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2014年のある朝、私は午前3時に目覚ましで起き、段ボール箱と梱包材に囲まれていた。会社員として働きながら始めた副業は、半年で月商100万円を超えていた。だが私の頭にあったのは「もうこれ以上、仕事が来ないでほしい」という願いだけだった。

あれから10年。私は今、マーケティング・営業支援を行うマイクロ法人の代表として5期目を迎えている。会社員を続けながら法人を持つという選択は、当時の失敗があったからこそできた判断だ。

コロナ禍以降、リモートワークの普及で副業を始める会社員が急増している。国税庁の統計によれば、給与所得者のうち副業収入がある人の割合は2022年時点で約4%と過去最高を記録した。だが、副業を始めた人の多くが1年以内に辞めている現実もある。

なぜ副業は続かないのか。そして、会社員がマイクロ法人をつくる意味とは何なのか。

キーエンス・メルカリ・スマートニュースで新規事業の立ち上げに携わり、10年前の副業失敗を経て、現在は設立から連続黒字を続けている経営者として、5期目を迎えた今だから語れる教訓をお伝えしたい。

■「情報格差でマネタイズできる」という幻想
2014年当時、メルカリはまだ黎明期で、中古品売買の主流はヤフオクだった。私はそこに目をつけた。

「中古品の相場を知らない人は多い。自分がデジタルマーケティングの知識を使って集客し、出品代行をすれば手数料20%で稼げるはずだ」

ホームページを作り、リスティング広告を出稿した。デジタルマーケティングは私の専門分野だったから、広告運用は得意だった。すると、思った以上に問い合わせが殺到した。「これを代わりに出品してほしい」という依頼が毎日のように届いた。

最初の1ヶ月は「仕事が来た!」と喜んでいた。だが2ヶ月目から地獄が始まった。

当時のヤフオクは今のメルカリと違い、出品手続きが煩雑だった。商品写真を撮影し、説明文を書き、入札状況を管理し、落札後は梱包して発送する。顧客とのやり取り、トラブル対応も全て自分だ。

会社員として日中働き、夜は副業の作業。そして朝3〜4時に起きて梱包作業。月商は100万円を超えたが、手数料20%から経費を引くと手元に残るのは月10万円程度。時給換算すると1000円にも満たなかった。

何より辛かったのは、この仕事がまったく楽しくなかったことだ。「また依頼が来た」と思うたびに、憂鬱になる。本来なら仕事が増えれば嬉しいはずなのに、私は「これ以上仕事が来ないでほしい」と願うようになっていた。

■失敗の本質—「儲かる」と「続けられる」は別物
なぜこれほど苦痛だったのか。理由は明確だ。

この仕事に対して、私は専門性も愛着も持っていなかった。中古品売買に詳しかったわけでも、オークションが好きだったわけでもない。ただ「情報格差を使えば儲かりそう」という打算だけで始めたビジネスだった。

辛いことがあっても、その仕事に専門性や愛着があれば乗り越えられる。だが私にとってこの副業は、単なる「ちょっと時給の高い作業」でしかなかった。

半年後、私はこのビジネスを畳んだ。そして学んだ。「好きでもない仕事、得意でもない仕事を、ただお金のためだけにやるのは続かない」と。

この教訓は、その後の私のキャリアを大きく変えることになる。

■「得意なこと」を軸にした再スタート
2014年の失敗から数年後、私は前職のスマートニュースに在籍しながら、あらためて法人を設立した。今度は「儲かりそう」ではなく、「得意なこと」「これまでのキャリアで培った専門知識を活かせること」を軸に考えた。

私の専門分野はBtoBマーケティングと法人営業だ。会社員として働きながら、週末や業務時間外にクライアント企業の支援を行う。最初は小さく始め、実績を積み上げた。

法人化を決めた理由は3つある。

第一に、経営の実態を肌で学びたかったからだ。会社員として給与をもらう側と、経営者として事業を回す側では、お金の流れがまったく違う。税金、経費、キャッシュフロー—これらを実体験として理解することは、ビジネスパーソンとしての成長に直結すると考えた。

第二に、BtoB取引では法人の方が信頼されやすいという現実があった。個人事業主として契約交渉をするより、法人として契約する方が、相手企業の稟議も通りやすい。実際、法人化してから契約のハードルが大きく下がった。

第三に、融資の受けやすさだ。日本政策金融公庫の創業融資制度では、事業計画がしっかりしていれば、売上がなくても1000万円程度の融資を、代表者の個人保証なしで受けられるケースがある。個人事業主では考えられない条件だ。

法人設立には約30万円の初期コストがかかった。さらに税理士への年間報酬として数十万円のランニングコストも発生する。決して安くはない。だが、それ以上のメリットがあることを、5期目を迎えた今、強く実感している。

