![]() 今回は、ひらめきが起こるプロセスと、そのための最初の準備として必要なことについて、『いつもひらめいている人の頭の中(島 青志・幻冬舎)』から再構成してお届けします。 ■ひらめきに必要な2つの知識 ひらめきのプロセスは次の4つから成っています。 〈準備〉ひらめきの材料をインプットする 〈孵化〉無意識の力を強化する 〈ひらめき〉ひらめき! の瞬間 〈検証・フィードバック〉失敗の発見と研磨 これはポアンカレから100年にわたる研究を経て、現在の脳科学でも裏付けされたプロセスです。このプロセスを踏むことで、誰でもひらめきを得ることが可能です。 ひらめきや創造性に必要な知識について、私たちはどのように考えるべきでしょうか。 ジェームス・W・ヤングは、『アイデアのつくり方』の中で、私たちが身につけなければならない知識には2種類あると述べています。専門的な知識と一般的知識です。 専門的な知識とは、アイデアそのものに関する知識のこと。新製品や新たなサービス、あるいは新しいビジネスモデルを考える際には、業界やその分野の最新技術についての知識が必要なのは言うまでもありません。 生成AIに関する新しいサービスを立ち上げようと思ったら、当然今の生成AIに関する技術的な知識や、今の生成AIビジネスに関する知識を得ていなければ、話にならないのは当然です。 このような専門知識に加えて、一般的知識を身につけることの大切さもヤングは強調しています。 「私がこれまでに知り合った真にすぐれた創造的広告マンはみんなきまって二つの顕著な特徴をもっている。第一は、例えばエジプトの埋葬習慣からモダン・アートに至るまで、彼らが容易に興味を感じることのできないテーマはこの太陽の下には一つも存在しないということ。人生のすべての面が彼には魅力的なのである。第二に彼らはあらゆる方面のどんな知識でもむさぼり食う人間であったこと」 (『アイデアのつくり方』より) 専門的な知識と一般的な知識の両方が組み合わさることが、ひらめきのためには必要であるというのがヤングの主張するところです。 ■食べなければ卵は産めない ひらめきや創造性のためには、脳のリミッターを外すことが大事ですが、これはアウトプットだけでなくインプットにも言えることです。 私たちの脳はインプットされた情報に対し、感情というラベルを貼っていますが、「興味がある」「関心がある」というラベルが貼られた情報が脳に残り続け、これが「ひらめきの種」となって、私たちの創造性が育まれます。 有益な(身体に良い)知識を、興味や関心を持って(美味しく)取り入れることが、ひらめき(素晴らしい卵)を生み出すことになるのです。 ひらめきや創造性に関して、よく「0から1を生み出す」という言葉が使われます。しかしこれは誤解を生む表現だと思います。私たちも両親という存在があって生まれてきたように、この宇宙にあるどんなものも、何もないところからは生まれません。 ヤングも、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と述べています。何もないところから突然アイデアが湧き出すわけではなく、ひらめきは、私たちが日々触れている知識や経験がもとになっているのです。 ジグソーパズルを組み立てるときもそうでしたよね。パズルのピースはすでに手元にあり、それをどう組み合わせるかが完成のためのポイントでした。 村上春樹さんも『職業としての小説家』で、こう述べています。 「イマジネーションというのはまさに、脈絡を欠いた断片的な記憶のコンビネーションのことなのです。あるいは語義的に矛盾した表現に聞こえるかもしれませんが、『有効に組み合わされた脈絡のない記憶』は、それ自体の直観を持ち、予見性を持つようになります」 スピルバーグ監督の「E.T.」で、E.T.が物置のがらくたをひっかき集めて宇宙との通信装置をつくったシーンに喩えて「E.T.がひょっこりやってきて、『悪いんだけど、君の物置の中のものをいくつか使わせてくれないかな』と言ったときに、『いいとも、なんでも好きに使ってくれ』とさっと扉を開けて見せられるような、『がらくた』を常備」しておくことが、物語を書く原動力となるそうです。 このように、私たちはすでに持っている知識や経験というピースをどう組み合わせるかを考えることで、斬新なアイデアをひらめくことができるようになるのですね。 ■イノベーション:新結合の本質 このことは、経営の分野でよく使われる「イノベーション」という言葉の意味にも通じます。イノベーションの和訳として「技術革新」という言葉が使われます。