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「ビジネスにおける成功のカギは準備にある」──これは長年、ビジネス書や自己啓発書で繰り返し語られてきたフレーズです。たしかに、事前にシナリオを描き、想定問答を作り、資料を整え、環境を整備することは安心材料になります。

営業であれば、提案資料や競合分析、会議に使用する発表用のスライドや議事の想定など、入念な準備があればあるほど、自信をもって本番に臨めるのも事実です。セールスコンサルタントとして現場の営業職の方を見ていると、「準備が9割」と言わんばかりに準備に注力している人もよく見かけます。

しかし、営業で成果を出したいなら、この「準備至上主義」には注意が必要です。「準備が整わないと動けない人間」に陥る可能性があるからです。

会議の場で思わぬ質問を投げかけられたとき。クライアントから突然「今日は時間がないから口頭で説明してほしい」と言われたとき。準備の想定を超えた瞬間に、思考がフリーズし、行動が止まってしまう人は少なくありません。

つまり「準備が9割」という考え方を信奉しすぎると、逆に現場での柔軟性を奪われてしまうのです。

この記事では、大手外資系メーカーの営業職として「世界No.1」となり、現在はセールスコンサルタントとして活動する立場から、営業において準備至上主義を脱するべき理由と、その方法について考えてみたいと思います。

■「準備がすべて」を疑う時代背景
かつてのビジネスは、ある程度予測可能でした。市場が安定し、競合も限られ、戦略を練ればその通りに実行できる。そんな時代であれば、「準備を徹底すること=成功確率を高めること」でした。

ところが現代は違います。VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われる通り、シナリオ通りに物事が進むことはほぼありません。テクノロジーの進化、顧客の価値観の変化、国際情勢の揺らぎ。昨日までの前提が、翌日には一変しているのが現実です。

このような状況で「準備9割」を信じていると、むしろ脆弱になります。なぜなら、準備が通用するのは「想定内の未来」においてだけだからです。想定外が常態化する今、「準備が9割」は幻想に近くなるのです。

■準備ゼロでも動ける人の強み
では、準備に頼り切らない人はどう動いているのでしょうか。ここで鍵となるのが「先読み力」です。

先読み力とは、未来を完全に予測することではありません。むしろ、「次に起こりうる複数の可能性を持ちながら、その場で最適解を選ぶ思考習慣」と言った方が正確でしょう。つまり、「どんな状況が来ても動ける状態」を日常的に鍛えるのです。

準備がゼロでも動ける人は、いくつかの特徴を持っています。

1.“型”を持っている
資料がなくても、自分の頭の中に論理の骨格やストーリーを整理しているため、話を組み立てられる。

2.失敗を恐れない心構え
準備が完璧でないことを弱点とせず、むしろ「現場で修正すればいい」と考える。

3.引き出しの多さ
日常からさまざまな事例や経験をストックしているため、どんな場面でも例示や根拠を持ち出せる。

4.相手に合わせて即興で形を変える柔軟性
準備済みのシナリオを押し通すのではなく、その場で相手の反応を読み取り、流れを変えられる。

これらは、いずれも「準備しなくてもいい」という意味ではありません。重要なのは、「準備の量」ではなく「準備の仕方」なのです。

■「準備が9割」を「準備は2割、現場力8割」に
私自身、営業時代に痛感したことがあります。入社1年目、徹夜で資料を作り込み、何度もリハーサルを重ねて臨んだ大手クライアントへの提案。

ところが、先方の機材トラブルでスライドが使えず、頭が真っ白になった経験があるのです。準備に依存していたからこそ、準備が通用しなかった瞬間に自信が崩れ去りました。

一方で、簡単な資料だけで臨んだプレゼンでは、驚くほどの高評価を得られたのです。理由はシンプルです。相手の反応を見ながら、その場で言葉を選び、例を差し込み、対話を組み立てられたからです。

今思えばここで得た教訓は、「準備が9割」という固定観念を疑え、ということでした。

私は今、「準備は2割、現場力8割」と考えています。もちろん基礎知識や最低限の資料作成は不可欠ですが、それ以上に「その場で判断し、修正し、即応する力」が圧倒的に重要です。

■準備に時間をかけすぎないための工夫
では、具体的にどうすれば「準備9割信奉」から抜け出せるのでしょうか。いくつかの実践的な工夫を紹介します。

•スライドはできるだけ少ない枚数に制限する
資料が多いほど準備に時間を取られ、話も資料に縛られる。最低限の骨格だけで勝負する。

•想定問答を作らない
代わりに「相手の立場ならどんな疑問を持つか」を3つだけ考えておく。

•日常的に“ミニ即興”を繰り返す
仲間との雑談、会議での意見、すべてを「即興の練習」と捉え、瞬発的に言語化する癖をつける。

•「完璧さ」より「進行」を優先する
完璧な答えを目指すと止まってしまう。まず動き出し、必要に応じて修正する。

こうした習慣を積み重ねることで、「準備が整わなくても動ける」状態が自然に身についていきます。

■先読み力は“動きながら整える力”
「準備が9割」という言葉は、安定した時代には有効でした。しかし、不確実性が常態化した現代では、それは足かせにすらなります。大切なのは「準備をしなければならない」という思い込みを外し、どんな状況でも即座に動ける力を養うことです。

先読み力とは、「未来を完全に準備する力」ではなく、「未来の不確実さに備え、動きながら整える力」です。準備の完璧さよりも、現場での即応力。これこそが、変化の時代に生き残るための最大の武器なのです。


財津優 セールスコンサルタント



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■プロフィール 財津優 セールスコンサルタント
zaitsu
半導体商社で技術職として中国で工場の立ち上げなどを行ったのち、国内医療機器メーカーで営業職を経験。大手外資系医療機器メーカーにて1年目から売上金額と新規獲得顧客数でトップとなり「新人賞」と「優秀セールス賞」を獲得。ニューヨークや中国でも表彰され、自身の取り扱う製品で「世界No.1」の座を獲得する。現在はセールスコンサルタントとして、大手企業やメガバンクでの講演会やセミナーの開催、セールスコンサルティングを行う。
教育・社会貢献活動にも尽力し、家庭環境に恵まれない子どもたちへ食事付きの無料塾を提供する“NPO法人維新隊ユネスコクラブ”(ユネスコの連盟団体)の理事を務める。その他3社で営業責任者も務める。著書に『世界No.1営業マンが教えるやってはいけない51のこと』(明日香出版社)『リモート営業の極意 』(WAVE出版)。

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