![]() ■人間関係をまるく収める「慈悲喜捨」の心がけ ここで、プチ褒めマインドになるための秘密のキーワード、「慈悲喜捨」についてお話ししましょう。 私の大好きな本に『反応しない練習』(草薙龍瞬著・KADOKAWA)があります。原始仏典(ブッダの教えを忠実に伝える初期仏教の経典)を紐解きながら、現代人の日常に活かすことができる合理的な考え方が紹介されています。 周囲につい反応し、感情を上げ下げしてしまうことから解放される方法がまとめてあり、読めば読むほど味わい深い内容で、多くの人におすすめしています。他人から見た評価で自分を見るのをやめ、禅寺の修行のように自分のタスクに集中することが大切だという教えは、世界中で取り入れられるようになったマインドフルネスと通じるところがあります。 中でも衝撃的だったのが、ブッダの教えをもとに「人間関係をまるく収める4つの心がけ『慈悲喜捨』という考え方」について説いた項目でした。 私はライフコーチや起業コンサルタントとして、常にクライアントと向き合い、生き方の悩みや人間関係のトラブル、挑戦へのブロックなど、無数の課題に向き合っています。 これまでも心理学や脳科学、自己啓発などの分野でさまざまな理論を学んでいたのですが、この「人間理解の原点」とも言うべき教えは、シンプルゆえに力強く本質を突いており、深い衝撃を受けました。 本の中では、慈悲喜捨のことを、「ブッダが教える人生の大きな心がまえ世界に対する向き合い方とも言うべきもの」と定義していますが、「人としての在り方」「人との接し方の哲学」として理解してもいいのかもしれません。 ■ジャッジメントを捨て、愛の目を持つ 早速、その「慈悲喜捨」について説明しましょう。 慈(じ):相手の幸せを願うこと(温かい思いやり)。 悲(ひ):相手の苦しみを理解し、寄り添うこと(共感する心)。 喜(き):相手の幸せを自分のことのように喜ぶこと(嫉妬を手放す)。 捨(しゃ):物事に執着せず、フラットな視点を持つこと(手放す心)。 現代の私たちは、SNSや日常の人間関係の中で、常にジャッジメントの目を持つことに慣れています。 「あの人はこういうタイプ」 「この言い方は好きじゃない」 「どうせこう思ってるんでしょ」 無意識の評価や先入観が、相手との間に壁を作ってしまうこともあります。 また、収入や実績、SNSの世界でいうとフォロワー数などを基準に、自分との距離を決めてしまう場合もあるでしょう。これこそが、「評価」「ジャッジメント」の目です。しかし、本当に人を褒めるには、評価目線ではなく、「愛の目」を持つことが大切です。 かつてハワイで、メディア運営会社の社長を受け継いだ頃、私は営業部長も兼ねていました。 担当したのは一番手強く、大きな金額を動かすクライアントのMさん。「広告効果が芳しくないので契約をキャンセルしたい」と言われて出向いた時、永遠に続くかのような不満を遮ったのは、一本の電話でした。 席を立って話し始めた彼の顔は、受話器の向こうの主に気づくと見たこともないほどほころび、満面の笑みに。声は優しさと愛情に満ち、電話口の向こうにいるのはデスクの写真立てに飾られた娘さんなのだろうと容易に想像できました。 こちらに戻ってきたMさん。微笑が残る柔らかな表情で、こうおっしゃったのです。 「今日は彼女の誕生日パーティでね。オーダーしておいたケーキを忘れずに受け取って帰るよう、本人から念を押されたんだよ」 そして、気まずさを隠すかのように苦笑い。その後は、日本から移住してきたばかりの頃、いかに家族に苦労をかけたか、毎日、どれほど不安でビジネスの未来を考えると眠れなかったか、初めて苦労話を語って聞かせてくれました。 (そうか、今はこんなにうまくいっている人でも、辛く苦しい日々はあったんだ。その記憶があるからこそ、ビジネスを少しでも成長させ続けようと必死で努力をされているんだな。広告効果の不振にナーバスになるのも当然だ……) 私は、広告主を強大な架空のモンスターに仕立てあげ、ひとりの「人」として見ていなかったことに気づいて、愕然としました。 心からのお詫びを伝えつつ、挽回策の提案と、できる限りの補償プランをオファーすると、Mさんは安堵し、喜んでくださったのです。 「上野さんも今、すごく厳しい状況だとは思うけれど、良い雑誌だからすぐに人気が出て報われる日が来るよ。頑張りなさい。広告は続けるから」 多額の負債を抱えた会社を引き継いだのは自分の意思だったのに、すっかり犠牲者精神の塊になり、愚痴体質になっていた自分を反省しました。 