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「静かな退職」が急増しています。

静かな退職とは、仕事にさほど情熱を持たず、自分の職務に対して最低限の責任だけを果たす、かといって本当に退職するわけではない、そんな働き方のことで、元々は2022年にTikTokでアメリカのキャリアコーチが提唱した言葉と言われています。

マイナビが行った「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」という調査によると、20~50代の正社員の実に44.5%が静かな退職を実践しているという結果が出ています。

静かな退職には、精神的なゆとりを得られるというメリットがあります。仕事のプレッシャーに追い詰められている時にはよい選択かもしれません。しかし、スキルが身に付かず万が一リストラにあった時、路頭に迷うことになりかねないという怖さがあります。

なにより、睡眠時間を除いた平日の4割以上も占める仕事の時間を消極的で受け身の状態で過ごすのは、もったいないと思いませんか?

もちろん、だからと言って、「一生懸命取り組めば仕事は楽しくなる」という精神論では、静かな退職を実践している人の心には響かないでしょう。

ではどうすればよいのでしょうか? 

この記事では、静かな退職状態の人が少しだけ前向きになれる手段のひとつとして、展示会に行くことを提案します。

突然なぜ展示会?と思われたかもしれません。私は、展示会を活用し企業が売上を伸ばす助言を行うコンサルタントとして活動し、年間250件以上の展示会に行っている展示会オタクです。そんな展示会を熟知する私が思うに、たとえ無関係の人が参加しても興味が湧き、仕事のヒントを得られて、モチベーションまでアップしてしまう……展示会にはそんなパワーと面白さが溢れているのです。

それにしても強引すぎると感じた方も多いかもしれませんが、「大人の社会科見学」としてビールや各種の食品などの工場を見に行くことは、すでにレジャーとして定着しています。展示会への参加もそれに近いもの、と考えていただければさほど違和感はないと思います。

静かな退職当事者はもちろん人事部門の方も参考にしていただければ幸いです。

■なぜ静かな退職者に展示会を勧めるのか?
展示会とは、東京ビッグサイトやインテックス大阪などで開催され、国内外の多数の企業の最新技術や製品が集まるビジネス見本市のことです。自社の製品・サービスをPRしたい出展企業と情報を収集したいビジネスパーソンが3日ほどの間、展示会場に集まり商談や情報交換を行います。

「ものづくりワールド」や「ギフトショー」などが有名で、国内だけでも年間950件以上開催され、多数の企業とビジネスパーソンが参加しています。たとえば、東京ビッグサイトで2025年4月23日(水)から4月25日(金)に開催された「IT・DX・AI総合展」には900社超の出展企業と5万7000人以上の来場者が集まりました。

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なぜ静かな退職者に展示会を勧めるのでしょうか? それは「ちょうどよい」からです。

展示会は、仕事とプライベートの中間あたりに位置します。展示会に行ったことがない方は入場料や入場資格が気になるかもしれませんが、安心してください。事前登録すればほとんどの場合、入場料は無料になります。

事前登録の際に、会社名や部署の入力を求められますが、展示会のテーマと関係が薄くても入場を断られることはあまりありません。「有給を取ってまで行きたくない」と思う方は、「仕事上の情報収集目的で展示会に行きます」と会社に申請してみてください。意外と、業務として認められるケースも多いです。

中には、自己啓発のために半年に1回、業務として何らかの展示会に行くことをすべての社員に義務付けている企業もあります。

しかし実際には、業務というほど堅苦しいものではなく、万博や博物館に遊びに来たような感覚で楽しめるイベントなのです。しかも、主体的に動かなくても、会場をただ歩いて回るだけの受け身の状態で十分に充実した時間を過ごせます。

展示会では、静かな退職モードのままで気分転換ができるのです。

■展示会の3つの効能とは?
展示会に行ってみることの効能は3つあります。一つ目はリラックス効果です。展示会に行けば、職場から離れて、上司も同僚もいない環境で自由に行動できるため心身ともにリラックスして過ごせます。

次の効能として、雑多な情報に大量に触れることができる点が挙げられます。東京ビッグサイトや幕張メッセなどの大規模展示会場で開催される展示会には、少なくとも100社、多い場合は2,000社もの企業が出展しさまざまな商材を展示しています。

展示会場では、ただ何となく歩き回るだけでも、他の空間ではあり得ないほどの大量で雑多な情報をインプットすることができるのです。

スティーブ・ジョブズは「創造性とは点と点をつなぐこと」と表現し、多様な経験を掛け合わせたことでMacの創造的な美しいデザインが生まれたと述べています。

展示会で雑多な情報に大量に接することは、創造性を刺激するのです。

最後の効能は、一覧性です。展示会は、工作機械なら日本国際工作機械見本市(JIMTOF)、食品なら国際食品・飲料展(FOODEX)、ITならJapan IT Weekというように、テーマごとに開催されます。

このように特定のテーマに関連する情報を一度にまとめて見ることができるのです。展示会場を歩き回っていると、ふと目にした展示ブースから自分自身でも気が付かなかった興味を発見することもあるかもしれません。

心理学者エドワード・デシは「自己決定理論」の中でこのような潜在的な興味に気づくことは、「『自律的に何かをやりたい』という感情を呼び起こしポジティブなエネルギーに変換されやすい」と述べています。潜在的な興味への気づきは人を前向きにするのです。

展示会への参加により、リラックスした状態で、雑多で大量の情報に、一度にたくさん触れることで、静かな退職者に前向きな変化を期待できるかもしれません。

■展示会の回り方
展示会を効率的に回るための方法は色々あります。たとえば、来場目的を明確にする、会場マップに興味のあるブースの目星をつけておく、ブースごとの滞在時間を決めておく、などです。

