![]() 朝、洗面台で顔を洗おうと少し屈んだだけなのに、腰に激痛が走る。 目覚めた瞬間、首が固められたように動かなくなっている。 毎年9月を過ぎたあたりから、こうした“突然の痛み”に襲われ、整体院に駆け込んでくるビジネスパーソンが急増します。重要なプレゼンを控えていて休めない、そんな方も少なくありません。 多くの人が口にするのは「昨日まで何ともなかったのに」「何もしていないのに」という言葉。 実はその痛みは、決して突然起こっているものではありません。それは、あなたの体が数週間、あるいは数ヶ月前から発信し続けていた「危険信号(予兆)」を見過ごした結果とも言えるのです。 本記事では、なぜ秋にぎっくり腰や寝違えが多発するのか、理学療法士の目線から解説します。また、多忙なビジネスパーソンでも日常で取り入れられるセルフケアの方法をご紹介します。 ◼︎あなたの体に忍び寄る「秋の三重苦」 なぜ、過ごしやすいはずの秋に、体の“不調”は増えるのでしょうか。その原因は、(1)夏の間に蓄積した疲れ、(2)秋特有の環境変化、(3)人事異動など仕事のストレスが重なることにあると考えられます。筆者はこれらを「秋の三重苦」と呼んでいます。 (1)生理学的な要因:夏の脱水と秋の冷えによる疲れ まず、生理学的な要因として、夏に脱水が起こり、そこに秋の朝晩の冷えが加わることで、体がこわばり、痛みが起こるというメカニズムがあります。 夏の間、私たちは汗だけでなく、呼吸や皮膚からも絶えず水分を失っています。これは筋肉を覆う筋膜を含む、全身の結合組織の滑りを悪くしてしまいます。潤滑油が切れた体の動きは、徐々にスムーズさを失います。 そこに、秋の朝晩の冷え込みが加わると、体は中心部の熱を逃さまいと血管を収縮させ、筋肉への血流を減少させます。血流が乏しくなった筋肉は硬直し、弾力性を失います。この状態で夏と同じ感覚で動こうとすれば、細かい損傷が起きやすいことは想像しやすいでしょう(参照:Neuromuscular performance in cold. Oksa, J. 2002.)。 (2)季節的な要因:「天気痛」を引き起こす気圧の乱高下 秋雨前線や台風の接近など、9月は特に気圧の変動が激しい季節です。この時期、気圧の変化により頭痛や体のこわばりなどの不調を引き起こす「天気痛」が起こりやすくなります。 近年の研究では、気圧の変化を内耳にある専門のセンサーが感知し、その情報が脳に伝わることで自律神経のバランスを乱し、痛みを誘発・増幅させるという天気痛のメカニズムが解明されてきました。 自律神経のうち、体を興奮・緊張させる交感神経が過剰に働くことで、血管は収縮し、筋肉はこわばり、痛みに対して過敏な状態になってしまうのです(参照:天気痛の病態と治療. 佐藤 純. 2019.)。 (3)労働環境的な要因:蓄積した過労と仕事のストレス そして見過ごせないのが、ビジネスパーソン特有の要因です。夏の疲れが抜けきらないまま、仕事の追い込みや環境変化によってさらに疲労が蓄積します。 日本人勤労者を対象とした大規模な調査では、仕事に支障をきたす腰痛が新たに発症する危険因子として、「週労働時間が60時間以上」であることや、「職場での対人関係のストレスが強い」ことが明らかとなっています 。 さらに、腰痛が慢性化する要因としては、「仕事の低満足度」や「上司のサポート不足」といった心理社会的要因が挙げられています(参照:日本人勤労者を対象とした腰痛疫学研究,松平 浩ら,日職災医誌,63:329─336,2015)。 プロジェクトの佳境や人事異動などでストレスがかかりやすいこの時期、体は知らず知らずのうちに限界点に近づいているのかもしれません。 ◼︎その痛みには、実は「前兆」がある。 ただし、これらの「三重苦」はあくまで引き金に過ぎません。 不調の原因はもっと根深く、あなたの日常的な「体の使い方のクセ」にも潜んでいます。我々理学療法士が注目するのは、この痛みの前兆であり、それは腰や首の痛みが出る別の場所にも訪れるという点です。 世界的に権威のある医学雑誌『The Lancet』でも、ぎっくり腰を含むほとんどの腰痛は、単一の原因で説明できるものは稀で、運動不足や不適切な体の使い方といった複数の要因が絡み合って発症すると報告されています(参照:What low back pain is and why we need to pay attention. Hartvigsen, J., et al. 2018.)。 そして、体が限界に近づくと、次のようなサインを発し始めます。これらは単なる疲れではなく、体からの重要なサインです。 ・仕事の終わりに感じる、背中がバキバキに固まる感覚 ・骨盤まわりが硬く、デスクワーク中は背もたれがないとつらい感覚 ・しゃがんだり、物を持ったりする時の「ピキっとなりそう」な感覚 これらの「ちょっとした疲れにもみて取れる症状」が、秋の環境変化によって顕在化した痛みの前兆となっている可能性があります。 寝違えの多くは、首(頸椎)だけではなく、その土台である肩周りや背中全体(胸椎や腰椎)の硬さも原因となります。猫背や巻き肩など崩れた姿勢でPC作業を続けることがクセになると、肩の位置が前方にずれ、背骨の上部(特に胸椎)が丸くなった状態で固まってしまいます。