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デスクワーク中ふと、ひどい猫背になっている自分に気づき、肩を回し、胸を張り、背筋を伸ばしてみる。その瞬間はスッとするけれどのに、気づけばまた背中が丸くなっている。

こんな「猫背のループ」を経験したことのある人は少なくないでしょう。

長時間のデスクワークが当たり前となった今、猫背やストレートネックといった姿勢不良は、単なる見た目の問題ではなく、仕事の集中力やパフォーマンスにも影響を及ぼします。

姿勢を改善しようと、ストレッチや筋トレ、ピラティスに励む人も多いでしょう。しかし、理学療法士として現場に立っていると、「頑張っているのに、なぜか変わらない」という声をよく耳にします。

姿勢を意識しても、すぐ元に戻ってしまう。ストレッチなどを頑張っているのに、姿勢が良くならない。これらに共通する原因は、姿勢を「形」だけで整えようとしていることにあります。

姿勢を直す真のカギは、実は「足裏」にあります。さらに、姿勢は誰かに直してもらうものではなく、自分で整え直すものという意識が重要なのです。

その理由と、正しい姿勢の整え方について、理学療法士の視点から解説します。

■なぜ、“いい姿勢”は続かないのか?
「胸を張って」「背筋を伸ばして」と言われ、姿勢を正す――。その瞬間、背中は伸び、少し自信を取り戻したように感じるかもしれません。

けれど、数分後にはまた背中が丸くなり、肩が前に落ちてしまう。無理に続けようとすると、なんだか肩や背中に過度の緊張がかかって疲れてしまう。

多くの人が行っているこのような「姿勢改善」は、“姿勢の模倣”にすぎません。つまり、筋肉を固めて「いい姿勢の形」を真似ている状態です。

しかし、本来の姿勢とは形ではありません。「重力の中で身体を安定させながら自由に動けるように保つ能力」を指します。

少し専門的な話になりますが、理学療法の現場では姿勢の制御を「感覚入力 → 中枢処理 → 筋出力」という神経生理的プロセスとして捉えています。

足裏や筋肉、関節から得た情報を脳が処理し、必要な筋肉に微調整の指令を出すことで、私たちは無意識のうちにバランスを保っています。

つまり、姿勢とは神経・筋・感覚が連携して働く“制御の結果”なのです。
形だけを整えても、この制御システムの再学習が起きない限り、根本的な改善にはつながりません。

整体やマッサージで一時的に姿勢がよく見えても、翌朝には戻ってしまうのはこのためです。外から「直してもらう」だけでは、身体が自分で“新しいバランス”を覚えられないのです。

さらに、もうひとつの盲点は、「局所」にとらわれてしまうことにあります。
首が痛ければ首、肩が凝れば肩――。気になる部分だけをストレッチしても、身体の土台である足・骨盤・重心がずれていれば、すぐに元に戻ります。

姿勢とは、部分ではなく全身の連動性の上に成り立つものです。どこか一部を“直す”のではなく、身体全体の協調性を取り戻すことが、本当の意味での姿勢改善なのです。

■座り姿勢は“感覚”でとらえると、うまくいく
では、どうすればその協調性を取り戻せるのか。その鍵を握るのが、「支持基底面(base of support)」という考え方です。

支持基底面とは、身体が支えられている面――すなわち、座っているときに地面や椅子に接している部分を指します。

デスクで椅子に座っている場合は、主に「足裏」と「座面(坐骨)」がこれにあたります。この面を意識し、その範囲の中に自分の重心が来るように保つことが、姿勢の安定に直結します。

言い換えれば、“足裏とお尻でつくる土台の上に、背骨をバランスよく積み上げる”感覚を持つことが重要なのです。

足裏から地面の感覚を受け取り、お尻と足裏で作られる面に重心がくるように骨盤を立てる。もっと簡単にいうならば、「おへその少し下にあるボール(=重心)が、坐骨の真ん中の上にふわっと浮かんでいる」感覚で座ることができると、背骨は自然に立ち上がります。それによって、首や肩に余分な力を入れずに座れるようになり、呼吸も深くなります。

