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超売り手市場による人材獲得競争の激化により、各社の初任給引き上げが止まらない。

「kintone」などのクラウドサービスを展開する株式会社サイボウズは、2027年4月入社の新卒社員の初任給を、ビジネス職は40万円 (想定年収560万円 ※前年比25%増)、エンジニア職は43万円(想定年収602万円 ※前年比19.4%増)に引き上げることを発表した。

大手総合商社の伊藤忠商事は、2024年以降、連続した増額を実施しており、現在は大学院卒の月給が試用期間終了後から40万円へと引き上がっている。

このような初任給引き上げの背景には、現代のビジネス環境の急速な変化がある。

DX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AIの活用は加速度的に進み、企業は会社を成長・存続させていくために、新たな視点やスキルを持つ、優秀で多様な人材を採用していくことが喫緊の課題となっているのだ。

しかし、こうした人材を獲得し長期的に活躍してもらうためには、初任給の引き上げだけで十分とはいえない。

それは、人材を受け入れる側として、DEI (Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとったもの)が、組織のすべての人に対して尊重され、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境を構築していくことが求められるからだ。

DEI時代の採用活動は、採用側だけではなく、同時に『受入側の変革』を行うことが成功の鍵となる。この記事では、その理由について人材コンサルタントの立場から考えてみたい。

■新しいタイプの人材はどう“活かすか”が重要
新卒採用のコンサルを行っていると、業界問わず多くの経営者、採用担当者から、変化の時代を生き抜くため、新規事業創生のキーマンとなる「新しいタイプの人材を採用したい」「既存の枠に囚われない革新人材/挑戦人材を採用したい」という声が届く。

一方、新しいタイプの人材を採用したものの、早期離職してしまい残らない、という声も少なくない。

いざ新しいタイプの人材を採用できても、その活かし方を工夫しなければ、「思っていた環境ではなかった」「自分には合わない」と早期離職に繋がってしまうのである。

新しいタイプの人材はどう“活かすか”が重要。だからこそ、『採用はゴールではなくスタートである』ことを忘れてはいけない。

■新しい人材を受け入れる土壌がなければ人は根付かない
うちが支援する企業で、まさに誠実・真面目という言葉が相応しいIT企業がある。とても穏やかで実直な企業風土だからこそ、社員は「言われたことをやりきる」ことに長けている。

一方、次の中期経営計画を見据え、市場の変化や会社の成長戦略に対応していくためには、そうした既存社員とは異なる視点やスキルをもった、新しいタイプの人材も採用していくことが求められていた。しかし、何とか内定承諾までこぎつけても、早期離職に繋がるケースが少なくないと言う。

こうしたケースの場合、新しいタイプの人材を受け入れる会社側の土壌が育っていない可能性がある。

株式会社マイナビが26卒ですでに入社予定先が決まっている就活生を対象に行った調査によると、次のような状況が見て取れる。

『入社予定先が決まっている学生のうち58.8%が「入社予定先企業で長く働きたい」と回答している。短期間で転職を希望している割合は非常に低く、「1年以内に転職を考えたい」で0.9%、「3年以内に転職を考えたい」で3.4%となった。学生は、新卒で入社する会社で長期的なキャリアを見据えていることが分かる。』(引用:離職率とは?最新データから早期離職の現状を考察 キャリアリサーチLab株式会社マイナビ(朝比奈あかり) 2025/10/10)

新入社員の方も、最初から早期離職しようとは思っていないのだ。

では、なぜ新卒の早期離職が問題になっているのか。

先ほどと同記事の考察によると、同じく株式会社マイナビが実施した「2024年卒入社半年後調査」において、入社して半年経ち、入社を決断した時とギャップがあったかという質問に対し、ネガティブなギャップがあったと回答した割合がもっとも多かったのが「仕事内容(28.3%)」であったという。(参照:同上)
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(出典:2024年卒 入社半年後調査 株式会社マイナビ 2024/12/11)

早期離職には様々な要因があると考えられるが、新しいタイプの人材ほど、当事者意識や行動力が高い傾向にあり、挑戦・成長を感じられる業務や、一定のスピード感がある環境など、受入側の土壌が育っていなければ、「このままこの会社にいていいのか」と不安を感じ、早期離職に繋がってしまう。

■採用側に求められる対応
それでは、こうしたミスマッチをなるべく起こさないために、採用側と受け入れる現場側とでは具体的に何をすれば良いのだろうか。まず、採用側としては下記のような対応が求められる。

・求める人物像の再設計
実際に採用活動を始める前に、会社の未来に必要な、新しい視点やスキルを持つ人物像を改めて言語化する必要がある。言語化する際には、経営層など今後の会社の方針を考えている経営戦略策定者に、求める人物像のヒアリングを行い、共通する「志向性」を洗い出すことが有効である。

求める人物像を言語化する際の注意点として、よく共通する「能力」(コミュニケーション力、問題解決力、リーダーシップなど)を洗い出しがちだが、「能力」ではなく「志向性」を洗い出して欲しい。

なぜなら、「能力」というのは入社後の学習や研修、経験を通して比較的容易に習得・向上させることができるが、「志向性」は個々人の価値観やパーソナリティに起因するため、短期間で直接的に教えることが難しいからだ。

また、「コミュニケーション力」などと一般的な能力を記載しても、就活生からすると、具体的にどんな場面でどの程度の能力を発揮することが求められているのか、具体的にピンと来ないだけでなく、その能力自体に自信がある就活生も少ないことから、能力を言語化させてもあまり意味は無いと言える。

これに対し、「目標を達成することにやりがいを感じる」といった志向性は、就活生も自分の価値観にマッチしているかどうか判断しやすく、自信の有無も関係無いことから、よりミスマッチの無い採用を行うためには有効である。

・採用のメディアミックス
「メディアミックス」とは、企業が採用活動を行う際に、複数の異なるメディア(媒体)を組み合わせて活用する戦略のことである。求める人材によっては浅く広く求人が出せる大手採用サービスよりも、若年層に強いSNSの方がリーチを最大化できることもある。メディア毎の強みを活かし、より自社に合ったメディアを選定し、相乗効果を狙っていくことが重要である。

■受入側に求められる対応
採用時だけでなく、受け入れる現場の側にも次のような対応が求められる。

・組織の改善
よくある事例に、新しいタイプの人材が早期離職した際に、「自社に合わなかったからすぐ辞めてしまった」と、離職理由を退職者本人に帰属させてしまうことがある。

例え早期離職になってしまったとしても、離職の理由を本人に帰属させず、「なぜ自社が合わないと感じたのか」、「組織側(配属先・評価制度・組織文化など)に改善すべきことはなかったか」振り返り、改善点があれば柔軟にアップデートしていく必要がある。

・既存社員の意識改革
面接や教育担当をした経験がある方は、優秀だけど育てにくそうな人に一度は会ったことがあるのではないか。そういった、いわゆる既存の社員に対して「異質」(新しいタイプ)な人材は、入社してもどう育成したら良いか分からないという既存社員の心理的な負担から、選考で落とされてしまうケースが少なくない。

このように、受入側の土壌が整っていなければ、会社として新しいタイプの人材を採用していきたいと思っていても、そこまでたどり着かないことが往々にしてある。そこで、新しいタイプの人材が来ても恐れずに、彼らが持つ視点やスキルを活かそうとする考え方の浸透や、彼らを採用しても会社として育成できると思えるようなメンター・OJT制度の再構築を行うことが重要である。

改めて言おう。『採用はゴールではなくスタートである』。だからこそ採用側と同時に、『受入側の変革』をすることが、採用成功の鍵となる。

■企業の同質性は長期的成長に繋がらない
さいごに、「多様化は本当に必要なのか」と考える人もいるかもしれない。

しかし、例えばサッカーに置き換えてみると、同質なチーム(FW(フォワード)ばかりのチーム)は、全員の攻撃力が高く、一時的には得点を重ねられるが、攻守における柔軟な戦術や実行ができず、守備は崩壊し、安定して勝ち続けることはできない。

企業も同様で、異なる専門性(ポジション)や経験、価値観といった多様性(プレースタイル)を持つ人材がいるからこそ、急速に変化し続ける環境という「相手の多様な攻撃」に対して柔軟に対応し、長期的に成長することができる。

採用は企業の10年後をつくる活動である。

だからこそ私たちは、採用活動において、同質性が生む短期的な安心感と、多様性がもたらす長期的な可能性のどちらを選択するべきだろうか。そしてあなたの選択は、どのような未来を会社にもたらすのだろうか。長期的な視点で考える必要があるだろう。


河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役



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■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
kawamoto
1981年広島県生まれ。高校中退後、大検を取得し2001年に上智大学経済学部に入学、2005年に卒業。新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、採用戦略や組織人事領域に従事。企業規模を問わず500社以上の採用・育成コンサルティングを担当し、社内MVPも獲得。
2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。

公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/
Tiktok:https://www.tiktok.com/@kawamoto_saiyo @kawamoto_saiyo

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