会うのも怖くて、避けていた方からの温かい励ましに感激し、深い感謝の気持ちが沸き起こってきたのを覚えています。不思議なことに、私はそれ以来、人を怖がるということがなくなりました。勝手に壁をこしらえて恐れたり、身構えたり、言葉の意図を探ろうと無駄な努力をしたりすることもなくなりました。 どんな人にも、Mさんにとっての娘さんのような存在がある。心から守りたいもの、失いたくないものがある。人に言えない痛みがあり、いつかは手に入れたいと願う夢がある。同じ人間じゃないかそう気づけた時、相手の感情に焦点を当てた、心と心のつながる会話ができるようになったのかもしれません。そして「慈悲喜捨」を知った時、真っ先に思い出したのが、ハワイでのこの体験でした。 「慈」の目で見れば、相手の良さに気づくことができる。「悲」の心があれば、相手の弱さや苦しみを感じることができる。「喜」の感覚があれば、相手の成長や成功を素直に祝える。「捨」のスタンスを持てば、「こうあるべき」という固定観念を手放せる。フラットに人を見る、という表現がありますが、それ以来、本当の意味での「フラット」とは、ジャッジメントの目を捨て、愛の目を手にすることだと思うようになりました。 無機質に、ロボットやAIのような存在として見ることとは真逆です。自分と同じように、どうでもいいことで思い悩み、つまずき、悲しくなり、落ち込み、些細なことに喜び、幸せになる。それを信じることが、「フラット」な心の状態を作るのです。 ジャッジしない。勝手に決めつけない。人は本来、善であるという「性善説」で、愛情のボリュームを最大限にしながら人との対話に望んでみると、あなたの全身がアンテナとなって、相手の「真実」が手に取るように見えてくるようになるでしょう。 上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表 【関連記事】 ■時代が変われば褒め方も変わる。——「風の時代」に求められる新しい言葉の力 (上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62690192-20251007.html ■「どうせお世辞でしょ」と思われずに相手の自己肯定感を上げる「プチ褒め」のコツ(上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62688706-20251006.html ■「褒め方が分からない」が解消する、「プチ褒め」の5段階スケールとは(上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62688683-20251006.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html 【プロフィール】 ![]() 1980年代から10年間バブル全盛の広告業界で働いた後、1994年ハワイに移住。MBA(経営修士号)を取得。2001年、ウェブメディア&雑誌事業運営会社の社⻑・編集⻑に就任。2011年LAに移住し、世界No.1規模の在住日本人向け情報誌の社⻑・編集局⻑に就任。日米5拠点50名の社員と8億円事業を展開。性別や年齢を問わないフラットな社会で多様な価値観に触れ、ゲイであることをオープンにしながらコミュニティリーダーとして活躍。2018年より全⽶移住率No.1のテキサス州ダラスを拠点に「プロライター養成講座」「VA(バーチャルアシスタント)育成スクール」など人気講座を展開中。著書『3ケ月で自然と月5万円稼げるようになる〜世界一やさしい「プチ起業」の教科書』(プレジデント社)、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』(プレジデント社)。 公式サイト:https://lit.link/hajime_imua 公式ブログ:https://www.hajimeueno.com/ 『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0FQN7RSBN Instagram:https://www.instagram.com/hajime_writing/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


