![]() 自分の成功体験に基づいた教育ルートを子どもに敷こうとしますが、それは親自身が「時代という巨人」に乗っていただけかもしれません。子どもの可能性をつぶさない親のサポートとは? 著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。 ■塾講師がいえない子どもの能力差 *学力は遺伝する 早期に受験勉強を始めることは子どもの学力向上につながるのでしょうか。 確かに時間をかければかけるほど成績が上がっていく傾向はあるでしょうが、かけたコストに見合っているかどうか、この点については議論の余地があります。 受験勉強はスポーツと同じように向き不向きがあり、いくら塾に通ったり家庭教師をつけたり念入りに指導を受けたとしても、向上する学力の幅はその子の資質次第になります。同じ指導であっても、効果抜群に伸びる子もいればまったく伸びない子もいるのです。多くの生徒を教えた経験のある教師や塾講師なら必ず気づいていることですが、世の中で考えられている以上に、子によって残酷なほどの能力差があります。 そしてその能力差を決定づけるものが遺伝です。行動遺伝学と教育心理学の専門家である安藤寿康氏の著書『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書、2016)では、遺伝の影響を強く受ける個人の特徴や才能などについて言及しています。 身長や体重といった身体的特徴は当然のように父母の遺伝が色濃く出ます。ほかに音楽やスポーツも遺伝の影響が強いことは、私たちもなんとなくイメージがつきます。そして学力ですが、なんと、70から90%ほどが、子ども自身では抗うことのできない要素で決まっているというのです。 この衝撃的な事実は、いかに教育の質を引き上げようとも、親から受け継いだ遺伝子を超越するような成果は出せないことを物語っています。 その事実を受験産業に従事する人たちは経験的に熟知しています。それでもなお、「これ以上の伸びはないだろう」と学力の天井が見えている生徒にも、さらに上の学校を目指せるようなプランを提案し、指導の増回を勧めることでしょう。それはなぜかといえば、生徒の後ろ盾として控える6ポケット(父母の2人に加えて、それぞれの親である祖父母の最大4人の財布のこと)からの回収任務があるからです。 仮に伸びなかったとしても、昨今の中学受験産業の隆盛によって、滑り止めとして入れる私立中学校は増えています。軌道修正はいくらでも可能なのです。親の心情としても「ここまで受験勉強を頑張ってきたんだから」と、当初の目標より下の学校に行かせる妥協案を受け入れることでしょう。そうなったとき、果たしてコストに見合った収穫ができているのか、首を傾げたくなってしまいます。 塾や学校がきっかけとなって飛躍的に学力が伸びることももちろんありますが、その伸びる源は子どもの本質的な能力に依存するものです。 「通うようになったら短期間で逆転合格できました!」と宣伝する塾や、「うちの学校に入ればこんないい大学に入れます」としきりに合格実績をアピールする私立中高一貫校を頻繁に見かけますが、これらが本当に塾や学校のおかげなのか、本当のところは誰にもわかりません。 子どもの能力は伸びる可能性もあり、小学校時代に覚醒する子もいれば、中学以降に開花する子もいます。また、勉強の才能は芽生えなくても、芸術やスポーツなど別の分野で一気に花開くこともあります。勉強だけに固執する必要はないですし、学校の成績やテストの結果だけが評価対象ではありません。いまは勉強をまったくせず運動ばかりしていても、あるときを境に勉強に自ら取り組むこともあるでしょう。 それまで待っても、決して遅くはありません。少なくともそういうタイプの子どもが急いで受験参入をする必要はありません。 ■「巨人の肩」に乗る親 *親の教育課程が正解とは限らない 親たちは自分の経験に基づいた教育プランを設計し、子どもへ熱心にアドバイスとサポートをします。子どもが幼いうちは、親が想定しているコースへと誘導させようとする傾向があるようです。意識的であれ無意識的であれ、自分の敷いたレールに子を歩ませようとするのです。 たとえば中高一貫校から大学へ進学し、安泰な仕事に就いた親は、その順風満帆な人生経験から、子どもにも中高一貫校からの上位大学への進学を勧めたがります。自分の知らないルートである公立中学校経由の進学や、高卒就職や専門学校への道へと誘導するケースは滅多にないでしょう。 逆の場合も然りです。自分の歩んできた過程によって現在が経済的に余裕のない、心身蝕まれるような日々を送っているのであれば、子どもに自分とまったく違った教育ルートを歩んでほしいと願うことでしょう。 しかし、親の想定したルートが、必ずしもいまの時代とフィットするとは限りません。親世代の成功ルートが現代に通用しないこともあり得ますし、うまくいかないと思われていたルートのほうが幸福度の高い人生設計になるかもしれないのです。 