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中学受験において、合格までは親子が一丸となれていたにもかかわらず、合格後のケアを間違ってしまったことで、埋められない溝ができてしまうケースがあります。受験後のケアを間違えると、最悪の場合、家庭崩壊につながる深刻な悲劇を引き起こすことも珍しくないと、5人の子の父であり、自身も受験で悩んだ経験のある医師の蓮池林太郎氏は言います。

一体、合格後に親子の間でどのようなすれ違いが起きてしまうのでしょうか? 著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。

塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略
蓮池 林太郎
セルバ出版
2025-11-27


■受験はゴールではない、スタートでもない
*親子の残酷な熱量差
受験後のケアについて、ひとつ間違えればその後の人生に大きな影響を与えることになります。

子どもは受験をゴールと思いがちです。一方で親は次へのスタートと速やかに思考を切り替えます。

受験戦争の真っ只中では「第一志望合格に向けて頑張ろう」と一丸となって本番までの日々を乗り越えていけるでしょう。戦場でたとえるなら、前線に立つのは子どもで、補給や救護を担うのが家族や先生などの取り巻きといえるでしょう。それぞれがそれぞれの役割を担う中で、勝利に向けての目標と士気を共有できるからこそ、一緒になって頑張っていけるものです。

しかし受験が終わった直後から、それぞれの思いに差異が生じてきます。子どもはまだ若く未熟であり、近視眼的にしか物事を把握できていません。受験終了はゴールであり、苦しみからの解放を意味しています。遊びたい盛りの子どもが我慢して切磋琢磨してきたのですから、しばしのクールダウンの時間は必要となります。

とくに中学受験を終えたばかりの新中学生はその思いが強いことでしょう。受験に合格し中高一貫校に入った子どもの中には「これで大学受験を意識し始める高校2年生くらいまでずっと楽ができる」と思っていることさえあります。

一方で親はまったく異なる見解を受験後に抱きます。中学受験にしろ高校受験にしろ、「次は大学受験だ」と身を引き締める思いなのです。そしてその目標と士気を子どもに共有するため、合格発表して間もないうちに「次に向けて頑張りましょう」と拳を握りしめます。すでに次の学習塾のパンフレットを携えていたり、新しい参考書の検討に入ろうとしたりする気の早い親もいます。

この事実に子どもは絶望するかもしれません。終戦を迎えた安堵と解放感も束の間、また次の戦争への予感を親から告げられてしまうのですから。

このような受験後のケアをミスしてしまうと、子どもと親たち取り巻きとの間に大きな溝をつくってしまいかねません。

受験はゴールでもなければスタートでもなく、いわば全体の中の一部。不幸の少ない人生を歩んでいくための一戦術に過ぎないのです。

受験前に思いを一つにして頑張ってきたのと同様、受験を終えた後もコミュニケーションを取り合って、次の目標を一緒につくり、方向性や力加減といったベクトルを揃える必要があります。決して思いに差異が生じることのないよう気をつけたいものです。

■子を恨み、子に恨まれる
*受験が家庭崩壊を招くこともある
親と子どもの受験に対するモチベーションの差が悲劇を招くことはしばしばあります。

最悪のケースを考えてみましょう。受験戦争へ参入するとなると、否が応でも似たような学力の子どもたちの中で、自分の子も戦うことを強いられます。上位校を狙うクラスほど、精鋭たちが集まっているわけですから、成績争いも過酷となります。期待していたほどの成績を子どもが残せないとなったとき、親は失望や戸惑い、焦りといった感情を抱き、より子どもに負荷をかけ、なんとか現状を打破させようと努めます。

しかしそれがかえって子どもの心身への過剰な負担となってしまい、さらに成績が落ちてしまうという負のスパイラルを生むこともあり得ます。そしてさらに追い打ちをかけるように、期待に応えてくれない子どもに対して親はこう言い放つのです。

「こんなに塾に行かせてるのになんで成績が上がらないの!」
「人生を失敗させたくないからやっているのに、なんで気持ちをわかってくれないんだ!」

恨み節は子どもに大きなトラウマを植え付けることになることでしょう。

味方だと思っていた親が恐ろしい敵へと豹変したと思うかもしれません。子どもは自信をなくし、勉強への意欲を失い、机に向かうことに拒絶反応を起こしていきます。さらにエスカレートすると、非行に走ったり不登校になったりすることも考えられます。親から子どもへの恨みは、子から親への恨みとなって返ってくることもあります。非行が加速して暴力を振るうこともあるかもしれません。家を飛び出し、絶縁状態となることも考えられます。

受験をきっかけとして家庭が崩壊するという例は、決してレアなケースではありません。実際に見聞きした例でいうと、とある家庭は父親が教育熱心で、上位校を受験させようと子どもを進学塾に通わせ、さらに家庭教師もつけました。

しかし父親の期待ほど子どもの成績は伸びませんでした。父親はその原因を、普段子どもを見ている母親の責任にし、「お前がもっとちゃんと管理しないからだ」と責め、「お前が高卒のせいだ」と人格を否定するようにもなったのです。

母親は精神が不安定となり、夫婦関係は日に日に険悪となっていきます。子どもも勉強の意欲をなくし、母親を虐める父親を憎むようにもなりました。家にいるときは自室に閉じこもるようになり、できるだけ家を避ける生活を送るようになります。

その後、大学進学とともに子どもは一人暮らしを始め、実家には寄り付かなくなります。そして社会人になるころには家族と一切の関係を断ち切ったのです。父親と母親は、離婚はしていないものの、冷え切った関係がいつまでも続くものと思われます。

父親としては子どものためという大義名分で行ったスパルタ教育でしょうが、相当に子どもの恨みを買い、母親にも愛想を尽かされてしまいました。寂しい余生を送ることになることでしょう。

この一家のように、子どもに課す教育プランを契機に、家族全体の将来を悲惨なものにしてしまうことも起こり得るのです。


蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長


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■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長
1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。
医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。
2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。
子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。

塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略
蓮池 林太郎
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2025-11-27

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