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アメリカでは「その髪型、素敵!」など、日常のなかで気軽に明るく、さりげない褒め言葉を交わす文化があります。アメリカ在住30年の起業プロデューサー・上野ハジメ氏は、これを「プチ褒め」として提唱しています。ポジティブな言葉のやり取りは豊かな人間関係の構築に役立ちます。今回は、「でも人をどう褒めたらいいか分からない」という悩みを解消する、「プチ褒め」の5段階スケールについて、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法(上野ハジメ・プレジデント社)』から再構成してお届けします。



■「プチ褒め」の5段階スケールを知る〜認知・ねぎらい/感謝/称賛/感嘆/感動〜
当たり前ですが、「褒める」という行為は、自分だけでは完結しません。常に対象がいて、その人に対し、単なる情報伝達を越えた言葉を投げかけるのですから、影響を及ぼすのは当然です。円滑なコミュニケーションや意義深いつながりを構築するうえで、背後にあるセオリーやメカニズムを知っておけば、必ず役に立ちます。

でも、「プチ褒め」について人に話すと、こんな言葉が返ってきたりします。

「褒めるって、難しいですよね。なかなか褒め言葉が見つからなくて……」
「なんだかわざとらしく聞こえないかと不安になっちゃうんです」
「私なんかが褒めたら失礼かと思って、ついスルーしちゃう」
「どの時点で褒めたらいいのか、タイミングも難しいです……」

こんなふうに、多くの方は「褒める」を「称賛する」という意味だけで、狭く捉えているようです。確かに辞書で調べると、次のようにありました。

『褒める:人のしたこと・行いをすぐれていると評価して、そのことを言う。たたえる(デジタル大辞泉・小学館)』

ここに「評価」というキーワードが出てきますが、私の提唱する「プチ褒め」は、評価とは無縁。優れている必要などないのです。比較、ジャッジメント、採点的な考え方を意識していては、人を褒めにくいと感じるのも当然です。

そもそも、「褒める」とは何でしょう?言葉の定義を広げて大きく捉えることから、「プチ褒め」の習得は始まります。そこで私は「プチ褒めの5段階スケール」の概念図を考えてみました。
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和英辞書を引けば、「褒める」はPraiseと出てくるのですが、それだけで説明できない、もっと大きな意味合いが、日本語の「褒める」には含まれていると感じたのです。そのニュアンスを英語で考えてみると、後述しますが、実にたくさんの言葉が並びました。

さらには段階的に高次元に並べられるものでもあると思い、このピラミッド型のモデルを考案したのです。

アメリカ在住歴31年の経験と、これまでに学んできたコーチングやNLP、心理学、脳科学、自己啓発、セルフケアの理論などを組み合わせ、独自の理論でこのモデルを説明してみましょう。

ポイントは、日本語の「褒める」が、英語では文脈によってさまざまな単語に分かれるという点です。

・「努力を認める・頑張りをねぎらう」Acknowledge/Appreciate(認知する・ねぎらう)
・「感謝の気持ちを伝える」Gratitude(感謝を表す)
・「相手の成果を称える」Praise(称賛する)
・「すごい!と驚く」Admire(感嘆する)
・「心を動かされた」Inspire(インスパイアされる)

日本語は便利なもので、ひとつの言葉の中にたくさんのニュアンスを込めることができます。

そして私たち日本人も、同じ言葉なのに、場面に応じて理解する意味合いを変えて受け止めることができるという超能力のようなパワーを持っています。あ・うんの呼吸にも通じる、日本の文化の中で熟成されてきた、不思議な表現力を持った言語感覚と言えるでしょう。

ただし、最近では、価値観の多様化や年代間のギャップなどで、あ・うんの呼吸は過去の神話になりつつあるかもしれません。

表情やジェスチャーといった非言語コミュニケーションのない、文字オンリーのコミュニケーションにおいては、なおさら誤解も生まれやすいということも付け加えておきます。

なお、「認める」と「ねぎらう」は、日本語表現では、同じか、とても近い意味合いになることが多いので、あえてひとつにまとめて論じています。さあ、プチ褒めの5段階スケールについて、より詳しく見ていきましょう。

■褒めることの認識が変わるプチ褒めの5段階
1.認知・ねぎらい(Acknowledgment/Appreciation)
「気づいているよ」「見ているよ」という事実の共有。労力や努力を認める、労をねぎらう。

ピラミッドの最下段、「プチ褒め」の最も基本となるのは、相手の存在や行動に気づき、それを認識することです。そして、それをさりげなく伝えることです。

人は、自分が努力していることを誰かが見てくれていると感じるだけで、大きな安心感がありますよね。特に、長期的な取り組みや目に見えにくい努力がある場合、これを言語化して伝えることが重要です。

たとえ日々のルーティンに属する仕事だとしてもそれを毎日続けていることや、それが地味で目立たないかもしれない仕事にもかかわらず、誰かの仕事や生活の役に立っていると感じられることは、生きがいにつながります。

ですから特別なことではなくても、「お疲れさま。いつもありがとう」と伝えることで、言われたほうは大きな充足感を得ることができます。

いわゆる「褒める」という感覚ではないかもしれませんが、コーチングなどでも重要視されるのが、認める、認識する、ねぎらうという行為。特別なことがなくても、いや、ないからこそ誰にでもできますし、いつでもそれができるチャンスがあるのです。

