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幼稚園の頃から「ちゃんとして」「変なことしないで」と言われてきた私たち。無意識のうちに身につけた“分相応”という枠組みは、大人になっても私たちの行動を制限し続けています。

「普通」の裏に潜む日本特有の文化的ルールとは? なぜ多くの日本人は挑戦を恐れるのか?

「分相応」という思い込みが挑戦を妨げる……その原因である日本的価値観を見つめ直し、周囲に流されず自分を変えるための思考術を、マーケティング戦略を専門とする著者が解き明かします。

※本記事は『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考(永井竜之介・CROSS-POT)』の一部を再構成したものです。



■3歳からもう始まる「ちゃんとして」
生まれたばかりの赤ちゃんは、最初はとても自由で、何をしても褒めてもらえます。「笑った!」「ハイハイできた!」「喋った!」「食べた!」など、何でもできたことに注目してもらえます。

それが、3年ほど経ち、幼稚園に入る頃になると、早速、もう「分相応」が始まっていきます。一般に、幼稚園と比べて、保育園の方が自由で、良し悪しはあるとしても、子どもにルールを強いる度合いは低いことが多いでしょう。

相対的に、幼稚園では、小学校の前教育として「ちゃんと」する習慣を教えられます。ちゃんと制服を着て、ちゃんと帽子をかぶって、ちゃんと登下校をして、ちゃんとクラスで活動をする。

そうした教育の中で、必然的に「ちゃんと」できないことに注目されるようになっていきます。

●「変なことしないで」=「ちゃんとして」
「ちゃんと」の語源は、「丁度(ちょうど)」とされています。ちょうど良く、ちょうどピタリと合うように、といった意味合いがあります。この「ちゃんと」の反対は、「変なこと」といえます。

だから、「ちゃんとして」と「変なことしないで」は近い意味で使われることが多いでしょう。「ちゃんと」に続く言葉を考えてみると、「ちゃんと、普通にして」「ちゃんと、ルールを守って」「ちゃんと、周りに合わせて」「ちゃんと、我慢して」など、分相応を良しとするさまざまな言葉に繋がることが分かります。基本的には、「ちゃんと聞いて、ちゃんとやって」です。

より正確には、「ちゃんと受け入れて、ちゃんと実践して」といえるでしょう。給食のときは、ちゃんと好き嫌いしないで、ちゃんと全部食べて。運動や音楽の時間には、ちゃんと先生の言うことを聞いて、ちゃんとその通りにやって。勉強の時間は、ちゃんとクラスのルールを守って、ちゃんと読み書きや計算をして。幼稚園•小学校の段階から、もう「ちゃんとして」は始まっていくわけです。

また、「ちゃんと」には、周りの誰かの目を気にすることが多いのも特徴です。「ちゃんとして」の後には、「そんな変なことしてると、みんなに嫌われるよ」と続くことがあるでしょう。友だち、先生、家族などに嫌われないように、「ちゃんとしておこう」というわけです。

「ちゃんと食べて」の後には、「せっかく給食当番の人が準備してくれたんだから」「残したら、料理を作ってくれた人に失礼だから」「野菜を育ててくれた農家の人たちに悪いから」といった理由が続きます。

自分が食べたいか、食べたくないか、個人としての判断が重んじられることはなかなかないはずです。それよりも、ルールやモラル、他者を重んじる考え方や行動が良しとされやすいことが一般的です。

●いつでもどこでも「ちゃんとしよう」
悪いことをしてしまうと出てくる鬼やお化け。悪い子を見つけたら山に連れていってしまうナマハゲ。

人の行いを見ている神様やお天道様。このように、日本では、「ちゃんとしていない」悪いことをしたら、誰かが見ていて、罰を与えられるような言い回しがとても多いことに気づきます。周囲に合わせ、周囲と同じ考えや行動をしておいた方が良いという感覚は、こうした言い回しからも、知らず知らずのうちに作られていくでしょう。

子どもも、大人になっても、「ちゃんとする」感覚が根付いていることが良く分かるのが、自動販売機です。日本では、駅や施設の中だけでなく、街や道の至るところに自動販売機が置かれています。

じつは、そんなことができる国は、世界の中で日本くらいなものです。海外では、空港やホテルの中にはあっても、道ばたにポッンと自動販売機を置くようなことはできません。なぜなら、人がいないときや夜中などに、自動販売機の中身やお金がすぐに強奪されてしまうからです。

日本の人は、誰も見ていなくても、自動販売機から強奪するような悪さをしません。それは、「ちゃんとする意識」が老若男女に共通して根付いているからです。悪いことをしたら、変なことをしたら、人や神様の誰かが見ていたり、天罰が下されたりするから、「ちゃんとしよう」という価値観がとても強いのです。

永井竜之介 高千穂大学商学部 教授


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■プロフィール 永井竜之介 高千穂大学商学部教授
nagai
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了の後、博士後期課程へ進学。同大学商学学術院総合研究所助手、高千穂大学商学部助教を経て2024年より現職。
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。
日本と中国を生活拠点として、両国のビジネス、ライフスタイル、教育等に精通し、日中の比較分析を専門的に進めている。
主な著書に『マーケティングの鬼100則』(明日香出版社)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」 』(イースト・プレス)がある。1986年生まれ。

大学公式サイト:https://www.takachiho.jp/outline/professor/commerce/ryunosuke_nagai.html


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