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アメリカでは「その髪型、素敵!」など、日常のなかで気軽に明るく、さりげない褒め言葉を交わす文化があります。アメリカ在住30年の起業プロデューサー・上野ハジメ氏は、これを「プチ褒め」として提唱しています。ポジティブな言葉のやり取りは豊かな人間関係の構築に役立ちます。今回は、「プチ褒め」の実践ルールその2として、自己肯定感が低い人にも届く褒め方のコツについて、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法(上野ハジメ・プレジデント社)』から再構成してお届けします。



■実践ルール2:自己肯定感レベルが低い人にも受け取れる言葉やトーンで
プチ褒め「実践ルール」7つのうち、2つ目をご紹介いたします。

褒めることが大切なのは間違いありませんが、相手がそれを「受け取れる状態」にあるかどうかを見極めることも重要です。自己肯定感が低い人は、褒められても「どうせお世辞でしょ」と素直に受け取れなかったり、「どんな目的があってそんなこと言うのかしら」と猜疑心でいっぱいになったり……。

「過大評価しないでほしい」とプレッシャーを感じることさえありえます。自分がきちんと認識できていない強みや特技、実はコンプレックスに感じていることなどは、褒められているのに、心のフィルターが邪魔をして意味通りに聞こえなかったりするものです。

特に職場や、上下関係がある場面などでは、より丁寧に相手のことを知り、相手の状態に合わせた伝え方を工夫することが大切です。

そのためには、(1)評価を避けること、(2)潜在的な可能性を示すこと、(3)私を主語にして伝えることの3つのポイントを意識しましょう。

■1.評価を加えずに事実をそのままに伝える
「評価」とは、相手の行動や存在に「良い・悪い」「正しい・間違っている」といった価値判断を添えることを指します。前述したようにプチ褒めでは、その評価を挟まずに「ただ感じたこと」や「気づいたこと」を伝える軽さが大切です。

かつての職場で、私よりもはるかにプロの現場での編集経験が長いキャリア女性が入ってきた時、次期編集長を早く譲りたくて、何度も打診していたことがありました。仕事ぶりを見ては、いつも「すごい!」「優秀」と褒めていたのですが、そのたびに彼女は「いえ、私は実は本当はダメダメなんで……」と、どんどん尻込みして引いていってしまったのです。

謙虚なのかなと思っていたら、そうではなくて、本当に自分をダメだと思い込んでいる様子。それが理解できてからは、表現を変えながら、彼女の自己効力感が浮上してくるのを辛抱強く待つことにしました。

彼女に伝えていたのは次のような言葉でした。

×「すごいね、それはなかなかできないよ」
×「そんなに頑張れるなんて、偉いね」
×「あなたって、本当に優秀だね」
×「そんなことできるなんて、才能ある!」
×「やっぱり君はできる人だと思ってた」

ところが、いずれもNGでした。

私なら言われたら有頂天になっていただろう褒め言葉だったのですが(笑)、彼女はすべてブロック。頑なに「ダメダメ」を貫く姿勢です。「重い責任を負わせたら、つぶれてしまいそう。これは褒めを受け取らない選択をしているのかも」と思い、その後は、言い方を変化させました。

○「やっぱり経験がものをいってるね」
○「すごく丁寧な仕事をしてくれてありがとう」
○「◯◯で鍛えられたことが、ここでも最高に役に立ってるね」
○「予定より早く仕上げてくれたおかげですごく助かったよ」

できる、優秀、才能、偉いなどという言葉を排除し、できるだけ「ねぎらい」や「感謝」を前に出した表現で会話をするように意識。

人は作業や行動、その背後にあった判断を褒められると、客観的に受け取りやすいものです。事実をそのまま具体的に述べて、感謝を添える。それが彼女の頑さを溶かしたのか、いつしか自信につながったようで、私が退職すると決めた時にはすんなり編集長のポジションを受け入れてくれました。

■2.潜在的な可能性を示す
自己肯定感が低くて、素直に褒め言葉が受け取れない人も、未来のことを言われると嬉しく感じられるものです。

まだまだダメな自分が支配している時には、「今の自分を褒められること」より、「これからの自分には伸びしろがある」と思えることのほうが、心にスッと届きます。

そこで有効なのが、「今の状態」ではなく「未来の可能性」に光を当てる言葉です。相手の中にある「まだ開いていない力」「これから広がっていくかもしれない世界」に触れることで、自己否定のフィルターをくぐり抜け、希望の種を手渡すことができます。

「こういう感覚、これからもどんどん磨かれていきそうですね」
「その積み重ねで、どこまで伸びていくのか楽しみです」
「その考え方、これからもいろんな場面で活かせそうですね」

未来のあなたは、きっともっと輝いていくに違いないという予感を伝えることは、褒めというより、希望の示唆。言葉をきっかけに、自分の中にある可能性に気づき、「試してみよう」「やってみたい」と自然にエネルギーが湧いてくるならば、それは大成功です。

プチ褒めは、ただ気分を上げるだけのテクニックではなく、心の中に未来へと続く小さな扉を開ける魔法なのです。

■3.「私」を主語にする(Iメッセージで表現する)
あなたはこんな人、という「You」を主語にした表現ではなく、「私はこう感じた」と、自分の主観をただ事実として伝えることで、相手が「そんなことはない」と否定しにくくなります。

自分がどう感じたか、どう受け取ったかを、主観の事実、あるいは感想として伝えることで、相手にとっては「否定する理由がない」ものとして、自然と受け取りやすくなるのです。

「私は、〇〇さんのやり方がとても素敵だと思いました」
「私は、その姿にとても励まされました」
「私は、〇〇さんと話すと心がほぐれるんです」
「私は、その言葉に救われた気持ちになりました」
「私は、〇〇さんの優しさにいつも助けられています」

もちろん、いちいち「私は」と付け加えなくても伝わる場合には省略してもかまいません。

覚えておきたいのは、「Iメッセージ」で伝えられた言葉は、人を定義するものではなく、共感として届きやすいため、相手の存在をそっと肯定することにつながるということです。

プチ褒めは、相手を評価で縛るものではなく、心でつながり合うための橋の役割を果たすもの。Iメッセージは、その橋をふんわりと架けてくれる、優しい言葉の形なのです。

上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

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【プロフィール】
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上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

1980年代から10年間バブル全盛の広告業界で働いた後、1994年ハワイに移住。MBA(経営修士号)を取得。2001年、ウェブメディア&雑誌事業運営会社の社⻑・編集⻑に就任。2011年LAに移住し、世界No.1規模の在住日本人向け情報誌の社⻑・編集局⻑に就任。日米5拠点50名の社員と8億円事業を展開。性別や年齢を問わないフラットな社会で多様な価値観に触れ、ゲイであることをオープンにしながらコミュニティリーダーとして活躍。2018年より全⽶移住率No.1のテキサス州ダラスを拠点に「プロライター養成講座」「VA(バーチャルアシスタント)育成スクール」など人気講座を展開中。著書『3ケ月で自然と月5万円稼げるようになる〜世界一やさしい「プチ起業」の教科書』(プレジデント社)、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』(プレジデント社)。

公式サイト:https://lit.link/hajime_imua
公式ブログ:https://www.hajimeueno.com/
『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0FQN7RSBN
Instagram:https://www.instagram.com/hajime_writing/

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