![]() 万博が終わってもミャクミャクのグッズが売れている。香港ではラブブ(LABUBU)、そしてラブブのパクリキャラであるワクク(WAKUKU)まで人気が拡大。人はなぜキャラを欲しがるのか。かわいいを超えた感情の経済が、世界を動かしている。マーケターの視点から考えてみたい。 ■ミャクミャク人気に表れる「感情の経済化」 2,500万人を動員した大阪・関西万博が閉幕しても、公式キャラクター「ミャクミャク」の人気は終わらない。万博協会は来春までミャクミャクを含む公式グッズの販売を継続し、関連売上は8月末時点で累計約800億円規模だ。 イベントが終わればキャラの役目も終えるのが常識だった。だがミャクミャクは違う。会場を離れても経済を動かしている。それは今、世界中で起きている「感情の経済化」の象徴である。 香港から誕生したラブブは世界中で大ヒット。さらに、その“パクリ”と話題のワククまでが爆売れしている。なぜ人はキャラを欲しがり続けるのか。そして、これほどまでにキャラが経済を動かすのはなぜなのか。 ■キャラは「かわいいもの」ではなく、「感情の代理人」 キャラクターを買う理由は、単なる「かわいい」ではない。多くの人にとって、キャラは感情の代理人になっている。 仕事で疲れた夜、机の上のミャクミャクを見てホッとする。通勤カバンにちいかわのキーホルダーを付けると、なぜか少し元気になる。それは「モノ」を買っているのではなく、「気持ちを預ける場所」を買っているからだ。 心理学で言えば、これは「感情の投影」。キャラが「私の代わりに笑ってくれる」「怒ってくれる」ことで、感情が整理される。ミャクミャクのように意味がわからないキャラほど人気になるのは、その余白に人が自分の気持ちを映し込めるからである。 ■キャラを動かすのは「ストーリー」 しかし、人がキャラに感情を預けるにはもうひとつ条件がある。それはストーリーだ。 ラブブには、作者・龍家昇(Kasing Lung)が描いた「The Monsters(ザ・モンスターズ)」という闇の童話の世界がある。 このシリーズは、子ども向けのように見えて実は大人の心の裏側──孤独、嫉妬、恐れ、優しさ、希望といった感情を寓話的に描いているのが特徴である。その物語を知ることで、ファンはキャラに「意味」を感じ、感情を重ねる。 ミャクミャクにも物語がある。万博のテーマ「いのち輝く未来社会」を体現し、血や細胞をモチーフにした生き物。気味が悪い、でもどこか愛しい。それは私たち自身の「不完全さ」を映す鏡のような存在だ。 キャラはかわいさで始まり、ストーリーで定着する。背景に物語があるキャラほどファンは長く支え、経済を動かす。言い換えれば「好き」の持続装置がストーリーなのである。 ■ラブブ現象──1つのSNS投稿が世界を動かした 香港のアーティスト、龍家昇が2015年に生み出したラブブは、2018年から中国の玩具メーカーPOP MART(ポップマート)が販売を開始した。 奇妙な笑顔と毒っぽいかわいさがSNSで話題を呼び、すでに人気があった。その後の爆発的なヒットのきっかけは2024年、BLACKPINKのリサがInstagramのストーリーにラブブの写真を投稿したことだった。 それが引き金となり、Weiboで関連ハッシュタグは10億回以上閲覧。LABUBUを含むシリーズは2024年に613億円と前年の8.3倍。それにともないポップマートでのの海外売上高は約1,020億円と4.8倍に増加し、総売上高に占める比率が約4割になった。 この時、リサは仕掛け人ではなく、投稿も広告でもPRでもなかったと言われている。だが、彼女の一枚の投稿が世界を動かした。 ■パクリでも売れる、ワククの不思議な経済 人気が爆発すれば、模倣も生まれる。香港メディア36Krは、ラブブのそっくりキャラ「ワクク」が登場し、パクリと批判されながらも初回販売分が即完売したと報じた。 背後には大手芸能プロダクションが関与し、ラブブのマーケティング手法を完コピ。ワクク関連のインプレッションは10億回を超えたという。 理由は単純だ。ラブブが手に入らない──だから似ているもので満たす。欲望は本物でなくても満たされる。ブランド品の偽物が売れるのと同じで、欲望の形をなぞるだけで経済は動く。 キャラ経済は正規品だけで成り立っていない。「欲しい」という感情の総量が、コピーまで含めて市場を拡張している。 ■キャラ経済のスケール 数字で見ると、キャラ経済は決しておまけではない。 ・サンリオ:年間売上 約1,449億円 ・ポップマート全体:年間売上 約2,700億円 ・ラブブ単体:年間売上 約613億円 ・ミャクミャク関連グッズ:累計 約800億円 ただし、売上が拡大している一方で、株価は不安定だ。ブルームバーグによると、ラブブ人気の一巡と二次市場でのプレミアム価格の低下を受け、ポップマートの株価は8月26日の最高値から約130億ドル(約1兆9,200億円)を失い、時価総額の約4分の1が消失した。 JPモルガンは、成長の勢いが一段落し、新しいヒット商品が見えにくくなっていることから、ポップマート株の評価を引き下げた。簡単に言えば、「いまの株価は高すぎて、これ以上の上昇材料がない」という判断だ。生活必需品ではない以上、キャラ経済の評価が不安定であることは仕方がない、ということになる。 それでも株価は、年初から見ると約1.8倍に上がっている。