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アートとビジネスは一見すると関係が無いように思えますが、実際には密接なつながりを持っています。特に、ビジネスに必要なひらめきは「美意識」によってもたらされているのです。

今回は、ひらめきと美意識、アートとビジネスの意外な関係性について、『いつもひらめいている人の頭の中(島 青志・幻冬舎)』から再構成してお届けします。



■美(アート)と狩り(ビジネス)では脳の同じ部分が活性化する
フランスのラスコー洞窟やスペインのアルタミラ洞窟など、世界のさまざまな洞窟で「壁画」が描かれていたのはご存じだと思います。

古代石器人は猛獣と闘いながら狩りを行い、食料を得て洞窟で家族と暮らしていました。そして彼らは洞窟の壁にさまざまなアートを描きました。

ところで、彼らはなぜ洞窟の中でアートを描いたのでしょうか。

イスラエルのテルアビブ大学の研究チームが2021年に発表した論文は、石器人は万物とつながるために絵を描いていたと結論づけています。

研究者たちが長年不思議に思ってきたことは、こういった壁画の多くが、なぜ洞窟の奥深くの真っ暗な場所で描かれたのかということでした。

洞窟の奥は光が入らないばかりでなく、酸素の濃度も低い。そういう場所で火を焚いて絵を描いていれば、低酸素症で幻覚や臨死体験、体外離脱などの感覚をもたらします。

これは薬物の服用時とも非常によく似た感覚であったろうというのが研究チームの考えです。

そういうとき古代のアーティストたちは、宗教のイニシエーションと同じで、万物とつながり、永遠の命を授けられた気になったのではないでしょうか(実際には酸欠や一酸化炭素中毒などで逆に命を落としかねない、非常に危険ですすめられない行為ですが)。

つまり古代の人たちにとっても、狩りをして食料を得ることも、アートを描くことも生存本能に基づいた生き続けるための行動であり、永遠の命を求めての行動だったのでしょう。

そしてどちらも自分の命を落としかねない危険な行為であることも、もちろん彼らは知っており、そのような中で「創意工夫」の考え方も身についていったのではないかと考えます。

アートとビジネスは一見全く異なる活動のように思えますが、脳科学的にも共通点を見つけることができます。

私たちがビジネスで頑張り、特に成果を上げているとき、脳の前頭葉にある「内側眼窩前頭皮質」が活性化します。この部分は、前章でも述べた攻撃行動をコントロールする役割を持つ領域です。

そして、この内側眼窩前頭皮質は、絵を描くなどのアートの活動においても同様に活性化します。

アートとビジネスは異なるように見えて、その根底には共通する脳のメカニズムがあるのです。

画家がキャンバスに向かうとき、その心の中には「どのように表現すれば自分の思いを伝えられるか」という問いがあり、それを解決するために創造的なプロセスを経ています。この過程で、過去の経験や感情を統合しながら新しい表現方法を探り出します。

一方ビジネスでも、成功するためにはアイデアを組み合わせ、新しい価値を生み出す必要があります。このプロセスで脳の同じ領域が活性化するのです。

アートもビジネスも「生き続けるために新しい何かを生み出す」という点で共通しており、その際に脳が同じ反応を示すのは理にかなっています。

古代から現代まで、アートとビジネスは密接な関係を持ちながら、人類とともに進化の歴史を刻んできたと言えそうですね。

■美意識によってひらめきは起こる
最新の脳科学研究でも「美」はホットトピックです。

2004年、ロンドン大学のセミール・ゼキ教授らによって、「神経美学(Neuroaesthetics)」という脳科学研究の新たなジャンルが生まれました。

それからわずか20年で、この分野は世界で広がりを見せています。最新の脳計測技術(fMRIやPETなど)を駆使して、科学としての「脳(神経)と美」についての研究が進んでいます。

私たちが「美」を感じるときに、内側眼窩前頭皮質が活性化されていることも、ゼキ教授の研究から明らかになりました。一方で、100年以上も前から、ひらめきや創造性は「美」と深い関係にあることも知られています。

「三体問題」や「ポアンカレ予想」など、数々の数学的発見を行ったことで知られる数学者のアンリ・ポアンカレは、1908年に刊行された『科学と方法』(岩波文庫)の中で、ひらめきや創造性というのは、「知の美しい組み合わせ方」であると述べています。

私たちが新しいアイデアを創り出したり、新しい発見を行ったりすることは、何もないところから生み出しているのではなく、私たちが今まで蓄えてきた(インプットされた)知識を、脳が最適な形で組み合わせることによりなされています。

ここでいう「最適な形」を脳がどのように判断しているかというと、これが「美意識」であるとポアンカレは述べたのです。

その内容は、囲碁や将棋の話とも同じです。

つまり、陣形が最も美しくなるような場所に、棋士が石や駒を置くように、数学の知識の断片が、頭の中で美しく配置されるときが、新たな数学的発見が行われるときである、と。

■ポアンカレの「ひらめきのプロセス」
これは、ジグソーパズルを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。あなたの頭の中には、図のようなピース(知識の断片)があるとします。
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このような8ピースのパズルでも4万通りの組み合わせがあり、これを片っ端から試そうとしたら、1パターンを1秒としても11時間以上かかります。

でも実際には、私たちは数分もあれば、このパズルを解けるのではないでしょうか。

このパズルは、全部同じ長方形ですので、私たちはその絵を見ながら、どう並べれば最も美しく見えるかという基準でピースを置く場所を選んでいるはずです。

ピースを間違った場所に置くと、美しいものにはなりません。

ジグソーパズルの最後のピースが埋まって美しい絵が完成したときが、まさに「ひらめき」の瞬間であり、そのピースがはめ込まれた「カチッ」という音が「ひらめきの音」なのです。

そして、この完成した絵が正しいかどうかを、実際のものと比較したり、周りの人に見てもらったりなどの方法で検証します。

これが、ポアンカレが考えた「ひらめき」の流れです。
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まず必要なピースを集める準備の段階がある。囲碁や将棋のルールを覚えたり、数学の知識を学んだり、練習や経験を積む段階です。

次に、そのピースを組み合わせる段階。卵の中で最初はどろどろの状態だったものが、だんだんひな鳥として形成されるような孵化の段階。私たちはここで「美」を手がかりにピースの場所を定めます。

そしてラストの1ピースが正しく嵌まるひらめきの段階。

最後に、それが本当に正しいか検証する段階があります。

1908年の『科学と方法』の中でポアンカレは、ひらめきや創造は、この「準備」「孵化」「ひらめき」「検証」というプロセスで行われると述べました。

このポアンカレの考えは、その後1937年、コロンビア大学のキャサリン・パトリックが100人のアーティストを集めて行った実験で検証され、アーティストが創造的な活動を行う際にも、この4つのプロセスを踏んでいることが示されました。

また米国の大手広告会社の重役で、The Ad Council(日本の公共広告機構ACが見本にした団体)の初代会長を務めたジェームス・W・ヤングは、1940年にポアンカレのプロセスを基に『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)という小冊子を出版して、これは日米で現代も版を重ねているロングセラーとなっています。
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島青志 イノベーションデザイナー/ブルーロジック株式会社 代表取締役/経営コンサルタント

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【プロフィール】
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島青志 イノベーションデザイナー/ブルーロジック株式会社 代表取締役/経営コンサルタント

イノベーションデザイナー。アート、デザイン、システム論を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供するブルーロジック株式会社代表取締役。リゾートホテル業や会計事務所で接客や経営に携わった後、インターネット業界へ転身。インターネットベンチャーやネット広告会社で新規事業を数多く立ち上げ、2010年に独立。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。著書に『熱狂顧客のつくり方』『ソーシャルメディアの達人が教えるリンクトイン仕事革命』。

公式サイト https://blurlogic.jp

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