![]() たとえば日経キャリアの調査では、働く人がこれから取りたい資格の1位に選ばれた(参考・「取りたい資格」中小企業診断士とAI検定が人気 日経キャリア転職版 2023/09/29)。ビジネスメディアPIVOTの調査では、ビジネス力が高まる資格として1位だった。(参考・ビジネス力が高まる資格ランキング PIVOT 2025/05/25)。 実際、受験者数も増加している。2006年に約13,700人だった受験者数は、2024年には約21,000人と、およそ1.5倍になっている(参考・一般社団法人中小企業診断協会)。 中小企業診断士は日本で唯一の経営コンサルタントの国家資格だ。しかし、「働く人が取りたい」「ビジネス力が高まる」といった言葉から読み取れるのは、診断士の資格に、会社員が企業の中での立場を上げる力があると見られてきているということだ。 ただし、資格を持っているだけで出世できるわけではない。評価されているのは、診断士の勉強で身につく会社の全体が見える目線だ。 営業の仕事しかしていないと、売上しか見えない。経理だとお金のことしか見えない。でも診断士の勉強では、「売上と利益」「組織と人」「戦略と実行」など、会社全体をつなげて考える経営視点が身につく。 上司や社長から「こいつは話が通じる」「全体がわかっているな」と思われるのは、そういう力があるからだ。資格そのものよりも、考え方が変わることの方が大きい。 中小企業診断士の立場で、中小企業診断士資格の価値を「経営視点が身につく」という面から改めて考えてみたい。 ■中小企業診断士が評価される理由 なぜ、いま中小企業診断士は評価されるのか。 今の時代、ただ現場をこなすだけでは評価されにくい。部門の数字や目の前の仕事を頑張っていても、会社全体の動きとつながっていなければ、上の判断には届かない。この人は経営のこともわかっている、と思われるかどうかで、信頼やポジションは変わってくる。 中小企業診断士が注目されているのは、こうした経営の見方を勉強する資格だからだ。現場にいながらも、少しずつ経営視点を身につけられる。だからこそ、多くの会社で評価されるようになっている。 ここで改めて、経営視点とは何を意味するのか整理しておきたい。経営視点とは、目の前の数字や出来事を、もっと大きな枠組みの中で捉える力である。 たとえば、売上が落ちたという現象一つ取っても、それが商品力の問題なのか、営業体制の課題なのか、市場全体の変化なのか、など、多角的に要因を考える。さらに、それを放置したら何が起きるか、手を打つならどの選択肢があるか、と先を見通し、打ち手を選び、社内を動かす準備をする。 こうした視点は、現場の一部だけにいると、なかなか身につかない。だが、中小企業診断士の学びでは、会社の数字・組織・戦略・業務の流れなど、経営全体の構造を横断的に学ぶ。だからこそ、現場にいながら、会社を経営者の目線で見る力が育っていく。 ■MBAとの違い 経営を学ぶ資格として、MBAと中小企業診断士はよく比べられる。どちらも時間をかけて学ぶが、違いは学ぶ中身の広さと現場に近いかどうか、だ。 診断士では、財務やマーケティングといった一般的なビジネス知識だけでなく、法律や労務、中小企業向けの制度まで扱う。特に日本の中小企業に必要な知識が多く含まれている。また、実際の仕事や現場に近い形で考える機会が多いのも特徴だ。 たとえば、小売業で「どう陳列すれば売上が伸びるか」、製造業で「現場をどう動かせばムダが減るか」といった具体的なテーマが出題される。現場に根ざした視点で学ぶので、仕事にすぐ活かしやすい。 さらに、診断士は、試験に受かって終わりではない。資格を取ったあとも、勉強や実務経験を積み重ねる仕組みがある。これが、診断士が現場に強い経営人材になる土台になっている。 たとえば、資格を取ったあとは実務補習と呼ばれる制度で、他の診断士とチームを組んで本物の会社にアドバイスをする経験がある。実際の経営課題に向き合うことで、机の上の勉強だけでは得られない視点が身につく。 また、診断士同士が集まって開かれる研究会も全国にある。ここでは、さまざまな業種の人と一緒に経営の課題について学び合える。職種や年齢を越えて議論する中で、知識だけでなく、人とのつながりも広がっていく。 このように、資格を取ってからも学びと実践の場が続いていくのが、診断士の大きな特徴だといえる。 ■幅広く活用される中小企業診断士の知識 中小企業診断士の資格は、独立や社内で活かすのはもちろん、副業・投資と活用できる場面が多岐にわたる。 