一方、この連動が崩れると、椅子に浅く座って体を背もたれに預ける“ずっこけ座り”や、“スマホ首”などの不良姿勢につながってしまいます。

このように、不良姿勢もまた「結果」であり、原因は“身体の使い方を誤って学習してしまったこと”にあります。

多くの人は、無意識のうちに重心を支持基底面の外へ逃がして座っています。

だからこそ、まずは足裏と坐骨という支持点を意識し、その中に重心を“戻す”感覚を取り戻すことが、姿勢を整える第一歩になるのです。

■理学療法士が教える、デスクワーク姿勢の整え直し5ステップ
理学療法の現場で、実際に行ってもらう基本の「再教育ステップ」を紹介します。難しい動きは一切ありません。大切なのは“感覚を取り戻すこと”です。

(1)足裏で地面をつかむ
・かかと・母趾球(親指のつけ根)・小趾球(小指のつけ根)の3点で床を感じます。
・膝が90度前後、足裏全体が床に密着する高さに椅子を調整しましょう。
・足が浮くと、上半身のバランスを取るために肩や首が過剰に緊張します。

(2)坐骨で座る
・左右の坐骨が均等に座面にあたるか確認します。
・背もたれに沈んでいるときは、骨盤が後ろに倒れているサインです。
・坐骨で椅子を軽く押し返すようにすると、骨盤が自然に立ちます。

(3)骨盤の上に背骨を積む
・骨盤が立ったら、その上に背骨を一本ずつ積み上げるように意識します。
・“背筋を伸ばす”のではなく、“重心を坐骨の真上に置く”感覚で。
・これだけで、腹筋群と背筋群がバランスよく働き、力まない姿勢につながります。

(4)肩と腕の重みをゆるめる
・肩を一度すくめてストンと落とし、肘を軽く曲げて机の上に置きます。
・肩で腕を支えるのではなく、机に“あずける”。
・この状態で深呼吸をすると、首や肩のこりがすっと抜けていきます。

(5)目線と重心をそろえる
・最後に、モニターの上端を目の高さに合わせ、あごを軽く引きます。
・頭の重さ(約5kg)が背骨の真上に乗ると、重心は自然に支持基底面の中央に保たれます。これにより、首への負担が大幅に軽減されます。

デスクワークの合間に、姿勢が崩れたなと感じたらいつでもこのステップで整え直してみましょう。

■姿勢を“整え直す”ことは、体の感覚を取り戻すこと
姿勢改善の本質は、筋肉を鍛えることではありません。もちろん必要な筋力を鍛えることも、体の柔軟性を高めることも大切ですが、そもそも座り姿勢について正しく理解することが重要です。

つまり、感覚への意識づけが、身体機能を高める再学習の引き金になるのです。

理学療法士が行う姿勢指導の目的も、見た目を整えることではなく「自分の体がどうなっているかを感じ取る力」を取り戻し、自分でコントロールできるようになることにあります。

それができるようになると、外から矯正しなくても、自分の力で姿勢を整えることができるようになります。

もちろん、業務に集中するにつれ、会議の話題が盛り上がるにつれ、疲労が蓄積するにつれ「整えた姿勢」は次第に崩れてしまうこともあります。

しかし、その際に「崩れている」と気づける力、また「崩れた状態から整え直す方法」を知っていることで、見た目や体の不調だけではなく、仕事のパフォーマンスアップにもつながります。

今日、椅子に座るとき――ほんの数秒で構いません。足裏と坐骨が、どんなふうに地面と椅子を支えているかを感じてみてください。

その小さな一歩が、あなたの姿を“整え直す”再教育の始まりになるはずです。

木城拓也 理学療法士・整体 ピラティス事業「株式会社理学ボディ」代表取締役社長

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【プロフィール】
kishiro
木城拓也 理学療法士・整体 ピラティス事業「株式会社理学ボディ」代表取締役社長

2011年に理学療法士国家試験に合格後、都内のスポーツ整形外科クリニックに勤務し、プロスポーツ選手や箱根駅伝選手などの施術を担当。そこで培った臨床経験と専門的な知識をもとに、2017年「青山筋膜整体 理学BODY」1号店を表参道に開業。翌年に株式会社理学ボディを設立し、代表取締役社長に就任する。
「最高の技術で世界中を健康に」という理念のもと、“通わせない整体”を目指した理学療法士による整体と、理学療法士監修のピラティススタジオ「ルルト」を展開し海外進出も果たす。現在では日本と東南アジアを中心に170店舗以上を運営している。

公式サイト https://kabushikigaisya-rigakubody.co.jp/

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