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「やっと復職できたと思ったのに、また体調が悪化してしまった…」

Aさんは数年前にうつ病で休職し、傷病手当金を受給しながら療養に専念しました。その後、順調に回復し職場復帰を果たしたものの、2年間の勤務を経て再び同じような症状が現れ、医師からは「うつ病の再発」と診断されました。

前回の傷病手当金は既に1年6か月分を受給済み。「もう一度傷病手当金をもらうことはできるのだろうか」という不安を抱えながら、人事部に相談することにしました。

このようなケースは決して珍しいことではありません。うつ病は再発リスクの高い疾患として知られており、多くの方が同様の悩みを抱えています。

この記事では、うつ病が再発した場合の2回目の傷病手当金受給について、社会保険労務士・産業カウンセラーの視点から解説します。

■うつ病再発時の傷病手当金受給の基本ルール
うつ病が再発した場合の傷病手当金受給可否は、初回の受給開始日からの経過期間によって大きく異なります。

・1年6か月以内の再発の場合
初回の傷病手当金受給期間が1年6か月以内に終了し、その後再発した場合、、待期期間なしで再度受給が可能です。この場合、受給期間は初回支給開始日から通算1年6か月が上限となります。

例えば、初回受給が6か月間だった場合、残り1年分について再度申請できることになります。

・1年6か月を超えた再発の場合
既に1年6か月分を受給済みの場合、原則として同一傷病での再受給はできません。しかし、「社会的治癒」が認められれば、新たな傷病として再度1年6か月分の受給が可能になります。

■「社会的治癒」の判断基準とポイント
社会的治癒とは、医学的に完治していなくても、病気の影響を受けずに社会生活が送れている状態を指します。保険者(健康保険組合や協会けんぽ)が「前回の傷病とは別個の疾病」として判断する重要な概念です。

社会的治癒の認定では、以下の要素が重要視されます。

・通常勤務の継続期間:一定期間、問題なく就労していた実績
・治療状況:通院や服薬をしていない期間があるか
・社会生活の状況:健康な人と同様の生活を送れていたか

復職してからどの程度働いている期間があれば社会的治癒が認められるのかが気になるところですが、明確な基準はありません。一般的には、2年程度の期間があれば認められる可能性が高くなります。

もうひとつ重要なのが、治療(予防的なものを除く)を受けずに一定期間就労できていたかどうかです。治療状況が判断の決め手になる場合が多いと考えておきましょう。

■うつ病特有の審査の厳しさ
うつ病などの精神疾患の場合、2回目の傷病手当金受給については1回目との関係の審査が厳しい傾向にあります。これは、うつ病の完治判断が困難であることが主な理由です。

保険者(健康保険組合や協会けんぽ)は以下の点を慎重に審査します。

・前回のうつ病が本当に完治していたか
・今回の症状が新たな発症か、前回の継続か
・復職期間中の治療状況や社会生活の状況

しかし、受給の可否を決める明確な基準は示されておらず、最終的な判断は加入している保険者に委ねられます。

■退職後の傷病手当金申請方法
うつ病の再発により退職を余儀なくされた場合でも、一定の条件を満たせば傷病手当金の継続受給が可能です。

・退職後受給の条件
以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

1.退職日までに被保険者資格が継続して1年以上あること
2.退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態であったこと
3.退職後も在職中と同一の傷病で引き続き労務不能であること

・退職後の申請手続き
退職後の申請は、在職中とは手続きが異なります。在職中は会社が保険者に申請してくれるのですが、退職後は自分で申請することになります。

1.申請書の準備
加入していた保険者(健康保険組合または協会けんぽ)の傷病手当金申請書を用意します。

2.本人記入欄の記載
申請書の被保険者記入欄を自分で記載します。

3.医師への記載依頼
主治医に医師意見書部分の記載を依頼します。

4.保険者への直接申請
記載完了後、加入していた保険者に直接郵送または提出します。

なお、退職後申請の注意点は次の3点です。

・申請期限は2年以内:期限を過ぎると受給できなくなります
・失業手当との併給不可:どちらかを選択する必要があります
・1か月ごとの定期申請:受給漏れを防ぐため定期的に申請します

■2回目申請時の実務的なポイント
・医師との連携
申請書の医師意見書欄は、傷病手当金が給付できるかどうかの決め手となる重要なものです。「社会的治癒」したということがわかるような記載を依頼しましょう。

・社会保険労務士の活用
傷病手当金の申請では、社会保険労務士(社労士)に提出手続きの代行を依頼することができます。

社労士は、申請書類の作成や提出、会社や医師とのやり取り、必要書類のチェックなどをサポートしてくれます。また、申請に関する相談やアドバイスも受けることができるため、手続きの不安や疑問を解消しやすくなります。

特に、退職後の申請や複数回目の申請など、手続きが複雑な場合には、社労士のサポートを活用することでスムーズな申請が可能となります。

・審査請求と再審査請求
同一傷病での2回目の傷病手当金申請は難しい判断になることが多く、不支給処分が決定した後、審査請求(不服申立て)や再審査請求を行った事例も多数存在します。

不支給だからといってすぐにあきらめる必要はありませんが、この場合は自分ひとりで手続きするよりも、上述のように社労士に相談したほうがよいでしょう。

■まとめ
うつ病の再発による2回目の傷病手当金受給は、状況に応じて可能です。1年6か月以内の再発であれば比較的受給しやすく、それを超える場合は社会的治癒の認定が鍵となります。

退職後の申請も可能ですが、条件や手続きが複雑になるため、在職中から準備を進めることをお勧めします。

うつ病は誰にでも起こりうる疾患であり、再発も決して珍しいことではありません。正しい知識を持って制度を活用し、安心して療養に専念できる環境を整えることが何より大切です。

李怜香 社会保険労務士・産業カウンセラー・ハラスメント防止コンサルタント

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【プロフィール】
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李怜香 社会保険労務士・産業カウンセラー・ハラスメント防止コンサルタント

岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。1999年、宇都宮市にて李社会保険労務士事務所(現 メンタルサポートろうむ)を開業。2011年、産業カウンセラー登録。2012年、ハラスメント防止コンサルタント認定、(公財)21世紀職業財団ハラスメント防止研修客員講師に就任。2019年、健康経営エキスパートアドバイザー認定(第1期)。官公庁から大手企業、教育機関まで幅広い分野で研修実績がある、ハラスメント対策のエキスパート。ハラスメント外部相談窓口の相談対応や、事案解決支援の経験を活かした実践的な指導には定評があり、研修受講者からの満足度は90%以上。法的知識とカウンセリングスキルを組み合わせた独自のアプローチで、職場のメンタルヘルスやハラスメント防止の分野で、企業をサポートしている。

公式サイト https://yhlee.org/wp/

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