例:「お、頑張ってるね。〇〇してるの、知ってるよ」「お疲れさま。ここまでやるの、大変だったよね」

2.感謝(Gratitude)
相手の行動が自分や周囲にとってプラスになったことに感謝する。

認知の次に大切なのが、相手の行動が自分や周囲にとってポジティブな影響を与えていると伝えることです。

1のねぎらいとの境目はとても微妙にも見えますが、もう少し具体的に、どんな行為や言動に感謝しているのかを伝えたり、おかげでこんな成果につながった、おかげでこんな気持ちになれたなど、効果についても言語化することで、より確かな感謝の念が伝えられるでしょう。

単に「ありがとう」と言うだけでなく、具体的にどのように助けになったかを伝えることで、相手にとってより深い意味を持つものとなります。

例:「助かったよ、ありがとう。これのおかげでスムーズに進んだよ」「忙しいのに好物の豚汁作ってくれてありがとう。最高に癒されたよ」

3.称賛(Praise)
相手の行動や成果に対して高く評価する。

感謝を超え、相手の行動や成果そのものを高く評価するのが称賛です。

これが日本語の「褒める」行為の王道パターン。多くの人が想像する「褒める」はこの段階のことですし、英訳したPraiseの意味合いにも相当します。

単なる努力だけでなく、その結果やクオリティに対して肯定的な言葉をかけることで、相手の自信を強化することができる、力強い「褒めのステージ」です。

成果を出した同僚や、家事の腕を上げたり、子どもと楽しそうに遊ぶ配偶者(性別にかかわらず)、見事に会議を取り仕切った上司など、対象は自由自在です。

例:「〇〇さんの仕事、本当に素晴らしい」「いつの間にか部屋の掃除してくれてたんだね!助かった〜」

4.感嘆(Admiration)
相手の能力や成果に対する驚きや感心。

称賛のさらに上位にあるのが、相手の行動や成果に対して驚きや深い感心を示すことです。これを褒める行為と認識していないかもしれませんが、上級編として使ってみてください。

ただ単に評価するのではなく、相手が持つ特別な才能や努力に対して、心からの感嘆を具体的に伝えることが重要です。SNSで文字のみで伝える時には、絵文字や記号を用いながら、精一杯の感情表現を添えることをお忘れなく。

「こんなことができる人とは知らなかった」などと、見くびって下に見ていたようなニュアンスが出てしまわないよう気をつけましょう。

例:「え、これ本当に〇〇さんがやったの?すごい!」「完璧な仕上がりだね。感動したよ!」

5.感動・インスパイア(Inspiration)
相手の行動や成果に心を揺さぶられ、影響を受けるレベル。

最も深いレベルのプチ褒めは、相手の行動や成果が単に素晴らしいというだけでなく、自分自身や他者にも影響を与えるほどの感動を生んだことを伝えるものとなります。

ここでは、相手の存在や成果がどのように人の心を動かし、新たな行動を促したのかを伝えるのが鍵。生き方、価値観、希望、勇気、希望などという言葉を使うことで、影響の大きさを表現できるでしょう。こうした言葉を受け取った側は、自分の在り方そのものが誰かの支えや希望になっていると実感することができます。

例:「〇〇さんの考え方に、勇気をもらいました」「この作品に触れ、価値観が変わった」

ここまで見てきたように、褒めるという行為には、ただ「すごいね」と言うだけではなく、その背景にある努力、選択、存在そのものへのまなざしを丁寧に映し出す力があります。

また、いわゆる称賛の言葉や表現を用いなくても、人は「褒められた」感覚を持つことができますし、より自然に受け取ることができるということも実感できます。

この5段階のスケールを意識することで、いきなり称賛するのは気恥ずかしいと感じる人でも、「ねぎらい」や「認知」レベルから始めれば、無理なく自然に伝えられるでしょう。

徐々に慣れて相手との信頼関係も育まれてきたら、「感動」や「インスパイア」を伝えるような、深く豊かなコミュニケーションへと発展させていけばいいのです。すべてはケースバイケース。特にチャットなど書き言葉でのやり取りなら、恥ずかしさも乗り越えやすいはず。難しく考えなくても大丈夫です。

上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

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【プロフィール】
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上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

1980年代から10年間バブル全盛の広告業界で働いた後、1994年ハワイに移住。MBA(経営修士号)を取得。2001年、ウェブメディア&雑誌事業運営会社の社⻑・編集⻑に就任。2011年LAに移住し、世界No.1規模の在住日本人向け情報誌の社⻑・編集局⻑に就任。日米5拠点50名の社員と8億円事業を展開。性別や年齢を問わないフラットな社会で多様な価値観に触れ、ゲイであることをオープンにしながらコミュニティリーダーとして活躍。2018年より全⽶移住率No.1のテキサス州ダラスを拠点に「プロライター養成講座」「VA(バーチャルアシスタント)育成スクール」など人気講座を展開中。著書『3ケ月で自然と月5万円稼げるようになる〜世界一やさしい「プチ起業」の教科書』(プレジデント社)、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』(プレジデント社)。

公式サイト:https://lit.link/hajime_imua
公式ブログ:https://www.hajimeueno.com/
『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0FQN7RSBN
Instagram:https://www.instagram.com/hajime_writing/

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