![]() 目上の人には丁寧で、店員には横柄、そんな人がよくいます。本当の人間力は、相手に利害関係がないときの接し方に現れるのだと、元JALの客室乗務員で現在は人材教育コンサルタントの香山万由理氏は言います。 今回は、社会的地位や役割に関係なく、すべての人に敬意をもって接することの重要性について、『仕事ができる人は、「人」のどこを見ているか(香山万由理・光文社)』から再構成してお届けします。 ■利害関係のない人への接し方で本性が見える あなたの知り合いが、お店の店員さんに対して横柄な態度を取っているのを見たとき、どんな気分になりますか。利害関係のないアカの他人に対する接し方には、その人の本性が表れるものです。 男性4人、女性4人でお食事会をしたときの話です。おしゃれで雰囲気の良いレストランで、お食事もおいしく、スタッフさんは気持ちの良い接客をしてくださって、みなが楽しい気分でいました。「今日、来て良かったね〜」と話していたのですが、幹事のひと言で場の空気が一変。 きっかけは、注文していたワインがなかなか来なかったことでした。満席でしたし、忙しいから忘れちゃったのかな、と思っていたのですが、そのとき幹事の男性が、ひとりのスタッフさんを呼び止め、怖い顔をしてこう言ったのです。 「おい、さっき注文したワインがまだ来ないんだよ!早く持ってこい!」 スタッフさんは「申し訳ございません!」と平謝りして、すぐにワインを持ってきてくださいました。幹事はさらに「遅えんだよ!」とひどい言葉を浴びせます。この時点で、その場は一気にいや〜な空気に。幹事は、何事もなかったように再び笑顔に戻りましたが、その後は会話も弾まず、場はしらけ気味に。 話はさらに続きます。会も終わり、お会計のときのこと。幹事は「おい!」とお店のスタッフさんを呼びつけ、「会計!」と言って、クレジットカードをトレイの上にポンッと投げ落としたのです。その幹事の男性は、世間的には地位も高く、経済力のある人でした。しかしながら、このようなふるまいをすることで、「私は自分より下と見なしたアカの他人に対しては、粗雑な扱いをする人間です」と自分で公言しているようなものです。本性、見たり!です。 ■社会的立ち位置で人への接し方を変えてはいないか 本当に仕事ができる人は、誰に対しても態度を変えることなく、丁寧に接し、穏やかな対応ができるものです。先ほどの幹事の男性は、利害関係のない他人に対しては、偉そうな態度をとる人でした。そんな人ほど、自分よりも立場が上の人には驚くほど丁寧に接するものです。 私の友人から聞いた話です。友人の知り合いに、ビジネスで成功している経営者がいます。その人をここではEさんと呼びます。 Eさんは勉強会でいつも「経営に関することなら何でも私に聞いてください」とおっしゃるので、多くの人がEさんを尊敬の眼差しで見ていました。私の友人もそのひとりでした。ところが友人は、しだいにEさんに対して違和感を抱くようになったそうです。Eさんの話題は、「〇〇会社の経営者とゴルフに行った」「政治家の××さんと知り合いだ」「今度、△△レベルの人だけを集めて食事会をする」「うちの子どもたちは全員医学部を卒業している」といった話がほとんどだったのです。 最初は、「大活躍している方々と交流されていて素晴らしいな」「お子さんも優秀なんだな」と純粋に尊敬していたのですが、毎回そんな話ばかりが続くので、自分とは住む世界が違うと感じるようになりました。 それでも、あるとき友人は思い切って、Eさんに経営の悩みを相談してみることにしました。すると返ってきた言葉が……、「あなたの事業は、所詮、個人商店と同じだからね」以上。これだけ。「そっか、所詮、私は個人商店なのか……」と友人の落ち込みようといったら……。 さらにEさんがこんなことを話していたのを耳にしてしまいます。「Aさんは、よくしておいてあげたら、うちの会社にとって役立つかもしれない。Bさんは、表面上かわいがっておけば、手先になって動いてくれるよ。面倒くさいことは全部Cさんにやらせればいい」この言葉を聞いたとき、Eさんがビジネスの世界でうまく渡り歩いてきた理由がわかったそうです。世の中きれいごとだけではやっていけませんから、こういう世渡りもときには必要なのかもしれません。 しかしながら、ひとりの人間として接したとき、Eさんの本性を見抜く人は必ず出てくるはずです。売上げや規模といった目に見える部分からすると「すごい」ということになりますが、見えない部分では、他人を自分にとってメリットがあるかないかで判断している。私の友人だけでなく、Eさんの〝化けの皮〞はすでに剝がれつつあります。 ■CAは「区別」はするが、「差別」はしない 飛行機には、大きく分けて、ファースト、ビジネス、エコノミーの3つの座席クラスがあります(プレミアムエコノミーというものもありますし、航空会社によって呼び方に多少の違いはあります)。よく勘違いされるのですが、ファーストクラス専門のCAというのは存在しません。JALでは、すべてのクラスのサービスが支障なく行えるように、段階を追って教育しています。 