たとえば、筆者は会社員時代、グループ会社の経営会議フォーマットの設計に携わった。単に数字を並べるだけでなく、全社戦略と各社戦略がどうつながっているか、各事業のアクションが数値目標とどう連動しているかを整理できる構造にした。 この設計を通じて、経営者がグループ全体の現状を俯瞰し、意思決定の根拠が明確になった。 中小企業診断士として学んだ戦略・財務・組織といった横断的な知識を現場に落とし込む力が実務に直結した。 企業に勤めながら、副業で支援する中小企業診断士も少なくない。その一例が、IT系のデザイン会社への支援だ(参考・企業内診断士活動の先進事例集 中小企業診断協会 2018/08)。 この支援者は、本業の製造業に従事しながら、副業として創業経営者に伴走。事業計画の策定や、創業融資・補助金の取得支援を行った。創業後も月次の予算と実績をチェックし、アクションプランの実行状況をヒアリングするなど、数字に基づいた経営支援を継続している。 創業当初は数百万円規模だった売上が、数千万円規模へと成長し、複数名の社員を抱える企業へと拡大。現在は3年後を見据えた新規事業の計画も始まっているという。 中小企業診断士として学んだ知識は、投資や分析の分野でも活かされている。その一人が、個人投資家として知られる井村俊哉氏だ。 井村氏は、吉本興業の芸人から転身し、運用額80億円の個人投資家。診断士を通じて、財務分析や企業の構造的な理解が深まり、企業を見る視野が広がったという。 ■勉強だけで経営を理解できるのか? 「結局、経営なんて現場を知らなきゃわからない」「机の上で学んだことに振り回されても困る」。中小企業診断士の勉強に対して、そのような声を聞くことは少なくない。 だが、この疑問に正面から答えるなら、こう言いたい。「現場を知らずに理論だけでは役に立たないのは確かだが、現場しか知らずに理論を持たないのも同じくらい危うい」ということだ。 経営とは感覚だけでは回せない。なぜ今この数字が出ているのか。なぜ売上は伸びたのに利益が残らないのか。人が足りないのは構造の問題か、運用の問題か。これらを説明し、判断するには、フレームや数値で整理する力が必要になる。中小企業診断士の勉強は、まさにその構造で考える力を育てるものだ。 たとえば、商品陳列の工夫やレジ待ちのストレス対策といった小売業の改善手法も、もとをたどれば製造業の工程改善の考え方に通じている。理論は、現場を無視するためではなく、現場の課題を言語化するためにあるのだ。 経営を理解するとは何か。それは、偉そうに知識を語ることではない。ましてや感覚で語ることでもない。 経営を理解するとは、全体の中で何が起きているかを、つなげて考える力だ。そしてそれを、人に伝え、動かせるように言葉にできることだ。 中小企業診断士は、資格を取った瞬間に何かが変わるわけではない。だが、学んだことを使い、現場で伝え、問い直すという実践を繰り返すなかで、経営の全体像が見えてくる。勉強と現場の往復の中で、経営の感覚はつくられる。 それは机の上で完結する話ではないし、現場だけで自然に身につくものでもない。中小企業診断士は、その行き来を促してくれる現実的な手段なのだ。 濵口誠一 中小企業診断士 【関連記事】 ■Switch2の落選地獄は任天堂の「品薄商法」なのか(濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62572364-20250817.html ■UUUMの二の舞?VTuber事務所にみる“人で稼ぐ”モデルの崩壊リスク(濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62472607-20250705.html ■経営者への報告は型が9割「伝える技術」より重要な「聞きやすい構造」とは (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62431743-20250620.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 濵口誠一 中小企業診断士 従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。 公式サイト https://billion-break.com/ 電子書籍 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