ただ、静かな退職をしている人にそこまで求めると展示会に行く気をなくしてしまうかもしれません。

それでは本末転倒です。ここは一旦、何も考えず、展示会場を心の赴くままに歩くことをお勧めします。

■どの展示会に行けばいい?
展示会の探し方は簡単です。インターネットで、「都道府県+ビジネス展示会」と検索すれば、多くの展示会情報が出てきます。事前登録すれば入場無料の場合がほとんどです。

前述の通り展示会はテーマごとに開催されています。どの展示会に行くか迷う場合には自分自身の仕事と関連のある展示会をお勧めします。

展示会場を歩いていると、「この単語がよく看板に書いてあるなぁ」とか「うちのライバル会社はこんな切り口でアピールしているのか」など色々な発見もあるでしょう。

お勧めの見方は、さまざまなブースのキャッチコピーを見比べてみることです。ブースキャッチコピーとは、展示ブースの上部に掲げる大きな文字のこと。

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にぎわっているブースと閑散としたブースのキャッチコピーでは大きな違いがあります。

せっかくブースキャッチコピーを掲げていても、「世界を元気にする!」とか「誠心誠意対応します」など抽象的なことしか書いていなければ、来場者は立ち止まりません。

にぎわっているブースの多くは、「だれの、どんな悩みを解決しているか?」が一瞬で明快にわかるキャッチコピーを掲げていることに気づくはずです。

このような気付きは様々な場面で応用可能です。たとえば仕事のメールで件名をパっと見ただけで要件がわかるものにする、といった具合です。

■自分と無関係な展示会に参加するメリット。
自分の仕事とまったく関係がない分野の展示会に出向くのもお勧めです。

ヤマト運輸の創業者である小倉昌男氏は、牛丼の吉野家や日本航空の「JALパック」からヒントを得て個人向けの宅配サービスを展開することを思いついたと言います。

異業種の事例はイノベーションの宝庫です。展示会は産業の最新動向や未来が見える大人のテーマパーク。日常業務から離れ、異業種の展示会に身を置くことで、新たな発想が生まれるかもしれません。

イノベーションなどと言うと大仰な話に思えるかもしれませんが、もっと小さなことでよいのです。

たとえば、食品の展示会では試食の後、好きだと感じた味にシールを貼ってもらう、というアトラクションを行っているケースがあります。

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ちょっとした仕掛けですが、自分の嗜好が主流派なのかどうかを知りたいからでしょうか? 来場者は意外と楽しんで参加してくれます。出展者としたら、単に試食してもらうだけの時よりもしっかり味わってもらえますし、試食後の会話も弾みやすいのでビジネスにつながりやすいのです。

この仕掛けを普段の仕事に応用できないでしょうか? 

たとえば、総務部に所属する人が、購入するキャビネットの色を黒か白か迷っているとしましょう。社内ネットワーク上の回覧板で意見を募ってみたものの、ほとんど回答がありません。

こんな時には、このアイディアを取り入れてほしいのです。出入口などの人通りが多い場所に、「どちらが好きですか? お好きな方にシールを貼ってください」と書かれた、黒白2つのキャビネットの写真付きのボードをシールとともに設置しておけば、たくさんの回答を得られるかもしれません。

■静かな退職者と展示会は相性がいい
実は、展示会は反面教師の宝庫でもあります。たとえば、ブースの前でスタッフがビシっと立っているケースがあります。

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本人たちは気合いを入れているのでしょうが、これでは来場者は売り込まれるのが怖くて近づけませんし、そもそもブースの中もよく見えません。

ではどうすればよいのでしょうか? 

スタッフは、ブースを背にして立つのではなく、通路側でブースを眺めておくとよいのです。すると自分とブースの間を来場者が通ります。来場者が自社のブースをチラっと見たその瞬間に、「何か気になりましたか?」と言いながら斜め後ろから来場者に声をかけるのです。

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この例のように展示会には、悪い例や改善すべきポイントもたくさんあります。静かな退職者の中には、悪く言えば一歩引いて冷めた目で、良く言えば周りに流されず冷静で客観的に観察をできる人も多いのではないでしょうか? 

そういう人が展示会に行けば、たくさんの「あら」が見つかるはずです。

ネガティビティ・バイアスという言葉をご存じでしょうか? 

「人間の脳はポジティブな情報よりもネガティブな情報に敏感である」ということを示す心理学用語です。

そして「あら」というネガティブ情報の発見は、脳の注意を強く引きつけ、それに対して「なんとかしなければ!」という改善行動を自然と促進します。これは、危険を回避し生存し続けるために人類が進化の過程で身に付けた能力です。

静かな退職者も「あら」が見つければ、無意識に「どうすればよくなるか?」を考えたくなるはずです。改善策を考えることは、静かな退職状態から少しだけ前に進む行動です。

そんな小さな行動の積み重ねが、主体性や積極性につながるかもしれません。

このように、展示会は、静かな退職者と相性がよい場所です。

静かな退職者が、少しだけ前向きで主体的になるための方法のひとつとして、展示会への参加をお勧めしたいと思います。


清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント

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【プロフィール】
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株式会社展示会営業マーケティング代表取締役。中小企業診断士、展示会営業(R)コンサルタント。奈良生まれ、東京在住。神戸大学経営学部卒。
展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など多くのメディアで取材を受けている。支援実績は1300社を超え、ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没している。NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関して、テレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。 著書の『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得している。

公式サイト https://tenjikaieigyo.com
X(旧Twitter) @tenzikai

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