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年明けの仕事始め。多くのビジネスパーソンが、気持ちを新たに清々しく仕事に取り掛かる時期ですが、新卒採用担当者の胸中は決して清々しいだけではありません。

この時期、採用担当者には一種の緊張感が漂います。なぜなら、年明けは長期休暇で帰省していた学生からの「内定辞退」の連絡が増える時期だからです。

多くの企業が内定出しを終え、学生も一度は就職先を決めたはずの年明けですが、採用担当者のもとには、それまで入社に前向きだった学生からの辞退連絡が相次ぎます。

なぜこのタイミングで、内定者は進路を覆すのでしょうか。その背景には、近年、就職活動の現場で急速に存在感を増している「オヤカク」があります。

オヤカクとは、学生が就職活動における意思決定の際に、保護者(親)の意見や許可を仰ぐ一連の行動や、それに起因する企業側からの行動を指します。

オヤカクによる年明け辞退はなぜ起こるのか? 企業はどのような対策を行えばいいのか? 人材コンサルタントの立場から考えてみたいと思います。

■オヤカクによる年明け辞退はなぜ起こるのか?
オヤカクの典型事例は、内定者が年末年始に実家に帰省し、親族の集まりなどで「どの会社に入社するのか」を報告した際、親や親戚からの率直な意見や、知人の成功事例との比較に直面し、それまで前向きだった入社意思を翻してしまう、というものです。

例えば、「内定先の名前を聞いたことがない」「給与が安すぎるのではないか」「中小企業ではなく、もっと安定した大企業に勤めて欲しい」といった親の率直な懸念や願望が、学生の心に迷いを引き起こします。

このように、入社直前の年明けに駆け込み辞退が急増する背景には、内定者の単なる迷いの顕在化だけではなく、現代の学生の意思決定における保護者の影響力の強さが表れています。

企業側にとって、オヤカクはもはや無視できない採用上の重点事項なのです。

年明けに内定辞退する一般的な理由は、「前々から辞退するつもりだったが、断りにくく年明けまで引き伸ばしてしまった」「内定式で社風や同期に対しイメージとのギャップを感じた」「勤務地や配属先が希望と違った」などが挙げられます。

しかし、オヤカクの視点においては辞退理由が異なります。一般論とオヤカク視点を対比させると、その構造が明らかになります。

・一般論: 別の内定や自己の迷い
・オヤカク視点: 親世代の価値観と、それを起因とする学生の意思決定の揺らぎ

厚生労働省の「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によると、児童がいる世帯の実に47.7%は「1人っ子」世帯です。

1人っ子世帯では、親の期待や関心、経済的な援助すべてが1人に集中する傾向にあり、結果として子どもの意思決定に親の価値観が大きく影響しやすくなります。

また、独立行政法人日本学生支援機構の「令和4年度学生生活調査報告」 によると、大学学部(昼間部)における自宅から通学する学生の割合は59.1%、短期大学(昼間部)においては75.1%にも上り、多くの学生が親の経済的な援助の下で生活している実情が見えてきます。

そのため、就職という人生の大きなターニングポイントに直面した際に、精神的・経済的支援者である親の承認を求めるのです。

実際に我々が26卒の就活生を対象に行った独自調査においても、あなたは「どなたの意見だったら最も参考にしたいと思いますか。」という設問に対し、「両親」(23.7%)との回答が最多であったことからも、就活生の意思決定における親の影響力の高さが伺えます(図1)。

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(図1:Q.どなたの意見だったら最も参考にしたいと思いますか。)

一方で、就活生の親世代(およそ40代後半~50代前半)はバブル崩壊による就職氷河期に直面した世代です。彼らは自身が経験した就職氷河期の記憶から、「名の知れた大企業」や「安定」を重視する傾向にあり、学生が内定した企業を、自身が持つ古い企業イメージや、メディアで報じられる断片的な情報だけで判断しがちです。

学生の内定先が、親世代にとって見慣れないベンチャー企業や特定の業界に特化した専門性の高い企業であった場合、親はリスクとして捉えます。親は子どもの幸せを願い、良かれと思って、「本当にこの会社で大丈夫なのか」「給料は安定しているのか」といった率直な疑問や懸念を投げかけます。

年末年始の家族団欒の場で、最も信頼している親から疑問や懸念を受けた学生は、それまで自分で納得して決めたはずの入社意思に強い不安を抱き始めます。

その結果、学生は自己の意志よりも親の安心を優先し、内定辞退という行動を選択することになるのです。

■データが示す「オヤカク」の現実と求められる対応策
オヤカクが新卒採用の現場で避けては通れない問題となっていることは、複数の調査データや企業の採用実態からも裏付けられています。

人材サービスのレバレジーズ株式会社が行った調査によると、「親に就職活動について反対されたことがある」と答えた学生は22.7%でした。
(参照:就職活動における「オヤカク調査」レバレジーズ株式会社 2019/11/22)

また、同じく人材サービスを行う株式会社ネオキャリアの調査では次のような結果が出ています。

『学生の就職活動に対する企業(人事担当者)の意識として、各項目に「あてはまる」「ややあてはまる」と回答したうち、 もっとも高いのは「新卒生の親の関与が高まっている」(58.3%)。次いで「親の意向によって内定辞退を申し出てきたことがある」(47.9%)。』
(引用:就職活動における「企業」と「親」に関する調査 ~2019年「オヤカク」最新動向を公開~ 企業側の「オヤカク」意識の高まり・施策実施する割合増加が顕著 株式会社ネオキャリア 2019/02/27 )

現代の学生は、デジタルネイティブ世代で情報収集能力に優れています。しかし、AIで作成した大学レポートが度々問題視されるように、集めた情報を元に自身で思考し、最終的な決断をするというプロセスに慣れていない傾向が見受けられます。

また、選考の早期化により内定から入社までの期間が長期化したことで、内定者期間中に未知(社会人生活)への不安が増大しやすい傾向もあります。

だからこそ、内定者は勿論、親への手厚いフォローを通し、学生の「この会社で働くんだ」という覚悟の醸成と、親の「この会社なら子どもを任せられる」という安心感の醸成の双方に同時に取り組むことが重要です。

そのため、様々な企業がオヤカク対策として内定者の親とのコミュニケーションを強化し始めています。

ここでオヤカクによる内定辞退を防ぐため、企業が行っている事例をいくつかご紹介します。

・内定者や保護者に対し、年末年始の挨拶メールを送り、企業が歓迎する姿勢や細やかなコミュニケーションを行っている姿勢を見せる
・保護者対象のオフィスツアーを行い、実際の働く環境を見て安心してもらう
・保護者向けの会社パンフレットの作成や、保護者向け説明会を実施し、保護者の企業理解を深め、魅力訴求を行い、疑問や懸念を先回りで解消する

これらはあくまで一例ですが、親の価値観を無視した採用活動は、もはや成立し得ないのです。

■社会的視点とキャリア選択の未来
オヤカクについて説明すると、「それって、親の過干渉ではないか?」という疑問や反論の声がよくあがります。確かに、子どもの進路に過度に口を出す親の行動は、子どもの自立を妨げる側面があるかもしれません。しかし、この問題を単純な「過干渉」と断じるのは早計です。

現代社会において、キャリア選択の複雑化は進んでいます。終身雇用制度が崩壊し、転職が当たり前になった一方で、SNSやメディアによる「成功者」の情報が溢れ、若者は「失敗できない」というプレッシャーに晒されています。このような時代背景の中で、親が自分の子どもには苦労をさせたくないと将来を案じ、安定を勧めるのは、ある意味で自然なことと言えます。

重要なのは、オヤカクを「悪」と捉えるのではなく、学生がキャリアを築くうえで、家庭という最も身近なコミュニティとの信頼関係や、コミュニケーションが不可欠であるという事実に寄り添うことです。

学生が親の意見を聞いて自己の意思決定が揺れるのは、企業が提供する情報や、学生との関係性が、親の持つ「安定」という価値観を超えるほどの「信頼」と「確信」を生み出せていない証拠でもあります。

現代の就活は、学生が自分のキャリアを選択するだけではなく、家族とのコミュニケーションを通じて、学生自身の価値観や企業のビジョンが家庭内で共有され、学生と親の双方が納得したうえで、入社を決断するというプロセスが求められているのです。

このように、年明けの内定辞退の増加は、単なる一学生の問題や、一企業の採用失敗ではなく、「日本の新しい働き方や企業の価値観」が、「現代の家族観や安定志向の価値観」と衝突し、その結果が学生の内定辞退という形で表出している社会現象であると言えます。企業、家族、そして学生自身が、率直な対話を通じて、真に納得感のあるキャリア選択を追求していくことが、今後の社会の重要な課題となるでしょう。


河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役


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■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
kawamoto
1981年広島県生まれ。高校中退後、大検を取得し2001年に上智大学経済学部に入学、2005年に卒業。新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、採用戦略や組織人事領域に従事。企業規模を問わず500社以上の採用・育成コンサルティングを担当し、社内MVPも獲得。
2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。

公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/
Tiktok:https://www.tiktok.com/@kawamoto_saiyo @kawamoto_saiyo

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