とくに自分のこれまでの道のりに成功感を抱いている親ほど、この錯誤を生みやすいと思われます。たまたま時代とマッチしてうまくいっただけであるのに、自分のルートが唯一の正解と思い込んで、子どもにその道を歩ませることを強制してしまうのです。 親世代は、時代という巨人の肩に乗っていただけに過ぎないのかもしれない。そういう視点も必要だと思います。 ■インターネットという名の巨人 私自身、2009年に開業して以来、クリニック激戦区の新宿で経営を続けることができていますが、決して自分の能力だけでここまでこれたとは思っていません。巨人の肩に乗れたからこそだと感じています。私にとっての巨人とはインターネットです。 開院当時、インターネットを使ったマーケティングは黎明期を迎えたばかりで、こと医療業界においては未開拓の領域でした。インターネットに力を入れるクリニックはほんの一握りだったのです。その時代に、私はインターネットと出会い衝撃を受け、積極的に自分で見識を高め、本業の傍らでインターネット施策を実践するようになりました。 その地道な試行錯誤の結果、新宿駅近辺のクリニックにおけるインターネット集客では先陣を切ることができ、未熟な私でも盤石な経営基盤を築くことが叶いました。 たまたまインターネットという文明の利器が一気に普及するタイミングの中で開院できた。時代の潮流に乗れたからとんとん拍子に行けたわけです。私は子ども本人が望むなら医者になることを応援したいと思っています。 しかし私が敷いたレールに従い医者を志したとして、必ずしも仕事もプライベートも充実した豊かな暮らしが保障されるかといえば、決してそうとは思っていません。 昨今は医者の絶対数は最多更新を続ける一方で、人口減少によって患者数が減っていく傾向にあります。およそ半世紀後には、日本国内の患者数が7割程度にまで減るのに対し、医者数は1.4倍程度に増える試算です。つまり医者一人当たりが診る患者数は、半減するともいわれています。こういった時代の潮流によって、医療業界も相当厳しくなっていくのではないかという予測が立てられています。 仮にこの予測通りになり、医者の給料も激減してしまうとしたら、医者の道を歩んで欲しいと願う親はかなり少なくなることでしょう。 したがって、「自分が医者だから子どもも医者に」という考えに固執することなく、広く情報を集め、子どもの性格や適性も見つつ、将来設計をサポートしたいと思っています。私の話になってしまいましたが、時代に恵まれたからうまくいったという事象は、業界問わず少なからずあるものです。 斜陽と揶揄される業界が出てくる一方で、いまは日の目を見なくても、20年後には誰もが憧れるような業界も出てくることでしょう。それは誰にもわからないことです。就職活動にしても、景況に大きく左右されるものです。就職氷河期時代のような、一流大学出身でも内定をもらえない時代もあれば、売り手市場で中堅大学出身でも一流企業へ入れる時代もあります。 先行き不透明な現代はより一層、親世代の成功パターンを踏めばうまくいく、という理論は通用しなくなるでしょう。親自身の経験は参考にはなるでしょうが、「巨人の肩に乗っていただけかもしれない」という一歩引いた視点も大切ということです。少なくとも、過去の常識や観念だけに縛られることのないよう、常に最新の情報を取り入れる姿勢は崩さないようにしたいものです。 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 【関連記事】 ■加熱する中学受験の早期化は誰のため?産業が狙う「6ポケット」 (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62876975-20251223.html ■子の受験が目的化する親たち――「受験で人生が決まる」の固定観念がわが子を追い詰める (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62876939-20251223.html ■【年明け内定辞退の衝撃】新卒就活の現場を揺るがす「オヤカク」への向き合い方(河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62869078-20251219.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。 医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。 2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。 子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


