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相続は、亡くなった方の財産や権利を引き継ぐ重要なプロセスです。しかし、手続きの多さや複雑さに戸惑う方も少なくありません。手続きの期限も比較的短いため、事前にやるべきことを整理しておくことが重要です。

この記事では、司法書士の視点から、いざ相続となったとき、スムーズに進めるために知っておきたい手続きの内容や専門家に頼むかどうかの基準についてお伝えします。

■そもそも相続とは?
相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産や権利・義務を、残された家族(相続人)が引き継ぐことです。たとえば、お父さんが亡くなった際、家族が集まって家や預金の分け方を話し合う……そんな場面を想像すると分かりやすいかもしれません。

相続の対象となるのは、土地や建物、預貯金、株式などの「プラスの財産」だけではありません。借金や未払いの税金といった「マイナスの財産」も引き継がれる可能性があります。

なお、借金などマイナスの財産が多い場合、家庭裁判所に申述することで相続放棄が可能です。相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。

たとえば、父親が残した自宅と預金のほか、住宅ローンの残債があった場合、相続人はその全てを考慮して手続きを進める必要があります。

このように、相続は単なる財産の受け渡しではなく、資産と負債を整理し、家族間でどう分けるかを決める「資産の棚卸し」と「権利関係の整理」のプロセスといえるのです。

■相続手続きの大まかな流れ
相続手続きは、大きく分けて以下の5つのステップで進みます。それぞれのステップを具体的に見ていきましょう。

(1)相続人の確定
まず、誰が相続人になるのかを戸籍謄本などで確認します。被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集し、相続人を正確に特定します。

これはまるで家系図を作るような手間のかかる作業です。たとえば、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、親の戸籍も遡って確認が必要な場合があります。

(2)遺産の調査・把握
次に、被相続人が残した財産を洗い出します。不動産、預貯金、株式、車などのプラスの財産だけでなく、借金や未払いのクレジットカード債務なども調査します。たとえば、地方にある古い土地や、忘れられていた銀行口座が見つかることもあります。

(3)遺産分割協議
相続人全員で「誰がどの財産を受け取るか」を話し合います。たとえば、「長男が自宅を相続し、次男が預金を分ける」といった合意を形成します。この協議がまとまると、遺産分割協議書を作成します。

(4)名義変更・財産移転手続き
合意に基づき、銀行口座の解約や不動産の名義変更、株式の移管などを行います。たとえば、自宅の名義を長男に変更する場合、司法書士に依頼して登記手続きを進めるのが一般的です。

(5)相続税申告・納税(必要な場合)
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数 ※2025年現在)を超える場合、相続税の申告と納税が必要です。申告期限は被相続人が亡くなった日から10カ月以内。遺産に高額な不動産が含まれる場合、税理士に相談して正確な評価額を算定する必要があります。

これらの手続きは、ケースによって「家を売却して現金化するか」「誰が住み続けるか」といった具体的な決断を伴います。どのステップも正確さとスピードが求められるため、全体の流れを把握しておくことが大切です。

■自分でできる手続きはあるのか?
相続手続きの全てを専門家に任せる必要はありません。一部の作業は自分で行うことも可能です。たとえば、以下のような手続きは比較的取り組みやすいでしょう。

・戸籍謄本の収集
市区町村役場で被相続人の戸籍を取得できます。ただし、転籍や婚姻などで戸籍が複数の自治体にまたがる場合、20通以上の書類を集めることもあり、時間と手間がかかります。

・銀行口座の解約
金融機関に死亡の事実を伝え、必要書類を揃えれば解約や払い戻しが可能です。たとえば、少額の口座なら窓口で手続きが完結する場合もあります。

・簡単な財産の整理
金額が少なく、相続人間で争いがない場合、遺産分割協議書を自分たちで作成することも可能です。ただし、自分で進める場合、書類の不備や期限の遅れがリスクとなるため、慎重な確認が必要です。特に、戸籍収集は慣れていないと「どの戸籍が必要か」が分からず、役所を何度も往復することになりがちです。

まとめると、時間に余裕があり、書類の収集ルールが理解できる場合は自分で対応可能です。たとえば、相続人が配偶者と子どものみで戸籍がシンプルなケースでは、役所での手続きもスムーズです。また、遺産が預貯金のみで、相続人間の関係が良好な場合、話し合いで分けて書類を作成するのも現実的です。