■予想外だった3つのメリット
実際に法人を運営して気づいたのは、想定していたメリット以上に、予想外のメリットが大きかったことだ。
まず、実績が「会社の資産」として蓄積されること。個人事業主やフリーランスで、きちんとウェブサイトに事例を掲載している人は意外と少ない。だが法人なら、堂々と実績を公開できる。クライアント企業も、個人のブログに自社の事例が載るより、法人のウェブサイトに掲載される方が安心感を持つ。

1期目から4期目まで積み上げてきた実績は、今では何よりの信頼資産になっている。新規の問い合わせでも「◯◯社の事例を見て連絡しました」と言われることが増えた。

次に、融資の受けやすさが段違いだということ。1期目から4期目まですべて黒字決算を続けてきた実績は、金融機関からの信頼に直結する。「4年間ちゃんと会社を運営してきた」という事実と、黒字決算の積み重ねが、個人の信用に加えて法人としての信用も生み出す。

そして最も驚いたのが、お金の使い方に対する感覚の変化だ。

個人のプライベート口座から10万円使うのと、会社の口座から10万円使うのでは、心理的な意味がまったく違う。個人の10万円は「消費」になりがちだが、法人の10万円は「投資」になる。

たとえば、業務効率化のためのツール導入に月3万円かかるとする。個人の副業なら「ちょっと高いな」と躊躇するかもしれない。だが法人なら「月3万円の投資で月10時間の時間が生まれ、その時間で月20万円の売上が作れるなら、明らかにプラスだ」と即座に判断できる。

この「投資思考」が身につくことは、会社員としての本業にも良い影響を与えた。

■会社員を辞めずにリスクを最小化する
ここまで読んで、「それなら自分も法人をつくろう」と思った方もいるかもしれない。だが、ちょっと待ってほしい。

私の経験から断言できるのは、いきなり会社を辞めて独立するのはリスクが高すぎるということだ。

2014年の私のように、実際にやってみないとわからないことが山ほどある。「これなら儲かりそう」と思って始めても、やってみたら全然楽しくない、向いていないということもある。

会社員として安定した収入があれば、副業がうまくいかなくても生活に困ることはない。そして何より、「本当に自分はこの仕事で独立できるのか」を、リスクを最小限に抑えながら検証できる。

もちろん、会社員として働きながら副業をすることには制約もある。時間は限られるし、体力的にもきつい。だがそれは逆に言えば、「本当に好きで得意なことしか続けられない」という強制的な選別装置になる。

実際、私が今やっている営業・マーケティング支援の仕事は、時間が限られているからこそ、効率化とノウハウの体系化が進んだ。限られた時間で最大の成果を出すために、プロセスを徹底的に磨き上げた。その結果が、今のビジネスの競争力になっている。

■「シンク&ラン」で小さく始める
もしあなたが「何か始めたい」と思っているなら、まずは小さく始めてほしい。

貯金がゼロでも、明確なビジネスプランがなくても大丈夫だ。走りながら考える「シンク&ラン」で十分だ。ただし、一つだけ守ってほしいことがある。

それは、「好きなこと、得意なこと」を軸にするということだ。

「儲かりそう」という理由だけで始めると、2014年の私のように地獄を見ることになる。だが「これなら続けられる」という確信があれば、多少の困難は乗り越えられる。

マイクロ法人は、会社員が自分のビジネスを持つための最良の選択肢だ。初期コストとランニングコストはかかるが、得られるものは金額では測れない価値がある。

10年前の失敗が教えてくれたのは、「好きなこと、得意なことを軸にする」「会社員を辞めずにリスクを最小化する」という2つの教訓だった。あの朝3時の梱包作業がなければ、今の私はいない。失敗は、最高の学びだった。

柳澤大介 株式会社マイノリティ代表取締役


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■プロフィール 柳澤大介 株式会社マイノリティ代表取締役
yanagisawa
1981年長野県生まれ。キーエンス・メルカリ・スマートニュースで新規事業の立ち上げに従事。独自の営業・マーケ手法で、新規事業を成功に導くスペシャリスト。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師。監修した「法人営業の教科書」はUdemyの販売実績2,800万のベストセラー。
会社員として働きながらマイクロ法人を設立し、現在5期目。1期目から4期連続黒字経営を継続。経営者・フリーランス向けのオンラインコミュニティ「サクラダ・ファミリア」も運営している。

公式サイト https://minority.works/
X:https://x.com/socialselling84 @socialselling84
オンラインコミュニティ「サクラダ・ファミリア」 https://brand-farmers.jp/blog/sakurada-familia-2/

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