![]() ■来場者が展示場へ訪れる目的とはなにか AIも台頭してきたWEB全盛の時代に、今さら展示会なんて意味があるのか?と疑問に感じる方もいるかもしれません。しかし、展示会は中小企業にとって、売上アップだけではなく、自社をブラッシュアップするきっかけにもなるのです。 その理由をご説明する前に、まず来場者はなぜ展示会に足を運ぶのか、その心理を考えてみましょう。展示会に来る人のほとんどは、「情報収集」が目的です。アンケート結果を見ても、「製品・技術動向の調査」「業界・市場の動向調査」といった回答が圧倒的多数を占め、「商談・製品購入のため」という回答を大きく上回ります。 つまり出展者側は、来場者が展示会になにかを買いに来ているのではなく、情報収集に来ているのだと認識を改める必要があるのです。実はこの認識のズレが、多くの企業が展示会で成果を出せない大きな原因の一つになっています。 さらに、展示会場の特殊な環境も理解しておきましょう。来場者は四方八方から飛び交う「名刺交換してください!」「良い商品ですよ!」といった売り込みの言葉を浴びせられ、次第にウザい、うるさいと感じるようになり、最終的には頭が疲れて回転せず、思考停止の状態に陥ってしまいます。つまり、それほど多くのブースを意欲的に回ることはできないのです。 真剣に情報収集に来ている来場者は、事前にブースをいくつかピックアップし、そこに立ち寄る時間を確保しているものですが、仮に4時間の滞在時間のうち、5つのブースに20分ずつ立ち寄ると、すでに100分が経過します。残りの140分で、来場者が予定していないブースに立ち寄れる時間は平均5分だと仮定すると、わずか28ブースに過ぎません。この28個に入らなければ、そのブースは存在しないのと同じなのです。 ■目指すのは自己紹介型のブースではなく問題解決型のブース この厳しい現実の中、多くの企業が「自己紹介型ブース」を構築しているのですが、知名度のない中小企業にとってこれはベストな選択とは言えません。このタイプのブースは、自社の商品やサービスをあれこれ並べて紹介し、最も目立つ上段に社名だけを掲げているのが典型例です。有名な企業であれば目に留まるかもしれませんが、知名度の低い企業の名称がただ書かれていたところで、来場者はただ素通りしてしまうでしょう。 来場者がブースに立ち寄るかどうかは、わずか3秒で直感的に判断されます。この短い時間で来場者の足を止めるためには、自己紹介型ブースでは魅力が足りません。中小企業が目指すべきは、来場者が抱える特定の悩みに解決の糸口を提供する「問題解決型ブース」なのです。 この問題解決型ブースを作る上で最も重要なのが、ブース上段に掲げる「ブースキャッチコピー」です。このキャッチコピーには、誰のどんな悩みを解決するブースなのかを明確に示す言葉を盛り込む必要がありますので、来場者の心に刺さるコピーを作るためのポイントを、3つご紹介しましょう。 ■ブースキャッチコピーのポイント1:メリットの提示 商品の特徴や性能、スペックは、あくまでお客様がビフォーからアフターへ移行するための手段に過ぎません。来場者が本当に知りたいのは、自分の会社や自分がどうなれるのか?というアフターの状態、つまりメリットです。 例えば、「氷のお皿を作る装置」を出展する場合、その装置の「3時間溶けない氷のお皿を簡単に作れる」という特徴を伝えるだけでは不十分です。それよりも、「メニューの単価を大幅にアップできる」というメリットを提示する方が、来場者の心を強く掴みます。来場者が自分でメリットを推測してくれることを期待してはいけないのです。 ■ブースキャッチコピーのポイント2:具体性(数字の力) キャッチコピーに具体的な数字を組み込むと、インパクトが増し、来場者の注意を引きやすくなります。 例えば、「メニューの単価を大幅にアップできます」よりも、「メニューの単価を13倍にアップできます」の方が、目を引くのは明らかです。数字の切り口は、数量(累積実績、リピート率、倍率など)、時間(3日で、50年の実績など)、要点(5つの秘訣、7つの鉄則など)の3つがありますので、アピールしやすいもので検討してみてください。 ■ブースキャッチコピーのポイント3:TO ME メッセージ 最後はシンプルで、ターゲットに「自分のことだ」と思ってもらう工夫です。誰に来てほしいブースなのかを、キャッチコピーにズバリ書きましょう。 「和食のお店の経営者さん必見!メニューの単価を4倍にアップできます」のように、具体的なターゲットに呼びかけることで、自分ごとだと感じてもらいやすくなります。ただし注意点があって、それは相手が呼ばれたい言葉に変換することです。 例えば、「資金繰りに困っている社長必見!」のような直接的な表現は、自社の困窮を白状するようで誰も立ち寄らないでしょう。