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金融庁は2025年6月、仮想通貨の規制を現行の資金決済法から、株式などと同様の金融商品取引法へ移行する改革案を公表しました。

この動きは、かねてより最大55%という高額課税に苦慮してきた投資家にとって福音とも言える一方、税務当局にとっては「監視・調査の在り方を根本から見直す必要性」が浮き彫りになっています。

今回は、国税庁が仮想通貨の税務調査に苦労している理由について、仮想通貨専門の税理士が解説します。

■仮想通貨の税務が難しい理由とは?
2024年5月、東洋大学法学部の泉純也教授が「暗号資産の税務調査と税務執行上の課題」という論文を発表しました。その内容をもとに仮想通貨を取り巻く税務の難しさについて考えてみたいと思います。

1. 匿名性と分散性
仮想通貨の魅力である「匿名性」「分散性」は、税務の観点から見ると大きな障壁になります。

たとえば、下記はいずれもKYCといわれる本人情報の登録なしに利用することが可能です。

・一部の海外取引所
・分散型取引所(DEX)
・プライベートウォレット(MetaMask等)
そのため、「誰がどの資産を持っているか」の特定が非常に難しくなっています。

2. ブロックチェーン分析の限界
ブロックチェーン上の情報は全世界に公開されていますが、「ウォレット同士の送金」以上のことは分かりません。

「このウォレットの所有者は誰か?」「どのような目的の取引か?」といった重要な情報が欠落しているため、国税庁も調査に限界を感じています。

■国税庁が注力していること
アメリカではIRS(日本の税務署のようなもの)において、Chainanalysisというブロックチェーン分析の会社と提携することにより、ブロックチェーンを活用した脱税を指摘することに成功したという事例があります。

今後は、日本の国税庁もブロックチェーン分析企業との提携により脱税をより高精度で把握できる体制を整えていくのではないかと期待されています。

■最大の難関は「損益計算」
仮想通貨の税務で最も厄介なのが「損益計算」です。その主な理由は以下の通り。

・海外取引所のデータ出力に制限があるケースがある(例:2年分のみ)
・取引所の破綻により取引履歴が十分に取得できない
・新規のチェーンについては、損益計算ツールが完全に対応していないケースがある
・Solscanなどのウォレット解析ツールの正確性、網羅性が担保できない(例:Solscanでも誤認識がある)
・計算上のコインの枚数と実際のコインの枚数が不一致になりやすい

つまり、「すべての取引履歴を把握し、正確に利益を出す」こと自体が非常に高難度なのです。

税務署側もまた、取引データの不足や、ウォレットの所有者特定の困難さに直面しています。
しかも今後、DEXを介した不動産購入や、ウォレット同士の暗号資産取引の複雑化が進めば、追跡はますます難しくなるでしょう。

■今後の展望と分離課税の可能性
国税庁が今後検討している対応策には以下のようなものがあります。

・ブロックチェーン分析の高度化
・税務職員向けのトレーニング強化
・税務調査対応型の損益計算ツールの開発
・分離課税制度の導入(源泉徴収による簡略化)

納税者がすべての取引を申告するのは限界があり、今後は「第三者による損益計算と課税」が現実味を帯びてきそうです。

■今後の制度・技術の変化に注目
仮想通貨は匿名性や取引履歴の不完全さから、国税庁でさえ全容を追いきれないのが現状です。ブロックチェーン上の記録は公開されていても、ウォレットの所有者や正確な損益を突き止めるには限界があります。

とはいえ、最大で7年間は遡って税務調査が可能です。

「今はバレないだろう」と油断して無申告を選べば、延滞税・加算税・重加算税のトリプルコンボが後々に待っています。

仮想通貨の税務は納税者にとってだけでなく、国税庁にとっても悩みの種といえます。それだけに、制度やそれを支える技術も速いスピードで発展・変化していくことが予想されます。今後も丁寧に追っていく必要がありそうです。


村上ゆういち 仮想通貨専門の税理士・公認会計士

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村上ゆういち 仮想通貨専門の税理士・公認会計士

【プロフィール】
murakami
新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)、横河電機株式会社、アカウンティングフォース税理士法人での勤務を経て、2020年に村上裕一公認会計士事務所設立。現在は「魔界の税理士」としてSNSやyoutubeでも活躍し、仮想通貨(暗号資産)・NFT・ブロックチェーンゲーム領域を専門とする。

X https://x.com/Jeanscpa
公式サイト https://crypto-cpa.jp/
YouTube 魔界の税理士ちゃんねる
https://www.youtube.com/@makai-tax

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