unnamed
「IQは生まれつき決まっている」「知能は遺伝的要素が大きく、努力で変えられるものではない」――。あなたも一度は、このような言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、もしその常識が、あなたの成長を妨げている単なる“思い込み”だとしたらどうでしょう。

私はこれまで、自身がMENSA(人類の上位2%のIQを持つ人のみが入会できる国際グループ)の会員であり、IQトレーニング講座を提供する立場として、いかに個人の思い込みが知能や能力を規定し、また習慣によってそれを書き換えることも可能なのかを見てきました。

「IQは生まれつき」という固定観念は、個人の心だけでなく、私たちの社会に深く根付いた見えない壁と言えるかもしれません。それは、日本の教育システムにおいて早期に子供たちの可能性に上限を設定し、企業の人材育成において「地頭」という曖昧な基準で個人の成長を諦める一因となってきたのです。

この記事では、「IQは生まれつき」という考え方が思い込みであり、成長の障壁となっていること、そしてそれを取り払うにはどうすればいいのかについて考えてみたいと思います。

■「IQは生まれつき」なのか?
そもそも、IQは遺伝の影響が大きいのでは?と考える人が多いかもしれませんが、実はそうでもありません。

一卵性・二卵性双生児を対象に、知能(IQ)に対する遺伝と環境の寄与度を調査した研究があります。なかでも、一卵性双生児でありながら、2歳の時に生き別れ、別々の国で、別々の親に育てられた2人の事例は注目すべき結果を示しました。

2人の家庭環境は大きく異なり、一人は協力的でまとまりのある雰囲気の家庭で育った一方、もう一人は厳しく宗教的な考えが強く、家族間の衝突が多い家庭に育ちました。

40年以上の歳月を経て再会した二人は、似ていたのか、違っていたのか。

まず、性格や精神面では非常に似通った傾向を示しました。2人とも誠実な傾向が強く、自尊心のスコアも同じでした。就いていた仕事は全く違うものでしたが、仕事への満足度も同じくらいだったのです。

しかし、IQに関しては16ポイントもの差がつき、大きく異なっていました。

IQは幼児期から青年期にかけては遺伝の影響が大きいものの、日々の生活の中で様々な環境に身を置くことで、環境面も影響してくることが分かっています。つまり、IQは遺伝のみならず家庭・教育・文化といった環境要因とも深く関与しています。IQは生まれつきの能力だけではなく、後天的な様々な要因によって変化するもの、そしてアプローチ次第で伸ばせる能力でもあると言えます。
(参考:※1、※2)

■思い込みが成長を阻む
実際、私の講座でも、多くの人がIQを後天的に伸ばしています。もともと数学やパズルが苦手で、IQテストが平均的な100前後だった方が、3カ月のトレーニングで見事にMENSA会員になれた事例があります。

この事例の興味深い点は、これが単なる本人の成功体験に留まらず、周囲のメンバーに影響を及ぼしたことです。今までの彼を知る周りの人たちは彼の合格を知って驚き、次々とチャレンジを表明しました。その結果、ごく普通のIQの持ち主が次々とMENSA合格を果たしたのです。

この変化の一つの要因は、一人の変化を目の当たりにしたことで、他のメンバーのなかにある「IQは生まれつきであり、変わらない」という思い込みが解放され、自身も変われると信じることができたことにあるのではないでしょうか。

このように、能力開発においては成長を阻んでいる思い込みを排除できるかが大きなポイントとなるのです。

「思い込み」の力は、単なる精神論や自己啓発のメッセージではありません。それは、科学的に観測され、繰り返し実証されてきた心理現象に基づいています。この科学的背景を理解することは、「自分はできる」という信念をより強固なものにする上で極めて重要です。

心理学の世界で古くから知られているのが「プラシーボ効果」です。これは、薬効成分のない偽薬(プラセボ)を本物の薬だと信じて服用することで、実際に症状が改善する現象を指します。

ただのビタミンCを特効薬だと信じて飲んだ患者の病気が治癒したという実例は数多く報告されています。これは、「この薬は効く」という強い期待や信念が、身体の生理的な反応にまで影響を及ぼすことを示しています。

■「不可能」が「可能」に書き換わる瞬間
たとえば、いかに自分の能力を伸ばしていくかが問われるスポーツにおいて、「不可能」という思い込みを排除し、「可能」と信じることは重要なファクターとなります。

メジャーリーガーの大谷翔平選手の高校時代の語録のひとつに、「先入観は可能を不可能にする」というものがあります。

プロ野球の世界では長年、「ピッチャーとバッターの二刀流は不可能だ」というのが揺るぎない常識でした。専門分化が進む現代野球において、どちらか一方に専念しなければトップレベルでは通用しない、という「思い込み」が球界全体を支配していました。

しかし、大谷翔平選手が投打両方で圧倒的な結果を残したことで、その常識は覆されました。彼の活躍は、「不可能だ」という社会全体の思い込みが、一人の人間の信念と実践によって書き換えられることを証明したのです。

同様の現象は、陸上界でもありました。当時、「1マイル(約1.6km)を4分未満で走ることは人間の身体構造上不可能だ」という「4分の壁」が常識とされていました。しかし、ある選手が初めてこの壁を破ると、堰を切ったように次々と4分を切る選手が現れたのです。

これは、誰か一人が「不可能」を「可能」に変えたことで、「自分にもできるかもしれない」というランナーたちの集合的な思い込みが書き換わり、それが実際のパフォーマンス向上につながったことを意味します。反対の言い方をすれば、「4分の壁」という「常識」が選手の成長を阻んでいたのです。

私たちが「当たり前」や「不可能」だと感じていることの多くは、絶対的な真実ではなく、個人や社会が作り上げた「思い込み」の産物です。であるならば、「IQは生まれつき変わらない」という考えもまた、覆すことのできる一つの思い込みに過ぎないのではないでしょうか。

■思考が現実を創り出す
能力開発の議論において、なぜ「思い込み」という一見すると非科学的な概念が、これほどまでに重要な役割を果たすのでしょうか。

それは、私たちがどのような「思い込み」を持つかによって、挑戦への意欲、学習の効率、そして最終的に到達できる成果のレベルが根本的に決定されるからです。すべてのテクニックやノウハウは、それを支える強固な信念、すなわち「自分にはできる」という思い込みがあって機能します。

私たちの認識する「現実」や「常識」が、絶対的な真実ではなく、多くの人々が共有する共通の思い込みによって成り立っているという考え方です。これは心理学でいう「自己成就予言」、つまり信念が現実を形成するという現象の核心を突いています。

私たちが「自分には無理だ」と思えば、その思考が行動を制限し、「無理な現実」を創り出します。逆に「自分にはできる」と信じることができれば、その意識が新たな可能性の扉を開くのです。

これらの心理学的知見をIQ向上の文脈に適用してみましょう。「自分はもっと賢くなれる」と心から信じること、そのポジティブな期待は、学習に対するモチベーションを高め、困難な課題にも粘り強く取り組む姿勢を生み出します。「賢くなれる」という思い込みが、実際に脳を賢くするトリガーとなり得るのです。

「思い込み」の力は科学的な裏付けを持つ、有効なアプローチです。それは、私たちの内なる可能性を解放するための鍵と言えるでしょう。
(参考:※3)

■ポテンシャルを解放する3つの習慣:今日からできる「思い込み」の育て方
理論を理解したら、次に行動です。ポジティブな「思い込み」は、ただ念じるだけでは育ちません。日々の具体的な行動習慣を通じて、少しずつ、しかし着実に自己認識を書き換えていく必要があります。

ここでは、誰でも今日から始められる3つの実践的な習慣を紹介します。これらは、あなたのポテンシャルを解放し、「自分にはできる」という確信を育むための具体的なステップです。

・小さな成功体験を積み重ねる
いきなり大きな目標を掲げて挫折すると、「やっぱり自分には無理だ」というネガティブな思い込みを強化してしまいます。重要なのは、意図的に設定した小さなハードルを一つひとつクリアし、「自分ならできる」という感覚、すなわち教育心理学でいう「自己効力感」(特定の課題に対する遂行能力の自己評価)を積み重ねていくことです。

・比較対象を「昨日の自分」に限定する
他者との比較は、成長を阻害する最大の要因の一つです。特に、自分より先に進んでいる人を見ると、「それに比べて自分はなんてダメなんだろう」と焦りや劣等感を抱き、自己肯定感を下げてしまいます。これが「自分はできない」という思い込みを強固にする罠です。比べるべき相手は、他人ではありません。常に「昨日の自分」です。昨日の自分より一問多く解けたか、一つの概念を深く理解できたか。成長の焦点を内面に置くことで、外部のノイズに惑わされることなく、自分自身のペースで着実に前進することができます。

・就寝前に「できたこと」を5個数える
人間の脳には、「ネガティブバイアス」という心理的傾向があります。それを打ち消すためにも「今日できたこと」「良かったこと」を5個から10個、具体的に思い出す習慣を取り入れましょう。どんな些細なことでも構いません。「いつもなら後回しにすることを、今日はすぐにやった」「この場面で冷静な判断ができた」など、自分のポジティブな側面に光を当てることで、自己認識を徐々に「できる自分」へと再構築していくのです。

これらの習慣は、決して気休めではありません。自己認識を根本から変え、行動を変え、そして結果を変えるための、強力なトレーニングなのです。

日々の小さな積み重ねが、自身の「思い込み」を超えて、あらたな成長につながることを願ってやみません。

秋谷光輝 JAPANMENSA会員 


参考文献
※1:「双生児による縦断研究が明らかにする遺伝のダイナミズム」(安藤寿康, 慶應義塾大学, 行動遺伝学研究)
※2 心理学誌 Personality and Individual Differences に掲載されたケーススタディ
※3:Carol Dweck博士の成長マインドセットの実験


【関連記事】
■紙を手放せない会社は疲弊する? 外資が実践する“電子が基本”の仕事術 (沢渡あまね)
https://sharescafe.net/62856156-20251215.html
■ビジネスマンを最も疲れさせるのは“仕事そのものではない”?「仕事ごっこ化」する会議・資料作成の特徴(沢渡あまね)
https://sharescafe.net/62852670-20251214.html
■“見積書郵送”がミスの温床に…静かに社員のメンタルを削る30のトラップとは? (沢渡あまね)
https://sharescafe.net/62851899-20251213.html
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/62674731-20250930.html
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/61186482-20240125.html


■プロフィール 秋谷光輝 JAPANMENSA会員
akitani
1974年生まれ、IQトレーニング講座「ExpIQ」(エクスピーク)主催。ソニー株式会社にて16年間エンジニアとしてオーディオ設計に携わる。小学校4年生で受けた全国一斉知能テストが全国1位(180万人中)だったことを知り思考法が特異であることに気づく。数学の偏差値は104を記録。心身の不調をきっかけに「モノづくりからヒトづくり」へ転身。大手企業での研修実績、雑誌、新聞などでの掲載多数。一般財団法人高IQ者支援機構にてIQ185(sd24)を認定される。
著書:「楽算メソッド」(合同フォレスト)、「今から伸ばす!IQトレーニング」(大創出版)「記憶の出し入れがスムーズになる衰え知らずの脳トレ習慣」(日本実業出版社)(2025.12)

公式サイト https://www.housokugaku.com/

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。