代わりに「本業に専念したい社長のための」のように、相手がポジティブに受け取れる表現に工夫してみてください。 これらのポイントに加え、ブースキャッチコピーの左側(文頭)に人の写真を入れることで、人間の脳が無意識に顔に注目する働きを利用し、アイキャッチ効果を高めることができます。また、何らかの分野でナンバーワンであることをアピールするのも効果的です。日本一が無理でも、地域、業種、業態、カテゴリー、悩み別などで自社がトップに立てる土俵を見つけてみてください。 ■売り込むのではなく役に立つ情報を提供するための肩書 なぜ自己紹介型のブースにあまり効果がないのかといえば、つまりそれは「売り込み」だからです。一方、問題解決型のブースであれば、ターゲットの役に立つ情報を提供することになるため、シンプルに喜んでもらえる可能性が高くなります。 しかし、長年セールスを頑張ってきた社員ほど、売り込むなと言われてもマインドチェンジは難しいと感じるかもしれません。これをスムーズに行う有効な方法として、私は出展コンセプトに基づいた新たな肩書を作ることを推奨しています。 肩書は役職などではなく、「自分は何屋さんなのか?」を端的に示す言葉ですから、「誰に、どのように、役に立つのか」が伝わるようにしてください。例えば、私のクライアントである清掃サービス企業は、単なる「清掃業」ではなく、「介護施設うるおいサポーター」という肩書を採用しました。これは、感染症の発生を防ぎ、安心・安全・快適な環境を提供するという同社のコンセプトを体現するものです。 こうした、自社の価値観と一致した肩書を名乗ったり、それを人から呼ばれたりすることで、社員のセルフイメージが高まり、自らその肩書にふさわしい情報提供を積極的に行うようになります。肩書は、まさしく人を育て、変えていく力があるようですね。 これは、ドラッカーも自著で紹介している「石を積む職人の寓話」と共通する考え方です。同じ「石を積む」という行為でも、「生活のため」「技術を磨くため」「素晴らしい教会を作るため」という自己認識の違いによって、思考や行動、そして得られる成果は大きく変わります。肩書を通じて「こうなるぞ」と宣言し、日々意識することで、自己を研鑽し、周囲にもその認識を浸透させることができるのです。 このように、ターゲットの問題解決に貢献するという方向性で展示会営業を行えば、中小企業でも大企業以上に大きな成果を上げ、会社を「儲かり体質」に変えることができるでしょう。また、改めて肩書を見直すという取り組みは、自社や自分の仕事をポジティブに見直すきっかけになります。展示会出展には、営業力アップに加えて経営力アップの側面もありますから、ぜひ多くの中小企業にチャレンジしていただきたいですね。 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント 【関連記事】 ■「3秒で伝わる商品コンセプト」は展示会出展で磨かれる(清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62637758-20250913.html ■新規開拓に悩む中小企業が年1回展示会に出展すべき理由(清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62564365-20250813.html ■「営業は年1回で十分」中小企業を「儲かる体質」に変える秘策とは(清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62530414-20250729.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール】 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント 神戸大学経営学部卒。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など取材多数。支援実績は1300社超。ほぼ毎週東京ビッグサイトに出没している。 NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関してテレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。 著書『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得。奈良生まれ、東京在住。 公式サイト https://tenjikaieigyo.com X https://x.com/tenzikai @tenzikai シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


