後資金の話はまた別の記事で取り上げたい。

中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー シェアーズカフェ・オンライン編集長

※前回、前々回の記事はこちら。
世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1
世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その2

※筆者はFPとして生命保険や住宅の販売を行わず、住宅ローンも取り扱わず、金融機関や不動産会社のセミナーや広告等の依頼を全て断り、有料相談のみを行うFPとして活動しています。相談・アドバイス・記事執筆にあたってこれらの企業と利害関係や利益相反はありません。

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【プロフィール 中嶋よしふみ】
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2011年にFPのお店、シェアーズカフェを開業。保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・日経DUAL等のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演・取材協力多数。2013年、士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを開設、翌年よりYahoo!ニュースに配信を開始。専門家向けに執筆指導も行う。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。お金より料理が好きな79年生まれ。

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住宅ローンのしあわせな借り方、返し方
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一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人
中嶋よしふみ
大和書房
2016-11-25
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