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アメリカでは「その髪型、素敵!」など、日常のなかで気軽に明るく、さりげない褒め言葉を交わす文化があります。アメリカ在住30年の起業プロデューサー・上野ハジメ氏は、これを「プチ褒め」として提唱しています。ポジティブな言葉のやり取りは豊かな人間関係の構築に役立ちます。コロナ禍を経て「書く」コミュニケーションの重要性が増した現代。実は「話す」よりも「書く」方が深い感情を伝えやすいのだと、上野氏は言います。「書いて伝える」時代の褒め方はどうあるべきか。『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法(上野ハジメ・プレジデント社)』から再構成してお届けします。



■ポストコロナは「話す」より、「書く」時代へ
2020年、コロナ禍によって「対面」が制限され、私たちは人と直接会う機会を奪われました。これまで当たり前だった「話して伝える」文化は、オンライン上での「書いて伝える」文化へと急激にシフトしました。

企業も個人起業家もサービスをオンライン化し、Zoomでのミーティングが日常に。SNSを敬遠していた人たちも、重要なコミュニケーションツールとして活用し始めました。

リモートワークの普及により、チャットやメールでのやり取りが主流となり、書くことで仕事を進めるスキルが必須になったのです。この変化は、すべての人にスムーズだったわけではありません。

デジタルに不慣れな人はタイピングやツールの使い方に苦戦し、「何をどう書けばいいのかわからない」という壁に直面。その一方で、「書く」スキルを持っていた人にとって、これは大きなチャンスでした。

幸い、私はこの変化に恩恵を感じていたひとりです。アメリカの仕事環境では、もともと対面での打ち合わせが少なく、業務のほとんどがメールやチャット。

「会って話す」のではなく、「必要な情報を端的に整理して書く」ことが求められる仕事文化です。日本とのやり取りにおいても、海外在住の私は自然と「書くことで伝える」スキルを磨いていきました。

今や私たちは、「話す」より「書く」ことでつながる時代を生きています。チャット、メール、SNSのコメント―現代のコミュニケーションは、すべて「書いて伝える」ことが前提です。

単に文章を書くのではなく、「相手に伝わる言葉を選び、意図を過不足なく届ける力」が、これからの人間関係の質を大きく左右します。顔が見えないチャットだからこそ、どんな言葉を使うか、どう伝えるかがより大切になります。

文字は手元に残る分、無意識のうちに相手の心に残りやすいもの。だからこそ、丁寧な言葉選びや相手を思いやる表現が、関係性に大きな影響を与えるのです。

かつてのように「話がおもしろい」「つまらない」といった印象だけで評価されていた会話も、今は、人間らしさをにじませることが信頼や共感につながっていきます。相手の時間を奪うまいと、用件だけを事務的に伝えるのではなく、そこにさりげないプチ褒めがあるだけで、やり取りが一気に温かくなります。

また言葉を交わしたい、とにかく対話が楽しい、嬉しい、できれば会いたい、一緒に働きたい―そんなふうに思ってもらえる関係も、自然と築けるようになります。

言葉の選び方ひとつで、誤解を生んだり、逆に信頼を深めたりすることもあります。書いて伝える力を意識して鍛えることが、良い人間関係を築くカギです。

■顔が見えないからこそ照れずに表現できる
話すのは苦手、書かないと伝えられないということを、私は決してネガティブだとは捉えていません。むしろ、シャイな人も、私のように内向型で外向きな表現が苦手な人にも、平等にチャンスが与えられるようになった、素晴らしい変化だと思っています。

今の時代、対面で話すよりも電話、そして電話よりもメールやチャットのほうが、自分の気持ちを伝えやすいと感じる人も少なくないでしょう。

実は、これには理由があります。アメリカの社会心理学者、ジョセフ・ウォルサーが提唱した「ハイパーパーソナル・コミュニケーション理論(1996年)」がそれを裏付けています。

この理論では、オンライン上での文字によるコミュニケーションは、対面より感情が誇張され、親密になりやすい、つまり、文字でのやり取りのほうが、感情が伝わりやすい場合があると言っており、そのメリットは (1)自分の言葉を選ぶ時間がある(=推敲できる)(2)表情やジェスチャーといった非言語情報がない分、テキストで感情を強く表現*しやすい(※)(3)相手の良い部分を理想化しやすいのだそうです。

その結果、「リアル」な対面以上に深い感情が伝わりやすくなるとのこと。

対面の会話のように瞬時に返す必要がないため、考えて言葉選びができます。プレッシャーを感じずに、感情を切り離して冷静に文章に集中できるのもメリットです。

※ただし、1999年、日本で誕生した絵文字は非言語情報に近い。また、相手の表情や身振りに影響されず、伝えたいことだけにフォーカスできます。

眼の前に誰もいないので、恥ずかしくないし、怖くない。居心地の悪さを感じることはないのです。「人を褒める」「称賛する」「認める」「励ます」などの目的に使うなら、口では言えないことも平気で表現できるようになります。

人を褒めるなんて、慣れていない時には居心地が悪いもの。受け取るほうも、「なんか、気持ち悪い」「下心があるのかも」となりがちですが、書き言葉なら、顔や表情、声のトーンが伝わらず、非言語表現から切り離されている分、感情をはさまずに受け止められるのでしょう。

ほんの少しの距離感が、逆に心地よい効果を生んでいくのです。

上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

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【プロフィール】
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上野ハジメ 起業プロデューサー/NLPライフコーチ/イムア・プロジェクトLLC代表

1980年代から10年間バブル全盛の広告業界で働いた後、1994年ハワイに移住。MBA(経営修士号)を取得。2001年、ウェブメディア&雑誌事業運営会社の社⻑・編集⻑に就任。2011年LAに移住し、世界No.1規模の在住日本人向け情報誌の社⻑・編集局⻑に就任。日米5拠点50名の社員と8億円事業を展開。性別や年齢を問わないフラットな社会で多様な価値観に触れ、ゲイであることをオープンにしながらコミュニティリーダーとして活躍。2018年より全⽶移住率No.1のテキサス州ダラスを拠点に「プロライター養成講座」「VA(バーチャルアシスタント)育成スクール」など人気講座を展開中。著書『3ケ月で自然と月5万円稼げるようになる〜世界一やさしい「プチ起業」の教科書』(プレジデント社)、『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』(プレジデント社)。

公式サイト:https://lit.link/hajime_imua
公式ブログ:https://www.hajimeueno.com/
『人づき合いが超ラクになる「プチ褒め」の魔法』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0FQN7RSBN
Instagram:https://www.instagram.com/hajime_writing/

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