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「苦手をなくす」ことに重きを置く日本の教育や社会。均一化を求める風潮は、結果的に突出した才能の芽を摘み取ります。

そしてそれは他国との大きな落差となり、偏った天才を排除してしまうのです。

「分相応」を良しとする思い込みが挑戦を妨げる……その原因である日本的価値観を見つめ直して周囲に流されず自分を変えるための思考術を、マーケティング戦略を専門とする著者が解き明かします。

※本記事は『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考(永井竜之介・CROSS-POT)』の一部を再構成したものです。



■得意より「苦手なし」の方が上?
小学生になると、国語•算数•理科などの色々な科目の勉強が始まります。色々な勉強の中で、多くの子どもには得意と不得意が出てくるものです。

国語や社会の文系科目、算数や理科の理系科目、音楽や絵の芸術科目などにおいて、最初の得意•不得意が現れてきます。そのとき、一般に、日本の学校でも家庭でも、「苦手科目がない」ことを求められやすい傾向にあります。得意を伸ばすよりも、苦手を克服することが優先されやすいといえるでしょう。例えば、得意な算数は100点、苦手な国語は40点の子がいたとします。

その子は、「算数はすごい、でも国語はできてないから、国語の方も頑張りましょう」と個人面談でアドバイスを受けることになるはずです。また、算数も国語も80点を取れている子の方が、より高い評価を得やすくもあります。小学3年生の子だとしたら、算数で100点を取れていれば、もっと上の学年のレベルまで先取りしてまで得意を伸ばしていくことは重視されにくいでしょう。

それよりも、まず、ちゃんと苦手な国語を克服することが求められやすい傾向にあります。

●「偏った天才」は生まれにくい
そうすると、「偏った天才」は生まれにくくなります。オールマイティな天才はごくまれに現れたとしても、ある1つの分野に突出した「偏った天才」は、苦手克服を優先する教育によってストップをかけられてしまいやすいわけです。

その結果、周りと歩調を合わせられて、二歩、三歩と飛び抜けていくことはなくなり、良くても半歩先を行く程度に落ち着きがちになります。

ある特定の分野で秀でた能力を持っていれば、年齢に関わらず、どんどん上へ飛躍させていく仕組みとして、「飛び級制度」があります。しかし、日本では高校生未満の飛び級はできないように規制されていて、高校生以上でも、飛び級•飛び入学をした前例は限られています。

一方、アメリカや中国では、飛び級制度を使って、10代前半で大学にまで進学する子どもがチラホラといます。

●若い才能を受け入れられる人•組織•社会
2023年6月、アメリカの14歳の少年が大学を卒業し、宇宙船の打ち上げや宇宙開発に関わるサービスを展開するベンチャー企業•スペースxにソフトウェアエンジニアとして入社することが大きなニュースとなりました。※1

彼は、小学3年生のとき、小学校の勉強にやりがいを感じなくなると、両親のサポートのもと2年制大学のコミュニティカレッジへ入学します。11歳でカリフオルニア州のサンタクララ大学•工学部へ編入し、コンピューターサイエンスやエンジニアリングの勉強を始めると、さらに飛躍を遂げて、同大学を最年少で卒業し、世界有数のベンチャー企業へ加わっていったわけです。

得意を極めて飛躍していく少年。その飛躍をストップさせずに、サポートする家族や学校。年齢に対する偏見なく、能力やポテンシャルを見極めて採用する会社。こうした人•組織•社会に、「若い才能」「偏った天才」を受け入れる価値観があるからこそ、「飛躍」は成り立つのです。日本では、子どもの頃の習い事から、大人になってからの会社まで、「飛び級」を認めない価値観が根強くあります。

習い事では、上のクラスに上がれるのは「〇歳から」「〇ヶ月通ってから」といった縛りがあることは珍しくありません。会社において、昇格できるのは「〇年目から」「上の枠が空いてから」など、順番を待たせたり、年功序列を強いたりすることは、さらに一般的です。

優秀な人材を集める「天才少年プロジェクト」中国の大手通信機器メーカーのファーウェイは、2019年から、学歴や年齢に関わらず、優秀な人材を世界から集める「天才少年プロジェクト」を始めています。※2

「少年」といいながらも、実際には女性も含まれるし、年齢も大学•大学院卒の20代がメインで、優れた理系の人材を破格の待遇で迎え入れる取り組みになっています。報酬は初年度から1800万円〜4000万円で、業界の水準の5倍の高額が用意され、プロジェクトの開始以来、300人を超える「天才少年」が迎え入れられているといいます。

会社のパフオーマンスや成長可能性を決定づけるのは人材であり、良い人材を集めるためには、それ相応の待遇•報酬が必要不可欠になります。

アメリカや中国の会社が、年俸制や出来高制で優秀な人材を獲得するのは、プロスポーツチームが優れた選手を集めるのと同じ感覚といえるでしょう。そこに縛りや年功序列などを設けていたら、国内外のライバルに優れた人材を奪われ、自分の首を絞めることになってしまうのです。

※1 20BUSINESSINSIDER「スペースXの新入社員は14歳の天才少年…サンタクララ大学の工学部を最年少で卒業」
※2 ITmediaビジネスONLiNE「新卒年収4000万円もファーウェイ「天才少年」を世界で公募開始」


永井竜之介 高千穂大学商学部 教授


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■プロフィール 永井竜之介 高千穂大学商学部教授
nagai
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了の後、博士後期課程へ進学。同大学商学学術院総合研究所助手、高千穂大学商学部助教を経て2024年より現職。
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。
日本と中国を生活拠点として、両国のビジネス、ライフスタイル、教育等に精通し、日中の比較分析を専門的に進めている。
主な著書に『マーケティングの鬼100則』(明日香出版社)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」 』(イースト・プレス)がある。1986年生まれ。

大学公式サイト:https://www.takachiho.jp/outline/professor/commerce/ryunosuke_nagai.html


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