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大きな波に挑むサーファーは、中途半端な気持ちでは波に飲まれてしまう――。組織心理学者ベンジャミン・ハーディ氏は、何かを学ぶときも同様で、成長型マインドセット(自分は変われるという信念)とコミットメント(全力で取り組む姿勢)が必要だと指摘します。 どうすれば本気で打ち込めるようになるのでしょうか。歴史的事例や心理学の研究から明らかになった、後戻りできない状況を作り出す方法とは。 最適な行動を自動的に選択し、能力を上げる環境の作り方を科学的に解き明かした『全力化(ベンジャミン・ハーディ・サンマーク出版)』から再構成してお届けします。 ■「ダメ人間のような気分になる」のがプラスな理由 新しい何かを学べる人間になるのに必要なのは、「間違うこと」「ダメ人間のような気分になること」そして「もっとよく見える視点から物事を見るべく、世界観を作り直すこと」だ。 そのため、新しい何かを学ぶのは非常に難しく、人が新たに学ぼうとしない理由はそこにある。 適応能力の高い学習者になりたいと思うなら、真摯に取り組む「コミットメント」という貴重なスキルを習得しなければいけない。 学習に取り組むということは、変化に取り組んでいるということだ。これには、「信じる心」と「成長型マインドセット」が必要になる。 深い学びのプロセスは心にとっても体にとっても難しいものであるため、100%、全身全霊で取り組むことが求められる。 すべてをかけて取り組む人だけが、不要なものを手放す「学び」という作業に耐えられるのだ。 適応能力の高い学習者になるために必要な知識とスキルをお伝えしたいと思う。 こうしたスキルには、「真剣に取り組むこと」「耐性を伸ばすこと」「自分が抱く恐怖に順応すること」「不快で難しい感情にきちんと向き合うこと」などが含まれる。 ■「決めたら取り消せない」つもりで決める サーフィンで大きな波に乗るのは、小さな波に乗るのとはわけが違う。大きな波に乗るとき、失敗の代償はもっとずっと大きくなる。 うまくやらなければ、死んでしまう可能性すらある。 サーフィンの専門ウェブサイト「IndoSurfLife.com」にはこう記されている。 「地平線が暗くなり、巨大な水の壁が目の前に立ちはだかる、そこまで大きな波に乗りたがるのは一部の人だけだ。この波に乗りたいと思わなければ、乗りこなすことなどできやしない。ためらったり、中途半端な気持ちで取り組んだりしたら、波に飲まれてしまう」 大きな波をつかまえて乗るには、100%、本気で取り組まなければいけない。 ためらいなどあろうものなら、失敗するだろう。本気で取り組んでいたって失敗するかもしれないのだ。 成功する可能性のある唯一の方法は、しっかり最後までやり遂げてやろうと固く決意していることだ。 大きな波に乗るサーフィンには、生きていくうえで直面する様々な状況に役立つ学びが存在する。 何かに完全に打ち込んでいるときには、中途半端にしか取り組んでいないときとまったく違う姿勢をしている。 中途半端な取り組み方のときは、ためらいがあり、自信がない。自分が正しいかどうかよくわからないし、決心ができていない。 しかしながら、一度何かを固く決意してしまえば、心のもやはすべて晴れる。自分がしていることがはっきりと見え、なぜそれをしているのかもはっきりとわかるようになる。 自分には他にどんな選択肢があるのかと考えを巡らせなくなる。 シュワルツ博士は著書の中で、こう述べている。 「一度決心したら取り消せないのだと覚悟していれば、いつも横目で出口を探すのではなく、今の関係をよりよくすることにエネルギーを注ぎ込むことができる」 ■「乗ってきた船」を燃やす 取り消せない決心に関して、すばらしい例がある。 西暦711年、イスラム教勢力がイベリア半島に侵攻した際、半島に到着すると、指揮官ターリク・ブン・ジヤードは自分たちが乗ってきた船を燃やすよう部下に命じた。 炎を上げて燃える船を前に、ターリクは部下たちに次のように述べた。 「愛しい兄弟たちよ。私たちはアッラーの言葉を広めるためにここへ来た。今、敵は目の前にいる。そして背後には海。神のために戦うのだ。勝利を手にするか、殉教するか──それ以外の選択肢はない。逃げ道はすべて閉ざされた」 船は焼かれてしまった。戻る、逃げる、やめるといった手段は、すべて断たれた。 あなたがもしこの軍の兵士だったら、このときどんな思いだったか、想像できるだろうか? 戦いに勝つか、死ぬか──自分にこうしたリスクを作るのを避けてしまう人は、どのくらいいるだろうか? 難しい未知の環境にすぐに適応したいのであれば、100%、全力で打ち込まなければいけない。 問題は、どうすれば100%全力で打ち込めるか、だ。 私が組織心理学者としてずっと研究しているのは、まさにこの点だ。 具体的には、私はこれまで、「帰還不能点」と名づけたコンセプトを研究してきた。目標を避けるよりも、そちらに向かって進むほうが楽になるという瞬間《ポイント》だ。 あなたにとっての帰還不能点とは、自分にとって最高の目標を追いかける以外の選択肢がなくなる、その瞬間だ。 では、帰還不能点を活用するには、どうすればいいだろうか? ■それでも大多数は「無難なほう」を選んでしまう 生物学と心理学の関係を説明した理論の中で信頼性が高いとされているものに、ジェフリー・アラン・グレイ博士が1970年に提唱したものがある。 