■専門家に任せたほうが良い例
一方、専門家に任せた方が良いと考えられるのは以下のようなケースです。

・不動産が絡む場合
不動産の名義変更(相続登記)は、法務局での手続きが必要で、書類の不備や評価額の算定ミスがトラブルにつながります。

たとえば、複数の不動産が異なる地域にある場合、専門知識がないと対応が難しいです。2024年4月からは、不動産を相続した場合、3年以内の登記申請が義務となりました。怠ると過料が科される可能性があります。

・相続税申告が必要な場合
遺産総額が基礎控除を超える場合、税務調査のリスクを避けるため税理士に依頼するのが賢明です。たとえば、不動産の評価額を適正に計算するには専門知識が必要です。

・相続人の間で揉めそうなケース
家族間で意見が対立する場合、司法書士や弁護士が間に入ることで公平な話し合いが可能です。たとえば「実家を誰が相続するか」で対立した場合、第三者の視点が役立ちます。

自分で対応する場合、時間と労力だけでなく、ミスによるリスク(税務調査や登記のやり直しなど)も考慮する必要があります。忙しい方や複雑なケースでは、専門家に任せることで安心感が得られます。

■相場観をつかむコツ
相続手続きにかかる費用は、財産の種類や家族構成、専門家の関与度によって大きく異なります。以下に、費用の目安と相場をつかむコツを紹介します。

・<相続税申告の有無でコストが変わる>
相続税がかからない場合、費用は主に戸籍収集や登記手続きにかかる実費と専門家の報酬です。相続税申告が必要な場合、税理士報酬が加算されます。

・<税理士報酬の目安>
遺産総額の0.5%〜1%程度が相場です。たとえば、遺産総額が1億円の場合、50万円〜100万円程度が目安。ただし、財産の種類(不動産が多いなど)で変動します。

・<司法書士報酬の目安>
不動産の名義変更の場合、件数や内容に応じて10万円〜30万円程度が一般的です。たとえば、1件の自宅の相続登記なら10万円前後、複数の不動産や複雑なケースでは高くなることもあります。

・<実費>
戸籍謄本(1通450円〜750円)や登記簿謄本(1通600円程度)、登録免許税(不動産評価額の0.4%)なども必要です。

「いくらかかる?」と聞きたくなるのは当然ですが、ケースによって異なるため、まずは専門家に初回相談(無料の場合も多い)で見積もりを依頼するのがコツです。

たとえば、司法書士や税理士に「財産の概要」と「家族構成」を伝えれば、大まかな費用感を教えてくれます。複数の専門家に見積もりを取るのも有効です。

■専門家を選ぶ際に大事なこと
相続は単なる書類仕事ではなく、家族の歴史や感情を整理するプロセスでもあります。「親の家をどうするか」「お金の話を家族でどう切り出すか」といった場面では、感情的な負担が伴います。そのため、単に手続きを進めるだけでなく、クライアントの気持ちに寄り添った分かりやすい説明を行い、公平な視点で調整してくれる専門家を選ぶことが重要です。たとえば「家を売却する場合のメリットとデメリット」を丁寧に説明してもらうことで、家族間の話し合いがスムーズに進みます。逆に、事務的に進める専門家だと、家族の感情が置き去りになり、ストレスが増えることもあります。

初回相談で話しやすさや信頼感を確認し、自分や家族に合う専門家を選ぶことが、相続を円滑に進める鍵です。

ただし、遺産分割協議などで相続人間で意見の対立が生じている場合、特定の相続人の代理人として他の相続人との交渉や調停を行えるのは弁護士だけです。

■家族全員が納得する相続には、適切な準備とサポートが必要
相続は、財産の整理だけでなく、家族の未来を考える大切な機会です。感情的な負担も伴いますが、適切な準備とサポートがあれば、家族全員が納得できる形でスムーズに進めることができるでしょう。

島田雄左 司法書士/株式会社スタイル・エッジ代表取締役/格闘家


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【プロフィール】
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島田雄左 司法書士
1988年、福岡県生まれ。実業家、司法書士、格闘家。24歳で司法書士事務所を開業。国内トップ規模の士業グループに成長させる。その後、自身の経営経験を元に、株式会社スタイル・エッジ代表取締役に就任。共創型ビジネスモデルとして士業や医業のコンサルティングを行っている。YouTubeやXで法律、仕事、マネーリテラシーなどさまざまな情報を配信中。著書に『士業経営』『人生で損しないお金の授業』(共に税務経理協会)がある。

公式サイト https://styleedge.co.jp/
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