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「夢よりも現実的な目標を」「もういい年なんだから」。大人になるにつれ、私たちは“分相応な夢”を持つように矯正されていきます。

挑戦よりも安全、理想よりも現実が優先される社会で、いつの間にか夢を語ることすら恥ずかしいと感じるようになる。そんな日本人の「夢喪失」の構造を紐解きながら、再び“なりたい自分”を思い出すためのヒントとは?

「分相応」という思い込みが挑戦を妨げる……その原因である日本的な価値観を見つめ直し、周囲に流されず自分を変えるための思考術をマーケティング戦略を専門とする著者が解き明かします。

※本記事は『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考(永井竜之介・CROSS-POT)』の一部を再構成したものです。



■中学生になったら「夢より目標」
小学生の頃は、自由な夢が持てます。

将来は、「プロスポーツ選手になりたい」「世界一になりたい」「宇宙飛行士になりたい」など、卒業文集には色々な「自由な夢」が書かれます。しかし、中学生になると、次第に、夢よりも「地に足の着いた目標」を持つように、学校でも家庭でも、半ば強制されがちです。

「夢みたいなことばかり言ってないで」「もう『いい年』なんだから」「そろそろ『子ども』じゃないんだから」といって、その時点における運動能力や学力、経済力などから、「(周りから見て)現実的に手が届きそうな目標」を持つように誘導されやすい傾向にあります。

これは、つまり、まだ10代前半の時点で、自分にとっての「分相応な目標」を持たせる教育が行われやすいということです。

だから、「日本の若者には夢がない」というのはごく自然な結果です。そうなるように教育されるから、に他なりません。一定の年齢を経た学生も、大人になった社会人も、自分の夢を持つことはほとんどなくなってしまいます。

就職活動のときには、面接のために「夢に近い目標」を用意しますが、いざ働き始めると、それもすぐに消えてしまいやすいものです。「夢がない」は、会社のトップに立つ経営者にも当てはまります。

昔と比べて、多くの日本の経営者が、「組織が目指す夢」を掲げなくなっています。それは、縦割りの部署をローテーションで回るキャリアを歩んできたことで、自分が所属した部署の、数年ごとの知識や経験しかなく、会社の全体像を語りにくい場合もあるでしょう。

また、3年や5年といった限られた期間だけトップを任されることが分かっているため、それ以上先の未来まで語る立場にはないと割り切っている場合もあるでしょう。

●夢は「大ぼら」なほど語っていい
総じて、「サラリーマン社長」よりも、創業者でもある「オーナー社長」の方が、自分事として「会社の夢」を持ちやすいものです。

「自分の会社」として、一国一城の主のような感覚を持てるためです。日本電産を創った永守重信さんは、自身と、ファーストリテイリングの柳井正さん、ソフトバンクグループの孫正義さんを合わせて、「大ぼら三兄弟」と呼んでいます。

それは、三者は共通して、「大ぼら」に聞こえるほど大きな夢を掲げるからだといいます。けれども、それが実現しない「ほら話」で終わらず、夢を実現し、さらにその先の夢を追い続けていることは、それぞれの足跡が証明していることでしょう。

この三者が特別な存在として取り上げられるほど、日本において「夢」は持たれにくくなっているものです。夢を持つことは、青くさく、どこか気恥ずかしさや後ろめたさがあって、「まだ『夢』なんて言ってるの?」「いつまで『夢』なんて持ってるの?」と嘲笑されるような対象とされがちです。だから、「ジャパニーズドリーム」という言葉を耳にすることはほとんどないでしょう。

しかし、「アメリカンドリーム」「チャイニーズドリーム」という言葉はよく耳にします。スポーツの世界で成功を掴んだり、音楽や演技の道で成功したり、ベンチャー企業を作って成り上がったりして、夢を叶えることを意味する言葉です。規模や数に差はあるとしても、スポーツ•音楽•演技の「ドリーム」は、日本にもあります。

しかし、ビジネス•仕事における「ドリーム」は、やはり日本にはとても少ないものとなっています。

●スターバックスコーヒー•CEOが年の初めに妄想する「5年後の夢」
トップに限らず、現場に立つビジネスパーソンー人ひとりにとっても、夢を持って働くことは大切です。夢の大小は関係ありません。「自分が何をしたいか」「どんな風にやりたいか」「何者になりたいか」といった夢を持って働くことで、意識を変え、行動を変え、「分相応な今の自分」を分不相応に変えていくことができるようになるからです。

スターバックスコーヒーで日本のトップを務める水口貴文さんは、30代前半の頃から20年以上続けている習慣として、毎年、その年の初めに「自分の5年後の夢」を妄想するようにしているといいます※。

5年後の自分はどんな人間になっていたいか。どんな仕事をしたいか。どんな人間関係の中にいたいか。仕事の他に、どんな趣味を楽しんでいたいか。

「ならなきゃ」ではなく、「なりたい」自分を妄想し、5年後にそうなるために今年は何をしようかを考え、行動するように心がけ、また次の年になったら妄想を更新するのです。まさしく、夢を持つことで、意識を変え、行動を変え、自分を変えていく習慣といえるでしょう。

※ ツギノジダイ(朝日新聞グループ)「スターバックス水口貴文CEOが 20 ~30代で身につけた2つの習慣」

永井竜之介 高千穂大学商学部 教授


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■プロフィール 永井竜之介 高千穂大学商学部教授
nagai
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了の後、博士後期課程へ進学。同大学商学学術院総合研究所助手、高千穂大学商学部助教を経て2024年より現職。
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。
日本と中国を生活拠点として、両国のビジネス、ライフスタイル、教育等に精通し、日中の比較分析を専門的に進めている。
主な著書に『マーケティングの鬼100則』(明日香出版社)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」 』(イースト・プレス)がある。1986年生まれ。

大学公式サイト:https://www.takachiho.jp/outline/professor/commerce/ryunosuke_nagai.html


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