熱狂の揺り戻しはあるものの、キャラを中心にした感情経済の強さは衰えていない。 ■日本のキャラ経済──ミャクミャクとちいかわが映す感情の装置 日本のキャラ経済は、偶然のバズではなく、生活の中で共感を積み重ねていく仕組みで動いている。その象徴がミャクミャクとちいかわだ。 ミャクミャクは行政が作ったキャラクターでありながら、SNS上ではファンが独自の解釈を広げ、ファンアートが増殖している。 大阪・関西万博の公式キャラという制度の産物が、行政の手を離れ、市民の感情によって生き続けている。企業が作るキャラではなく、人々が意味を与えるキャラに変わった。 一方で、ちいかわは「愛されすぎたキャラ」だ。マクドナルドのハッピーセットでコラボした際、限定おもちゃが転売目的で買い占められ、SNSで炎上した。ちいかわを愛する人たちにとって、それは感情の裏切りだった。 この出来事は、キャラが単なる商品ではなく、感情の象徴として機能していることを示している。キャラが人の心をつかむほど、愛と経済の境界は曖昧になる。 長峰都世子 株式会社GOOPASS マーケティング マネージャー/マーケティング研究会 主宰 出典 毎日新聞 「気持ち悪い」一転、ミャクミャク人気に 万博の「顔」になった理由 2025/10/13 https://mainichi.jp/articles/20251012/k00/00m/040/194000c 中国ポップマートの「LABUBU」が世界的ブレイク 人気過熱でキャラクター製品が数分で売り切れ 東洋経済オンライン 2025/10/13 https://toyokeizai.net/articles/-/885188 LABUBUのパクリなのに、売れまくっている「WAKUKU」の謎⋯裏に大手芸能プロが全面関与 36Kr Japan 2024/10/09 https://36kr.jp/377361/ 株式会社サンリオ 2025年3月期 決算短信 https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250513/20250513544896.pdf POP MART Releases 2024 Financials: Revenue Surpasses 13 Billion RMB, Net Profit Reaches New Peak Nasdaq 2025/03/27 https://www.nasdaq.com/press-release/pop-mart-releases-2024-financials-revenue-surpasses-13-billion-rmb-net-profit-reaches 株式会社伊藤園 2024年4月期 決算説明会資料 https://www.itoen.co.jp/wp-content/uploads/2023/12/20240603__shiryo.pdf 「ラブブ」人気失速、ポップマート株下落-時価総額2兆円弱吹き飛ぶ ブルームバーグ 2025/09/15 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-15/T2MASYGP9VD300 画像出典 公式キャラクターについて | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト https://www.expo2025.or.jp/overview/character/ 【関連記事】 ■「痩せてきれいになった」はNG!ではどう褒める?相手を傷つけない「プチ褒め」の技術(上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62690236-20251007.html ■「話す」より「書く」でつながる現代に求められるコミュニケーション力とは?(上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62690228-20251007.html ■「愛の目」で人を見れば、コミュニケーションは劇的に変わる(上野ハジメ 起業プロデューサー) https://sharescafe.net/62690213-20251007.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP) https://sharescafe.net/60041384-20221223.html ■プロフィール ![]() 大手エンタメ会社、広告代理店を経て、趣味のプラットフォーム「GOOPASS」のマーケティング・ブランド成長を推進。GOOPASS MAGAZINE編集長も兼任、累計2,000本以上の記事制作を指揮して月間100万PV規模へ成長させる。 新しいカルチャーを仕掛ける『ハイボール文化振興会』をライフワークとして展開。ハイボールというレンズを通して、遊び心で日常と社会をデザインしている。 公式サイト:https://goopass.jp/ LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/toyoko-nagamine/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


