「今日もオンライン会議続きで、首が痛い……」「毎日のデスクワークで、首や肩がもうガチガチ……」 デスクワークが定着して久しい現在、私たちの体は静かに悲鳴を上げています。肩こりに悩む20~40代でデスクワークに従事する女性500名を対象にパナソニックが行った調査では、肩こりの原因として89%が「PC作業」を挙げています。実に9割近い人が、PCによる不調を訴えているのです。 (参照・肩こりの原因、1位は「PC作業」、7割が「肩こりで仕事効率が落ちると感じる」 RBB Today 2012/02/21) PCだけではありません。スマホを操作する姿勢も首こりや肩こりを引き起こします。いまこれを読んでいる人も、もしかしたらスマホを見下ろしたり、背中が丸まった状態になっているかもしれません。 近年、PCやスマホの操作姿勢から生じる首まわりの不調は「テックネック(Tech Neck)」と呼ばれ、注目されています。単なる首こり・肩こりと放置していると、体のさまざまな部分に不調をきたす可能性がありますし、仕事の効率も大きく下がります。 テックネックはデバイスの選び方や作業環境の見直し、作業の合間のちょっとしたストレッチやエクササイズで対策できます。理学療法士の立場から、テックネックとはどんな不調なのか、またすぐに実践できる対策をお伝えしたいと思います。 ■現代人の新たな不調「テックネック」とは? 実は「テックネック(Tech Neck)」は医学的な病名ではありません。スマホやノートPCを長時間使用することで首が前に突き出た姿勢が続き、首・肩・背中に慢性的な負荷がかかる現象を指す一般的な呼称です。 医学的には「頭部前方位(Forward Head Posture)」と呼ばれるこの状態は、首の自然なカーブが失われ「ストレートネック」を引き起こします。身近な同僚や友人の横顔を観察してみると、頭が前に突き出ている人が意外と多いことに気づくかもしれません。デジタルデバイスが私たちの生活に欠かせない今日、テックネックは現代の新たな「生活習慣病」とも言えるでしょう。 人の頭の重さは約5kgと言われており、ボウリングボールとほぼ同じ重さです。この重さ、正しい姿勢で支えられていれば、さほど問題にはなりません。しかし、頭が前に傾くとどうなるでしょうか? 米国の脊椎外科医Kenneth Hansraj博士の2014年の研究によると、頭が前に傾くと約27kgの負荷が首にかかる、ということが明らかになっています。スマホやPCの画面を見るたびに、あなたの首には通常の5倍以上の負担がかかっているというのです。 (参考・「Assessment of Stresses in the Cervical Spine Caused by Posture and Position of the Head」Kenneth K. Hansraj Surg Technol Int. 2014) 特にノートPCで作業するときには、無意識に画面を見下ろしてしまう人がほとんどです。この姿勢を日に何時間も続けていると、次第に首や肩の筋肉のバランスが崩れていくのは言うまでもありません。 ■テックネックがあらゆる不調の引き金になる理由 テックネックになると、具体的にどの筋肉が影響を受けるのでしょうか? 主に負担がかかるのは以下の筋肉です。 ・僧帽筋(上部線維):肩から首にかけて広がる筋肉で、頭を支えるために常に緊張するため「肩こり」を引き起こしやすいのが特徴です。肩の上部が石のように固くなっていると感じたら、この筋肉からのSOSかもしれません。 ・肩甲挙筋:肩甲骨から首をつなぐ筋肉で、デスクワーク中は頭が固定されることもあり、特にこわばりやすい部分です。首の付け根から肩にかけての痛みを感じたら、要注意です。 ・胸鎖乳突筋・斜角筋群:首の前側にある筋肉で、頭を前に出す姿勢をずっと続けると、ゴムが伸びきったように過緊張状態になります。頭痛やめまいの原因になることもあるので要注意です。 ・頚椎深層屈筋群:首の奥深くにある隠れた筋肉です。姿勢を維持するために重要ですが、崩れた姿勢ではうまく働かず、弱くなるほど表層の筋肉に負担が増えるという悪循環を生みます。 これを見て分かるように、この不調は首だけの問題ではありません。姿勢の崩れ方には個人によって様々なので一概には言えませんが、少なくともデスクワークでの首の前傾は猫背を招き、猫背は骨盤の傾きを変え、全身の姿勢を崩していきます。 やがて頭痛、めまい、耳鳴り、手のしびれまで、あらゆる不調の引き金になりかねません。 ■デスクワークの合間に取り入れたい3つのテックネック対策エクササイズ テックネックは、普段からのちょっとしたストレッチやエクササイズ、作業環境の見直しで対策することができます。デスクワークの合間に取り入れられる、テックネック対策の3つのストレッチ・エクササイズをお伝えします。 (1)首前面のストレッチ(胸鎖乳突筋+斜角筋) 前方に引っ張られて緊張した首の前面の筋肉をゆるめるのに効果的なストレッチです。