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近年注目を集める仮想通貨(暗号資産)の活用方法の1つに「レンディング」があります。

レンディングとは、投資家が保有する仮想通貨を仮想通貨取引所やレンディングサービスなどの第三者に貸し出すことで、貸出期間に応じた貸借料(報酬)を得る仕組みです。これは、仮想通貨を貸し出すだけで資産を増やせる可能性があり、中長期的に安定した報酬を求める投資家から注目されています。

しかし、仮想通貨の売買と同様に、レンディングで得た報酬にも税金がかかることをご存じでしょうか。これからレンディングを始める方や、すでに報酬を得ている方に向けて、仮想通貨レンディングの税金に関する基本的な考え方や計算方法について解説します。

■仮想通貨レンディングで得た所得は「雑所得」に区分される
仮想通貨レンディングで得た報酬は、原則として「雑所得」として課税されます。

雑所得とは、所得税法で定められた10種類の所得区分のうち、他のどの所得にも分類されない所得のことです。具体的には、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも当たらない所得が雑所得となります。

通常、銀行預金や国債などで得られる利息は「利子所得」に区分されます。しかし、国税庁の定義によると、利子所得は「預貯金及び公社債の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得」とされています。

したがって、仮想通貨レンディングによる収益は利子所得には区分されません。そのため、他の仮想通貨取引で得た所得と同様に、雑所得に区分されます。

■雑所得の税務上の特徴
仮想通貨レンディングによる報酬が雑所得に区分されることには、いくつかの税務上の特徴があります。

・総合課税で所得が大きいほど税率が高くなる
雑所得は、給与所得など他の所得と合算して税額が計算される「総合課税」の対象です。

所得金額が増えるほど税率が高くなる「累進課税」が適用され、所得金額に応じて税率は5%から45%の間で変動します。さらに、所得税とは別に住民税10%も課税されるため、税率は合計で15%から最大55%になります。

・損益通算は原則不可(ただし雑所得内は可)
雑所得は、他の所得(給与所得や事業所得など)との間で損益通算(利益と損失を相殺すること)が認められていません。ただし、雑所得の範囲内であれば損益通算が可能です。

例えば、仮想通貨の売買で発生した損益や、海外FX取引所の損益(これも雑所得に計上される)と、仮想通貨レンディングの損益は合算して相殺することが可能です。

・損失の繰越控除は不可
仮想通貨取引で発生した損失は、翌年以降に繰り越して所得から差し引くことができません。

これらの特徴を理解しておくことが重要です。

■課税対象となるタイミング
仮想通貨レンディングにおいて、税金が発生する(課税対象となる)のは、仮想通貨を貸し出している時点ではありません。課税対象となるのは、貸借料(レンディング報酬)を受け取った時です。

通常、仮想通貨のレンディング報酬は仮想通貨で受け取ることが多いため、仮想通貨を日本円に換金する前に課税対象となる利益が生じてしまうという点に留意が必要です。

多くのレンディングサービスでは報酬が毎月支払われるため、その報酬を受け取る都度、所得が発生することになります。

■所得金額の計算方法
レンディング報酬として仮想通貨を受け取った場合、その所得金額は、報酬を受け取った時点の時価で日本円に換算して算出する必要があります。

例えば、1 BTCが1,000万円の市場で、レンディング報酬として0.05 BTCを受け取った場合、日本円に換算すると50万円の所得を得たことになります。報酬を受け取った後にその仮想通貨の市場価格が変動したとしても、この報酬による所得金額は変わりません。

レンディング報酬として受け取った仮想通貨を将来売却した場合の「取得価額」も、報酬を受け取った時点の時価となります。この取得価額は、その仮想通貨を売却した際の損益を計算するために必要となります。

■確定申告が必要となるケース
仮想通貨レンディングによる報酬は雑所得となるため、一定の条件を満たすと確定申告が必要になります。

通常の会社員で年末調整の対象となっている方は、仮想通貨など年間の雑所得の合計額が20万円を超える場合は、確定申告が必要になる可能性があります。

また、個人事業主や専業主婦のような方については、本業や仮想通貨以外の収入を合計し、基礎控除である48万円を超えるのであれば確定申告が必要となります。

■貸し出した仮想通貨が返ってこない場合は?
仮想通貨レンディングのリスクの一つとして、サービス提供者の閉鎖などにより、貸し出した仮想通貨が返還されない「貸し倒れ」となるケースが挙げられます。

預けていた仮想通貨が回収できなくなった場合、下記の「法律上の貸倒」または「事実上の貸倒」のいずれかの要件を満たすことで、雑所得の金額を限度として、損失分を貸倒損失として経費にできる可能性があります。

・法律上の貸倒
会社が倒産した場合など、法的に貸付債権の切り捨てが決定した場合や、債務者の債務超過が相当期間続き弁済を受けられないと認められる場合に、債務者に対し債務免除額を書面で通知した場合などに該当します。

・事実上の貸倒
債務者の資産状況や支払能力などからみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合に該当します。

貸倒損失の要件は複雑ですので、実際に貸倒損失として損失処理する場合は、専門家の助言やアドバイスをもらった方が良いでしょう。

■まとめ
仮想通貨レンディングは、保有する仮想通貨を効率的に増やす手法として魅力的ですが、そこで得られる報酬には税金がかかります。

・レンディング報酬は原則として雑所得に区分されます。
・税金は、報酬を受け取った時点で発生します。
・所得金額は、報酬を受け取った時点の時価で日本円に換算して計算します。
・年間20万円を超える雑所得がある会社員などは、確定申告が必要になる可能性があります。
・貸し倒れリスクも存在し、一定の要件を満たせば損失を経費にできる可能性があります。

レンディングで得た報酬の金額を正確に計算し、確定申告が必要かどうかをきちんと確認するようにしましょう。


村上ゆういち 税理士・公認会計士

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【プロフィール】
murakami
新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)、横河電機株式会社、アカウンティングフォース税理士法人での勤務を経て、2020年に村上裕一公認会計士事務所設立。現在は「魔界の税理士」としてSNSやyoutubeでも活躍し、仮想通貨(暗号資産)・NFT・ブロックチェーンゲーム領域を専門とする。

公式サイト https://crypto-cpa.jp/
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YouTube 魔界の税理士ちゃんねる
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