その結果、首まわりに過度の負担がかかり、寝違えなどの不調につながってしまうのです。 腰も同様に、立つ、歩く、かがむといった動作の主役であるべき股関節が硬いと、その動きをすべて腰(腰椎)が補おうとします。股関節の動きが小さく、腰(腰椎)に過度の負担が掛かる動作がクセとなった結果、ふとしたきっかけに限界を超えてぎっくり腰などの腰痛の発症につながってしまうのです。 ◼︎毎朝・毎晩3分で不調を予防!セルフモニタリング術 では、どうすればこの負の連鎖を断ち切れるのでしょうか。 答えは、自分の体の状態を日々モニタリングし、問題が小さいうちに対処する習慣を持つことです。多忙なビジネスパーソンでも実践できる、朝晩3分でできる予防方法をご紹介します。 ●ステップ1:チェック編「体の声」を聴く3つのセルフチェック まずは、首・肩・腰を軽く動かして、どのあたりがどれくらい動きづらくなっているかチェックしてみましょう。 (1)首:椅子に座るか立ったまま、顔だけをゆっくりと右に振り向き、どこまで見えるかを確認します。次に、同じように左を振り向きます。首の関節や筋肉にアンバランスがあると、睡眠時に一定方向へ偏って負担がかかりやすくなるため、その予兆を早めに知ることができます。 (2)肩:両肩を耳にすくめるように持ち上げてから、後ろに大きく回して下ろします。首の筋肉の多くは肩甲骨に付着しているため、肩甲骨が硬いと首の動きも制限されやすくなります。片側だけ動きがぎこちない・音が鳴る・疲れやすいと感じたら要注意です。 (3)腰:足を肩幅に開いて立ち、膝を伸ばしたままゆっくりと前屈します。どこまで指が届くか、腰やもも裏に痛みや強い張りがないかを確認。次に、腰に手を当てて、無理のない範囲で体を反らします。腰椎や周囲の筋膜にすでに負担がかかっていると、柔軟性の左右差や痛みとして表れます。動きの範囲が狭い、特定の場所で痛みや詰まりを感じる場合は要注意です。 ●ステップ2:リセットケア編 痛みの予防に効果的なストレッチとエクササイズ 次に、痛みの予防に効果的なストレッチとエクササイズを行います。 ・キャット&カウ(四つ這いで背骨を動かす体操) 四つ這いになり、息を吐きながら背中を天井に突き上げるように丸め、おへそを覗き込みます。次に、息を吸いながら胸を開くように背中を反らし、顔を上げます。この動きを呼吸に合わせて10回繰り返します。ポイントは、腰だけでなく、肩甲骨の間(胸椎)を大きく動かす意識を持つこと。これが首への負担を軽減するアプローチにもつながります。 ・椅子を使った股関節ストレッチ 椅子の背もたれなどを支えに立ち、片方の足首を反対側の膝の上に乗せ、「4」の字を作ります。そのまま、お尻を後ろに突き出すようにゆっくりと膝を曲げ、お尻の伸びを感じる位置で20秒キープ。反対側も同様に行います。股関節〜お尻周りの柔軟性を取り戻すことで、腰が過剰に働くのを防ぎます。 朝一番に行うと、その日1日の体の動きがスムーズとなり、寝る前に行うと1日の疲れをリセットして睡眠に入ることができます。1日2回を目安に行うとより効果的です。 ◼︎最高のパフォーマンスは、自分の体との対話から生まれる 「何もしていないのに痛い」は、本当は「何もしてこなかった」あなたの体からの最終警告です。 体の不調は、仕事の生産性を著しく低下させるだけでなく、人生の質そのものにも影響します。自分の体の小さな変化に気づき、日々のセルフケアで対処することは、ビジネスにおけるリスク管理そのものと言えるでしょう。 この秋は、あなたの体が発する“声”に耳を傾けることから始めてみませんか。その小さな習慣が、未来の大きな痛みを防ぎ、あなたの仕事のパフォーマンスを守る最も確実な投資となるはずです。 木城拓也 理学療法士・整体 ピラティス事業「株式会社理学ボディ」代表取締役社長 【関連記事】 ■「いきなり寝る」はNG!夏の快眠には準備が必要なワケ(木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62554849-20250809.html ■午後の集中力低下は「隠れ熱中症」かも?夏のパフォーマンスを守る3つの対策 (木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62508749-20250720.html ■6月に頭が働かないのは天気のせい?ビジネスパーソンの正しい梅雨バテ対処法 (木城拓也 理学療法士) https://sharescafe.net/62431726-20250619.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 ![]() 「最高の技術で世界中を健康に」という理念のもと、“通わせない整体”を目指した理学療法士による整体と、理学療法士監修のピラティススタジオ「ルルト」を展開し海外進出も果たす。現在では日本と東南アジアを中心に170店舗以上を運営している。 公式サイト https://kabushikigaisya-rigakubody.co.jp/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