しかしこの言葉を提唱したとされる経済学者のシュンペーターは、技術だけではなくもっと広くこの言葉を捉え、イノベーションとは「New Combination(新結合)」のことであると述べました。 この「新結合」とは、既存の知と知を組み合わせて新しいものを生み出すことです。 最近のイノベーション製品と言えば、iPhoneを筆頭とするスマートフォンが思い浮かびますが、これは携帯電話とPCの組み合わせですよね。 実を言うと、スマートフォンに関しては、日本の携帯電話会社もかなりのところまで実現していました。NTTが開発したiモードは、アップルよりかなり早く(1999年)からスタートしています。そういう意味では日本の携帯業界が、今のアップル製品のように世界を牽引していてもおかしくない状況だったのです。 しかしながらiPhoneに負けてしまったのは、よく言われるようにスティーブ・ジョブズの才覚もあるかと思いますが、当時のアップル自体が持っていた既存の知の力も大きかったからでしょう。アップルには、マックのコンピュータや、「早すぎた携帯情報端末(PDA)」と言われたNewton、そしてiPodという技術やビジネスの経験値があり、そういった既存の知をうまく組み合わせたのが、ジョブズだったと言えるのかもしれません。 現在、世界を席巻している生成AIも同じことが言えます。 AIチャットボット自体はかなり昔からあり、コールセンターでの顧客のやりとりなど に活用されてきましたが、あくまで限られた用途でしか使えなかったものです。 2022年秋に登場したChatGPTは、この既存のAIチャットボットに、Googleのエンジニアたちが開発した「トランスフォーマー」という機械翻訳技術、そしてOpen AIの技術者が発見した「スケーリング則」を組み合わせたことが、ブレークスルーとなって生まれました。 スケーリング則が発見される前は、AIのモデルを大きくしていくと、過学習という現象が起きて性能が下がると言われていました。 「スケーリング則」を一言で言うと、「中途半端にモデルを大きくするのではなく、もっととてつもなく大きくして、無数の言葉同士を組み合わせられるようにすれば、性能は良くなるのではないか?」というシンプルな考え方です。 この考え方で、「たくさんの言葉をインプットさせて大きな言語モデルをつくれば、言葉の新たな組み合わせが生まれて、高性能な言語AIをつくることができる」ということがわかったのです。 ダイソンの掃除機や、Airbnbなど画期的な商品・サービスは、既存の知、仕事場や身の回りにあるものの組み合わせでできています。必要なのはインプットの量を無理やり増やすことではない。その組み合わせ方を考えることです。 島青志 イノベーションデザイナー/ブルーロジック株式会社 代表取締役/経営コンサルタント 【関連記事】 ■アルキメデスの「ユーレカ!」の瞬間、頭の中で起こっていたこと―ひらめきのプロセス(島青志 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/62456833-20250628.html ■AIとプロ棋士では囲碁のやり方がまるで違う――私たちが決断を直感に頼っていい理由 (島青志 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/62444972-20250702.html ■AIの数百万倍も優秀な私たちの脳。活用のコツは考えすぎないこと? (島青志 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/62444963-20250701.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 ![]() 島青志 イノベーションデザイナー/ブルーロジック株式会社 代表取締役/経営コンサルタント イノベーションデザイナー。アート、デザイン、システム論を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供するブルーロジック株式会社代表取締役。リゾートホテル業や会計事務所で接客や経営に携わった後、インターネット業界へ転身。インターネットベンチャーやネット広告会社で新規事業を数多く立ち上げ、2010年に独立。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。著書に『熱狂顧客のつくり方』『ソーシャルメディアの達人が教えるリンクトイン仕事革命』。 公式サイト https://blurlogic.jp ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |