![]() 受験産業の構造から見えてくる、中学受験の早期化の実態とは? 著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。 ■受験産業の功罪 *錯覚する勤勉な日本人 中学受験においては、本当に子どもに挑戦させるべきか否か、親は慎重になるべきでしょう。 日本の教育水準の高さが日本人の勤勉さを引き立て、日本の高度経済成長を支えたことは間違いのない見解でしょう。国をあげての教育機関の充実化に始まり、中学受験や大学受験などの試験様式、塾や予備校による激しい競争化など、受験産業の発展も日本の経済成長に大いに貢献したと思います。 受験があるからこそ若いころから競争の中で揉まれ、鍛えられていく。簡単に挫けることはなく、日々精進して結果を出していき、自分自身を高め地位も向上させていけるだけのバイタリティを有している。受験産業の隆盛がそのような人材を育てる一端を担っているのは疑いの余地がありません。 その一方で、受験産業は日本社会を良くも悪くも過度に刺激する劇薬ともいえ、思わぬ副作用をもたらしている面もあります。それが中学受験という、早期の受験戦争参戦への是非です。中学受験戦争へ巻き込む家庭を少しでも増やそうと、日本の勤勉さを逆手にとって、受験産業が焚き付けているような気がしてなりません。 そしてその焚き付けが功を奏し、メディアや口コミや周りの雰囲気に流されて、受験産業の思惑通りに中学受験の受験者数は、都心部を中心に割合が増加する一方にあります。こうして「うちの子は中学受験に向いているだろうか」と深く考える隙を与えられず、手段を目的化し受験戦争へ赴く家庭も増えています。 受験産業側の立場になって考えてみましょう。私立中学校にとって見れば、生徒が入ってくれなければ経営は成り立たないわけで、一人でも多くの小学生が中学受験にチャレンジしてくれることを切望しています。そのための広告費は惜しまず、自校の素晴らしさをより多くの小学生とその家庭に届けようと躍起になっています。 これに便乗する形で盛り上がっていくのが塾業界です。いわば私立中学校と中学受験塾は一蓮托生の仲にあります。メディアの力を借りて、彼らは中学受験の素晴らしさを伝え、そして中学受験をしないことの不安を煽ります。これらの情報に触れるごと、中学受験を考える家庭は増えていきます。そしてその活況に触れた子どもやその親たちが、「うちも中学受験するべきなのでは」と焦り出し、さらに中学受験ムーブメントは拡がっていくわけです。 いつの間にやら「受験をして当然」といった空気感が醸し出されています。こうなると受験産業の思うツボで、塾業界は儲かりますし、私立中学校も上位校はもちろんのこと、中位から下位の学校まで生徒が殺到し潤っていくわけです。 私は決して中学受験をすべて否定しているわけではありません。しかし、かつてはせいぜい早くても小学4年生くらいからスタートするのが定番だった中学受験が、今や1年生から始めるのも定番になりつつある業界の現状に、疑問を抱かずにはいられないのです。 メディアの急かすような過剰な論調が、家庭の経済的あるいは精神的な疲弊を招くような罪を犯している。そんな気がしてならないのです。 ■「6ポケット」からの回収作戦 *少子化時代ゆえの経営施策 受験産業の過剰な「演出」が問題であることを指摘しているわけですが、それに各家庭がしっかり「呼応」できてしまうのも問題といえそうです。 冷静になってみると不思議な話ではあります。停滞あるいは下降の一途にあるといわれる日本経済、親世代も決して経済的に余裕のある暮らしができているわけではありません。それでも子どもの教育費を惜しまずかける傾向に揺らぎはありません。それはなぜでしょうか。 ここに大きく関与しているのが、親のさらに親の世代、祖父母世代が握る豊富な財源です。祖父母世代は高度経済成長の日本で働いた世代であり、現役時の給料は高く、老齢年金も高額が約束されています。しかも長寿化によって年金が受け取れる期間は長期化傾向にあり、十分な暮らしが保障されているのです。彼ら祖父母世代が、可愛い孫たちに余裕資金をかけることは想像にたやすいことでしょう。 少子化もこれに拍車をかけます。お年寄りの数は増える一方で、孫の数は減っています。かつては一組の老夫婦に対して孫が5人以上いるのもスタンダードだったでしょうが、今ではせいぜい平均2人から3人といったところ。したがって、祖父母世代が孫一人当たりにかけられる金額が、単純に倍近くに増えているととらえることができます。直接的に祖父母から孫への援助が期待できるだけではありません。 たとえば住居代を祖父母たちが一部負担してくれるおかげで、親世代は子どもへ教育費が十分にかけられる、といったパターンも考えうるでしょう。直接的にしろ間接的にしろ、こういったお金の動きがあるからこそ、現代の日本社会にあっても子どもへの教育費は減ることを知りません。そして受験産業はこの点に期待しているのです。 すなわち、父母の2人に加えて、それぞれの親である祖父母が最大4人。合わせて「6(シックス)ポケット」からいかにお金を取るかに、受験産業とその取り巻きは躍起になっているといえます。少子化の時代ですから、量よりは質です。数少ない子どもたちからいかにたくさん塾代や学費を稼げるかで、受験産業の存亡は決まります。 よってできるだけ長く多く、子どもたちには塾や私立校に通ってもらわねばなりません。そういった経緯から、受験対策の前倒しや中学受験の後押しが強まっていく一方なのでしょう。6ポケットを狙うメディアや受験産業によって、子どもたちは半強制的に、否が応でも受験戦争へ巻き込まれてしまう背景があるということです。 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 【関連記事】 ■子の受験が目的化する親たち――「受験で人生が決まる」の固定観念がわが子を追い詰める (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62876939-20251223.html ■【年明け内定辞退の衝撃】新卒就活の現場を揺るがす「オヤカク」への向き合い方(河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62869078-20251219.html ■紙を手放せない会社は疲弊する? 外資が実践する“電子が基本”の仕事術 (沢渡あまね) https://sharescafe.net/62856156-20251215.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。 医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。 2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。 子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