新人は国内線から乗務をスタートし、その後、国際線のエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスと、順に訓練を受けていきます。行きと帰りで担当する場所も変わるため、ファーストクラス専門というのはないのです。 また、ファーストクラスのお客さまには手厚いサービスをするのに、エコノミークラスのお客にはおざなりなサービスしかしてくれないのでは?と思われている方も中にはいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。クラスの違いというのは、ハード面にあります。 たとえばファーストクラスのお客さまは、その分の料金をお支払いになり、その空間を購入しています。ですから、シートの設えも違いますし、お酒の種類も豊富です。お食事はコース料理ですし、その他にも様々なお食事のご用意があります。化粧室に置いてある化粧品も高価なものであったりと、あらゆるアイテムがファーストクラス仕様になっているのは事実です。飛行機は、同じ空間をカーテンで仕切り、その中にそれぞれのクラスがあります。 また、クラスによりシートの大きさも席数も異なりますので、一人のCAが接客をする人数も違います。エコノミークラスは、お客さまの人数も多いので、一人のCAが担当するお客さまの数も40〜50人になることもあります。どこの空間を購入するかによって、提供するアイテムや設え、サービス内容が異なるだけのことです。そこに「区別」はあっても、「差別」はありません。ファーストクラスのお客さまだから満面の笑みでサービスするだとか、エコノミーのお客さまだから気を配らないといったことはもちろんありません。 お客さまに対するエネルギーや心づかいは同じです。どのお席であろうと、お客さまが快適に過ごしていただけるよう心を配りますし、どんなお客さまにもたいせつに接します。世の中の商品やサービスも同様です。金額によって受けられる「サービスの内容」が異なるのは「区別」です。しかしながら、金額によって「対応」に違いが出てしまうのであれば、「差別」です。これが、「区別」と「差別」の違いです。「対応の質」まで変えてしまうと信頼を根こそぎ失いかねません。 仕事ができる人は、この違いをしっかり認識した上で対応しているのです。 香山万由理 一般社団法人ファーストクラスアカデミー代表理事/人財教育コンサルタント 【関連記事】 ■閑古鳥が鳴く病院を一気に大繁盛させた会話のコツ (香山万由理 元国際線CA・人材教育コンサルタント) https://sharescafe.net/62444933-20250702.html ■CAがやっている、好印象をもたれる視線配りの技術(香山万由理 元国際線CA・人材教育コンサルタント) https://sharescafe.net/62444500-20250701.html ■ビジネスでは人柄より人あたり。JALで教わった「心をつかむ挨拶」3つのポイント (香山万由理 元国際線CA・人材教育コンサルタント ) https://sharescafe.net/62444478-20250623.html ■「人あたりの良い人」は何が違うのか?元JALのCAが教える第一印象を制する方法 (香山万由理 元国際線CA・人材教育コンサルタント) https://sharescafe.net/62444364-20250625.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html 【プロフィール】 香山万由理 一般社団法人ファーストクラスアカデミー代表理事/人財教育コンサルタント 接遇・ホスピタリティ教育の専門家、人財教育コンサルタント。立教大学卒業後、JAL日本航空に入社。国際線CAとして10年半乗務。在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング会社「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修実績。リピート率97.2%。「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りを実現。航空機事故の解説として、テレビ朝日「グッドモーニング」「羽鳥慎一のモーニングショー」、フジテレビ「イット」等、メディア出演。JCAA日本キャビンアテンダント協会理事を兼任。航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事。また、高野山真言宗僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。 公式サイト https://first-class.academy/ Instagram : @mayuri.kayama ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |