![]() 同じ年収1000万円でも、法人代表としての年収1000万円は会社員時代とまったく異なる世界だ。なぜなら年収1000万円を実現するには、最低でも売上3000万円が必要になるからである。 私はBtoBマーケティングと営業コンサルティングを専門とするマイクロ法人を4期連続で黒字経営してきた。その経験から、多くの人が見落としている「見えない経営コスト」と、そこにコストをかけるべき理由について考えてみたい。 ■会社員時代には見えなかったコストの重み 「利益率の高いコンサルティングビジネスなら、売上の半分は手元に残るのでは?」——こう考える人は多い。確かに在庫を抱えないため利益率50%以上は維持できる。だが年収1000万円を実現するには売上3000万円が必要なのだ。 理由は想像以上にコストがかかるためである。 会社員時代、給与明細に載るのは自分の給与と自己負担分の社会保険料だけだ。しかし実際には、会社が給与の約15%に相当する額を社会保険料として負担している。さらに交通費、オフィス賃料の按分、福利厚生費など諸々の経費を含めると、年収1000万円の社員を雇用するのに会社は1300万円相当のコストをかけているのだ。 独立後、この「見えなかったコスト」がすべて自分にのしかかる。 例えば、社会保険料は会社員時代、会社が半分を負担していた。法人代表になると全額が実質的な経費となる。年収1000万円の場合、健康保険と厚生年金を合わせて年間約150万円が必要だ。 税理士費用は年間30万円から50万円程度。法人税務は複雑なため、専門家への依頼は事実上必須となる。 業務支援ツール代も馬鹿にならない。SaaSの分析ツール、顧客管理システム、コミュニケーションツールなどを合わせると月額5万円から10万円、年間60万円から120万円になる。 業務委託費は完全に1人では回らない業務のために必要だ。編集、デザイン、事務作業などを外注すると、規模によって年間数百万円かかる。 これらを合計すると、年収1000万円を手にするために必要な経費は優に1000万円を超える。さらに法人税や事業税なども考慮すると、売上3000万円という数字が現実的な目安となるのだ。 ■コンサルティングを「商品」にする難しさ 私の主力事業は営業・マーケティングのコンサルティングだ。しかしコンサルティングは目に見えない知識労働のため、商品化が本当に難しい。 最初は「月に何時間でいくら」という時間売りモデルだった。だがこれでは自分の時間を切り売りしているだけで、スケールしない。体調を崩せば収入はゼロになる。 そこで考えたのがサービスのパッケージ化だ。シンプルな3プラン制を導入した。 重要なのは顧客ごとに金額を変えないこと。「この会社は大きいから高めに」「スタートアップだから安く」といった価格設定をすると、自分の中でも基準がブレてしまう。 だがこのプラン設計も最初からうまくいったわけではない。2期目にマーケティングの提案をよく受ける立場の友人に、私のプレゼンを聞いてもらったことがある。 「これ、高いと思いますか? 安いと思いますか?」 素直に消費者視点でフィードバックをもらった結果、大きな気づきがあった。それは「時間でいくら」ではなく「このプロジェクトを成功に導くのにいくら」という価値ベースの提案に変えるべきだということだ。 相手が求めているのは「コンサルタントの時間」ではなく「ビジネスの成果」である。この視点の転換が受注率を大きく向上させた。 ■仕組み化なしでは3年で限界が来る マイクロ法人を経営していく上で、私は5つのフェーズを意識している。テーマ決め(何をビジネスにするか)、商品づくり(サービスのパッケージ化)、集客(どうやって顧客を見つけるか)、セールス(どうやって契約してもらうか)、そして自動化(仕組み化して回す)だ。 多くの人がまず直面するのはテーマ決めだが、私の経験上、商品づくりからセールスまでは基本的に自分1人でやって、3〜4ヶ月かけて一連の流れを回してみることが大切だ。そしてうまくいきそうなら自動化に進む。 なぜ自動化が必要なのか。「年収1000万円欲しいなら売上3000万円必要」と言ったのは、この自動化にコストがかかるからだ。だがここにお金をかけないと、経営者として大きな壁にぶつかる。 実際、私の周りでも自分の稼働を100%クライアントワークに振って、原価を極限まで抑えている人がいる。一見すると利益率は高く見えるが、こういう人たちは長続きしない。 朝から晩まで、土日も休みなしで既存顧客の仕事をこなす。だがマーケティングや営業に時間を割けないので、新規開拓の時間が取れない。1社でも解約されたら途端に自転車操業になってしまう。慌てて新規を取りに行こうとしても、すぐには見つからない。 中小企業庁の「小規模事業者白書」(2023年版)によれば、個人事業主や小規模法人の3年後生存率は約60%、5年後になると約40%まで低下する。廃業理由で最も多いのは「売上不振」だが、その背景には「既存業務に追われて新規開拓ができない」という構造的な問題がある。 だから多少原価が上がっても、外部への支払いを増やしてでも自動化しないと経営は安定しないのだ。 ■メディア運営で学んだ仕組み化の実践 具体例として、私が2022年に立ち上げたBtoBのメディア展開を紹介したい。 最初の半年間は取材から記事の執筆、編集まですべて自分でやった。1から10まで自分で経験することで、1本あたりの編集にかかる時間、記事化する際の工数、どこまでは自分がやるべきで、どこから外注できるかが分かった。 この経験があったからこそ、適切な編集パートナーを見つけ、品質を保ちながらスケールさせることができた。現在は編集や記事化の大部分を業務委託のメンバーに任せ、私は企画とクオリティチェックに集中している。 昨年始めたポッドキャスト番組も同じだ。初期は自分で編集作業もこなしていたが、勘所が分かってくると外部に依頼できるようになる。そうすることで配信ペースを増やし、結果的に視聴者数も伸ばすことができた。 ■利益率50%を維持する3つの秘訣 「コンサルティングビジネスで利益率50%というと、もっと高くできるのでは?」という声もあるだろう。確かにすべて自分でやれば70〜80%も可能だ。しかしそれでは事業として成り立たない。 利益率50%を維持しながら持続可能な経営をするポイントは3つある。 第一に、信頼できるメンバーとの協業だ。私は社員を雇わず、すべて業務委託契約で仕事を進めている。メンバーは全員、前職や過去の職場のつながり、信頼できる人だけ。だから細かい指示を出さなくても、あうんの呼吸で仕事が進む。 人材紹介会社を通じて新規で人を探すと、採用コストに加えて教育コストも莫大になる。信頼関係がすでにある人と組むことで、これらのコストを大幅に削減できるのだ。 第二に、ツールへの積極投資だ。ChatGPTなどのAIをはじめ、各種分析ツールやSaaSには積極的に投資している。月額で見るとマイクロ法人にしてはかなりの額を使っている方だと思うが、これらのツールが業務効率を劇的に向上させ、結果的に利益率の維持につながっている。 例えばChatGPTを使った資料作成の効率化だけでも、月に20時間程度の時間を節約できている。時給換算で5000円としても月10万円の価値があり、年間120万円に相当する。ツール代が月数千円から数万円程度なら、投資対効果は明らかだ。 第三に、価値の切り売りをしないことだ。例えば私は法人向けの研修も提供しているが、これも戦略的に設計を変えた。 以前は1対1で3ヶ月のパッケージだったが、現在は1対N(複数人同時受講可)で6ヶ月に変更した。一見すると値上げだが、企業側からすると1人あたりの単価は下がるので導入しやすくなった。 同時に私の提供価値も上がる。6ヶ月という期間があれば、受講者の成果まで伴走できるからだ。 ■「もっと少ない売上でも可能では?」という疑問に答える ここまで読んで「売上3000万円は多すぎるのでは? もっと少なくても年収1000万円は可能では?」と思う方もいるだろう。 確かに理論上は可能だ。例えば自宅を事務所にして家賃をゼロにし、ツールも最小限に抑え、すべての業務を自分1人でこなせば、売上2000万円程度でも年収1000万円に届くかもしれない。 しかし問題は「それが持続可能か」という点だ。 フリーランス協会の「フリーランス白書2023」によれば、年収1000万円以上のフリーランスのうち約70%が「外部パートナーとの協業」を行っている。また年収300万円未満の層では約80%が「すべて自分1人で業務を完結」させている。 この数字が示すのは、高収入を持続的に得ている人ほど「仕組み化」に投資しているという事実だ。 「売上を増やしながら年収も上げる」という成長モデルを実現するには、仕組み化への投資が不可欠なのである。 ■ワクワクを基準に新規事業を選ぶ重要性 ここまで数字の話ばかりしてきたが、最後に伝えたいのは「儲かるかどうかだけで仕事を選ばない」ということだ。 私は10年前、会社員時代に副業で始めた事業で失敗した経験がある。当時は「儲かりそうだから」という理由だけで始めたが、自分が心から興味を持てない分野だった。結果、モチベーションが続かず、中途半端な形で終わってしまった。 この失敗から学んだのは、好きでもない仕事を金儲けのためだけにやるのは本当に辛いということだ。だから私は新規事業を考える時も「ワクワクするかどうか」を最重要視している。 BtoBメディアを立ち上げた時も、会社員時代だったらエクセルで精緻な事業計画を作っては悩んでいただろう。だが当時は以下の理由だけで始めた。 周りがまだやっていない(ファーストペンギンになれる)、自分自身がXに力を入れていて楽しかった、業界No.1のポジションを狙える——。 儲かるかどうかは度外視して先行投資した。結果、今ではうちの会社の第二の収益の柱に成長している。 心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」によれば、人は自分のスキルと課題の難易度が適切にマッチした時、最も高いパフォーマンスを発揮する。つまり「好きなこと」「得意なこと」「価値を提供できること」が重なる領域でビジネスをすることが、長期的な成功につながるのだ。 ■小さく始めて、少しずつ仕組み化する マイクロ法人といえども、仕組み化は必須である。これができていない会社は、私の周りでも3年以内に畳んでいる。なぜならすべてを自分一人でやろうとすると、必ず限界が来るからだ。 だが最初から完璧な仕組みを作る必要はない。 私が推奨するのは「小さく始めて、少しずつ仕組み化する」というアプローチだ。 まず3〜4ヶ月は自分1人ですべてをやってみる。その過程で「どの業務が最も時間を奪っているか」「どの業務は自分でなくてもできるか」を見極める。 そして最も時間を奪っている業務から順番に、外注やツール化を進めていく。月額数万円から始められるツールや、時給2000円から3000円程度で依頼できる業務委託パートナーは、探せば必ず見つかる。 重要なのは「浮いた時間で何をするか」だ。単に休む時間を増やすのではなく、その時間を営業や企画、新規事業の立ち上げに充てる。そうすることで売上が伸び、さらに仕組み化への投資ができるという好循環が生まれる。 年収1000万円を実現するマイクロ法人経営は、決して楽な道ではない。だが正しい知識と戦略があれば、会社員時代よりも高い収入と、自分らしい働き方の両方を手に入れることは十分可能だ。 「売上3000万円」という数字に怯む必要はない。小さく始めて、着実に仕組み化していけば、必ず到達できる目標なのだから。 柳澤大介 株式会社マイノリティ代表取締役 【関連記事】 ■「儲かりそう」で始めた副業が月商100万なのに地獄だった理由—マイクロ法人5期目の経営者が語る失敗と成功(柳澤大介 経営者) https://sharescafe.net/62766220-20251108.html ■何かを学び取りたい人の成果を分ける「お金を投じるか」「投じないか」の決定的な差 (ベンジャミン・ハーディ 組織心理学者) https://sharescafe.net/62804453-20251128.html ■日経平均史上最高値の熱狂の裏で、専門家が明かす“年率30%”を狙う銘柄入れ換え株式投資法 (藤村哲也 投資助言代理業) https://sharescafe.net/62808733-20251126.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? 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