人格に関する生物心理学の理論で、グレイ博士は「あらゆる行動は2つのシステム(系統)が支配している」とした。 ・行動賦活系:行動賦活系は、報酬に向けて自分を備えるものだ。報酬を知覚すると、行動賦活系はその報酬を得ようと行動を促す。 ・行動抑制系:一方で行動抑制系は、自分の環境にあるリスクや脅威に自分を備えるものだ。リスクや脅威を知覚したとき、行動抑制系が働いて行動にブレーキをかける。 この2つの系統は、常に互いに対して緊張している関係だ。 あらゆる状況において、2つのうちのどちらかが他方を抑えている──行動を起こしているか、行動を抑制しているかだ。 何かに向けて積極的に近づいているか、何かが起こるのを防ごうとしているか。攻撃か防御か、だ。 ほとんどの人は、人生に対して、向き合わずに回避する傾向がある。自分の一番の望みに沿った行動を取っていないのだ。 代わりに、まぬけに見えないように自分の行動を計算して、無難に過ごしている。夢がうまくいかなかったときに備え、リスクを分散させて、バックアップ案をいくつか用意している。 皮肉なことに、ほとんどの時間をバックアップ案に費やし、それがいつしか人生そのものになってしまう。 ■「カネ」を先行投資する ネガティブな影響や感情を避けて人生を築き上げたとしても、行動賦活系を刺激して方向性を変えることはできるのだろうか? もちろん可能だ。アイデンティティさえも変えることができる。というのも、アイデンティティとは行動と、自分の身を置く環境に従うものだからだ。 もしそうなら、守りの人生から攻めの人生にシフトするために、もっとも効果がある行動は何だろうか? 帰還不能点の経験は主に、「金銭の投資」という形で始まる。金銭を投資することによって、人は前へ進まざるを得なくなるのだ。 あるアイデアについて時間をかけて模索している人にとって、その活動がピークを迎えるのは、そのアイデアに金銭を投資するときだ。お金をつぎ込んだ瞬間、その人は後戻りできなくなる。 アイデンティティは、その投資一色に染まる。投資が、その人の一部になるのだ。 このようにして、単なる希望だったものが現実化に向けて大きく前進する。 心理学と経済学において、この行動は「立場固定」と呼ばれるコンセプトで説明できる。 文献によると立場固定とは主に、自分が当初下した決断や投資を正当化したいがために、不合理な決断を下すことだ。 そのため、何かに打ち込みすぎるときには、その中心に「サンクコスト」がある。サンクコスト・バイアス[訳注:ここの例でいうと、何かに打ち込みすぎ、それを正当化したいがために後に引けないでいる状態]は、前述したとおり、予知という形で自分の利益になるよう活用することができる。 高い投資をすることで心の底から打ち込めるようになると知っているため、自分自身の帰還不能点を意図的に作り出せるのだ。 世界の成功者はまさにこれをしている。 彼らはただ夢を見ているのではない。実際に行動している。 自分もリスクを負っているのだ。 ベンジャミン・ハーディ(Benjamin Hardy) 組織心理学者、著作家、起業家 【関連記事】 ■「何でも学んでモノにできる人」と「学べない人」を分ける決定的な差 (ベンジャミン・ハーディ 組織心理学者) https://sharescafe.net/62804444-20251127.html ■【1日平均85回以上チェック】スマホに知らずと依存している人を襲う心身不調の正体 (ベンジャミン・ハーディ 組織心理学者) https://sharescafe.net/62804436-20251126.html ■「何かに依存するのは意志が弱いから」と考える人の大いなる誤解 (ベンジャミン・ハーディ 組織心理学者) https://sharescafe.net/62804410-20251125.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 【著者】 ベンジャミン・ハーディ(Benjamin Hardy) 組織心理学者、著作家、起業家。 起業家が自社を10倍速で成長させるよう支援する研修企業Scaling.comの共同創設者。 クレムソン大学大学院博士課程修了。ブログ・サービス「Medium.com」で多くのフォロワーを持ち、そのネット上のプレゼンスと影響力は、『フォーブス』『サイコロジー・トゥデイ』『フォーチュン』などで取り上げられた。心理学専門誌の電子版「サイコロジー・トゥデイ」などに寄稿中。現在、アメリカのフロリダ州で妻のローレンと7人の子どもたちとともに暮らしている。 【訳者】 松丸さとみ(まつまる・さとみ) 翻訳者・ライター。 学生や日系企業駐在員としてイギリスで6年強を過ごす。 主な訳書に『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』『感情戦略』『FRIENDSHIP 友情のためにすることは体にも心にもいい』(いずれも日経BP)、『いつでも調子がいいカラダになる! ホルモンをととのえる本』(CEメディアハウス)、『THE FOREVER DOG 愛犬が元気に長生きするための最新科学』(U-CAN)、『「人生が充実する」時間のつかい方』(翔泳社)、『脳の外で考える 最新科学でわかった思考力を研ぎ澄ます技法』(ダイヤモンド社)などがある。 ■SUNMARK WEB https://sunmarkweb.com/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