デスクワークの合間に取り入れ、定期的に首まわりの緊張をほぐす習慣をつけましょう。 ・やり方: 鎖骨を片方の手で軽く押さえながら、顎を反対側の斜め上に向けます。首の前面が伸びているのを感じながら、20秒間キープ。左右で行います。 ・ポイント:押さえている鎖骨と顎を引き合うように行うと、筋肉の伸びを感じやすくなります。少しずつ顎の向きを変え、自分が心地よく伸びる位置を探しながら行うとより効果的です。 (2)首のインナーマッスルトレーニング(深層頸部屈筋) 一見シンプルな動きですが、姿勢の土台強化として効果的なトレーニングです。首のインナーマッスルを目覚めさせ、頭の位置を正しく保つ力をつけていきましょう。 ・やり方: 背筋を伸ばして座り、顎の先端に人差し指を軽く当てます。指の位置は動かさず、顎だけを引くイメージで「首の後ろが伸びる感覚」に注目します。その状態を3~5秒キープし、これを5〜10回繰り返します。 ・ポイント:はじめは「全然動かせない」という人も多いですが、使っている筋肉を意識しながら行うと、少しずつ筋力がついてくるのを実感できます。 (3)胸前面のストレッチ(大胸筋・小胸筋) 首が前に傾くと、自然と巻き肩になってしまいます。その時に硬くなりやすいのが胸の前側の筋肉です。 ここをしっかりストレッチすることで、肩甲骨が本来の位置に戻りやすくなり、テックネックの解消にもつながります。 ・やり方: 壁に片手を当て、体を反対側へゆっくりとひねります。胸から肩にかけて伸びる感覚に集中し、20秒キープ。左右で行います。 ・ポイント:壁に当てた手の位置を少し上下にずらすと、伸びる位置も変わってきます。心地よく伸びる位置を探しながらゆっくりとストレッチしていきましょう。 ■デスクワーク環境で見直すべき3つのポイント 体のケアも重要ですが、デスク環境も一緒に整えることも重要です。PC環境で見直すべき3つのポイントもお伝えします。 (1)画面の高さを「目線の正面」に PCをそのまま使っている人は多いですが、画面の高さの調整は特に重要なポイントです。厚めの本やノートPCスタンドで高さを調節し、画面が目線と同じくらいの高さになるようにしましょう。 現在ではノートPCでも高さを調整できる便利グッズや、外付けのディスプレイも充実してきています。このようなアイテムも駆使しながら自分にあった高さで作業することが大切です。 (2)外付けキーボード・マウスを使う 机と椅子の高さが合わず、相対的に手の位置が高くなってしまうと、肩がすくみ、首や背中の緊張を招いてしまいます。椅子や机の高さの調整が難しい場合は、外付けキーボードやマウスを使い、肘の高さと同程度の位置で操作できるようにするのがおすすめです。 (3)椅子とクッションで骨盤を立てる 作業に夢中になるうちに、骨盤が後ろに倒れ背中が丸まってしまう人は意外と多いです。そんな時は、椅子の背もたれとの間にクッションを挟むだけでも姿勢は大きく変わります。 腰の自然なカーブ(前弯)をサポートすることで、骨盤が立ち、自然と背筋が伸び、首の位置も改善されます。 このように、たとえ作業時間を減らせなくても、環境を整えることで「不調になりにくい姿勢」に近づけることは十分可能です。 ■おわりに 忙しい現代では、つい自分の体のケアを後回しにしてしまいがちです。長時間のデジタルデバイスの使用は避けられない現実ですが、その中でも体を守る方法はあります。今回ご紹介した3つの習慣とデスク環境の見直しで、日常の中で少しだけでも自分の体と向き合う時間を作ってみてください。 木城拓也 理学療法士・整体 ピラティス事業「株式会社理学ボディ」代表取締役社長 【関連記事】 ■「経済損失6兆円」テレワークで深刻化する社員の肩こり・腰痛を放置する経営リスク(木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62210879-20250311.html ■夫の一言が扶養内パート主婦を離職に追い込む―社会保険適用拡大で職場が準備すべきこと(李怜香 社会保険労務士) https://sharescafe.net/62403571-20250605.html ■なぜ?難関資格を取ったのに収入が落ちる人のあるある失敗パターン(横須賀輝尚 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/62386114-20250529.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 ![]() 「最高の技術で世界中を健康に」という理念のもと、“通わせない整体”を目指した理学療法士による整体と、理学療法士監修のピラティススタジオ「ルルト」を展開し海外進出も果たす。現在では日本と東南アジアを中心に140店舗以上を運営している。 公式サイト https://kabushikigaisya-rigakubody.co.jp/ ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |