![]() 「気合不足」や「年齢のせい」と軽く捉えてしまいがちだが、実はその不調の原因は「隠れ熱中症」”かもしれない。熱中症というと屋外にいるときになるイメージがあるが、クーラーの効いたオフィスのなかでも注意が必要だ。 熱中症は放置すると重症化しやすく危険だが、早期に対処すれば改善する可能性が高いものでもある。だからこそ、夏の不調を感じた際には、熱中症の可能性も考慮に入れて対応することが重要となる。 この記事では、ビジネスパーソンの夏のパフォーマンスを下げる「隠れ熱中症」のリスクと、オフィスでもすぐにできる気軽な対処法を紹介したい。 ■「隠れ熱中症」とは? 隠れ熱中症は、正式な医学用語ではない軽度の暑熱ストレスによる体調不良を表す俗称であり、医学的には「熱疲労」や「I度熱中症」に相当する。 日本救急医学会の最新ガイドラインでは、熱中症はI度(軽症)からIV度(最重症)に分類され、I度は「水分補給と涼しい場所での休息により改善する軽度の症状」とされている。つまり、隠れ熱中症は熱中症の初期段階だ。 「隠れ」という言葉を使ったのは、明確な自覚症状がないままに認知機能や判断力の低下が起こるからだ。隠れ熱中症には、他にもこのような特徴がある。 ・軽度の脱水や深部体温の上昇が関係している ・倦怠感、注意力の低下、軽い頭痛やめまいが現れることもある ・「年齢のせい」「寝不足だから」として見逃されやすい 特に、よくある寝不足や倦怠感などの不調と混同されやすい点には注意が必要だ。寝不足や倦怠感であればそこまで緊急性は高くないが、熱中症は放置すると重症化しやすい。 夏、特に一日のなかでも気温が高くなる午後にぼーっとするなどの不調を感じたら、熱中症かもしれないと思って対処することが重要だ。 ■隠れ熱中症のサインは「思考スピードの低下」 睡眠不足やストレスとの見分けが難しい隠れ熱中症だが、特徴的なサインがいくつかある。 ・ 午後(14時〜16時)に症状が悪化する ・涼しい場所での休息で比較的早く回復する ・ 7月中旬〜8月にかけて症状が顕著になる ・暑い日が続くほど、影響が累積する また、近年の研究によれば、暑さによる認知機能の低下はミスの増加ではなく、思考のスピードの低下として現れることも示されている。これは他の要因とは明確に異なる特徴である(参考:Krebs, B. (2024). Temperature and cognitive performance: Evidence from mental arithmetic training. Environmental and Resource Economics, 87(7), 2035-2065.)。 ■空調の効いたオフィスでも「隠れ熱中症」になる3つの理由 「空調の効いたオフィスにいる自分には関係ない」と思うかもしれないが、実はクーラーの効いた部屋でも隠れ熱中症のリスクはある。 海外の大規模研究では、屋外の気温が一定の閾値を超えると、屋内が涼しくても、外気温の上昇に伴い認知パフォーマンスが段階的に低下することが報告されている(参考:同上)。 それというのも、隠れ熱中症は少しの脱水や温度差の影響で起こるからだ。 <暑さで頭が働かなくなるメカニズム> 1. 軽度脱水による脳機能の低下 体重の1〜2%の水分が失われるだけでも、注意力や処理速度が低下し、数歳分の加齢に匹敵する影響が出るとされている。脱水により血液が濃くなり、脳への血流が減少することが主な要因となる。 2. 深部体温の上昇による“脳のオーバーヒート” 冷房環境でも、温度差や湿度の影響で体の熱がこもると、脳の情報処理能力が鈍化してしまう。特に判断力や集中力を担う前頭葉は、体温変化に敏感で影響を受けやすい。 3. 電解質バランスの乱れ 軽い脱水でもナトリウムやカリウムが失われ、神経の働きが不安定になる。加えて、睡眠不足・カフェイン・飲酒などが重なると、体温調節機能がさらに乱れ、影響が強まる可能性がある。 ■オフィスでも気軽にできる隠れ熱中症対策 オフィスで仕事をしていて「あれ?」と思ったときにすぐにできる、隠れ熱中症対策を3つ紹介したい。 (1)手のひら冷却(Palm Cooling) 手のひらは、体内で発生した熱を体外に放出するのに特化した血管構造(AVA)を持っている。よって、ここを冷やすことで体感温度が下がり、不快感や集中力低下を予防できる。 深部体温を急激に下げることなく、安全にクールダウンができるおすすめの方法である(参照:Iwata R, Kawamura T, Okabe F, Fujita Z. Effects of palm cooling on thermoregulatory-related and subjective indicators during exercise in a hot environment. J Therm Biol. 2024 Feb;120:103803. doi: 10.1016/j.jtherbio.2024.103803. Epub 2024 Feb 9. PMID: 38382413.)。 ・冷えたペットボトルや保冷剤をタオルで包む ・手のひらに3〜5分間当てる(冷蔵庫程度の温度が目安) ・外出後や仕事中の暑さを感じたときに実施 (2) 戦略的な水分補給 不調をカフェインで乗り切ろうとするビジネスマンは多い。しかし、カフェインには利尿作用があり、わずかな脱水でも注意力や判断力が低下する隠れ熱中症にとっては逆効果となりうる。トイレに立つタイミングなどで意識的に水分摂取するのがおすすめだ。 ・1時間ごとにコップ1杯(200〜250ml)の水を摂取 ・喉の渇きを感じる前に飲む ・コーヒーやアルコール摂取時は、追加で水を補給 (3)1分間の呼吸リセット術 深い呼吸は副交感神経を刺激し、体温調整や血流を整え、集中力を回復させる。冷房と外気の寒暖差による自律神経の乱れにも有効なので、会議の前や疲労を感じた際に習慣的に取り入れたい。 ・吸う:4秒、吐く:6秒のリズムで呼吸 ・約1分間続け、自律神経を整える ■夏の不調は、“対処できるビジネスリスクだ 午後の集中力低下やパフォーマンスの落ち込みは、「気合不足」でも「年齢のせい」でもない。身体が発している科学的なサインである可能性がある。 「隠れ熱中症」という言葉が示すように、軽度の暑熱ストレスは、本人にも周囲にも見えにくい“沈黙のリスク”である。 涼しいオフィスは熱中症の対処になる環境である一方、無自覚の脱水や屋外との寒暖差疲労によって、熱中症を発症しやすい身体の状態を気づかぬうちに作り出す原因の環境にもなり得る。 だからこそ、たとえ涼しい室内にいても、その不調を「いつものこと」や「年齢のせい」と片付ける前に、まずは軽度の熱中症である可能性を疑い、冷却や水分補給を行うことが重要なのだ。 木城拓也 理学療法士・整体 ピラティス事業「株式会社理学ボディ」代表取締役社長 【関連記事】 ■6月に頭が働かないのは天気のせい?ビジネスパーソンの正しい梅雨バテ対処法 (木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62431726-20250619.html ■デスクワーク現代病「テックネック」から首肩を守る3つの習慣 (木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62412968-20250609.html ■「経済損失6兆円」テレワークで深刻化する社員の肩こり・腰痛を放置する経営リスク(木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62210879-20250311.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 ![]() 「最高の技術で世界中を健康に」という理念のもと、“通わせない整体”を目指した理学療法士による整体と、理学療法士監修のピラティススタジオ「ルルト」を展開し海外進出も果たす。現在では日本と東南アジアを中心に170店舗以上を運営している。 公式サイト https://kabushikigaisya-rigakubody.co.jp/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


