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年末年始になると、多くの人が「来年こそは」と考え始める。転職サイトのアクセス数が増えるのもこの時期だ。

「ボーナスをもらったら動こう、年が明けたら本気で探そう。」

そんな気持ちで求人サイトを開くと、画面は求人情報で埋め尽くされている。条件を見れば、そこまで悪くない。それなのに、なぜだろう。スクロールする手が止まらない。気がつけば30分が経ち、何も応募していない。

「ここで働きたい」と思える会社が、ない。求人はあふれているのに、心が動かない。

この感覚に、多くの人は覚えがあるはずです。そして企業側も同じ違和感を抱えています。双方が、何かがずれていることを感じ取っているのです。

実は、このミスマッチはマーケティングの視点を用いることで解決できます。お手本はあの「ライザップ」です。

「自社の魅力がうまく伝わらない」という悩みを持つ中小企業や個人事業主を200社以上支援するPR・マーケティングコンサルタントの立場から、この現象の原因と、どうすれば求職者の心を動かす採用情報になるかについて、考えてみたいと思います。

■なぜ求人情報に心が動かないのか
求人情報を見ていると、給与や休日、勤務時間といった条件は、以前よりも丁寧に書かれていると感じます。それでも、どこか引っかからない。多くの人が「悪くはないけれど、決め手がない」と感じているのではないでしょうか。

一つ目の理由は、条件だけでは響かなくなっていることです。かつては、転職は一生を左右する大きな選択でした。一度入社した会社で長く働くことが前提だったからこそ、給与や休日といった条件、そして安定性への期待は、判断の中心にありました。失敗できない選択だったからです。

しかし、いまは違います。転職は珍しいものではなくなり、キャリアは途中で見直すものになりました。一生の仕事ではない以上、条件や安定性は、 かつてほど判断の中心ではなく、あくまで「検討材料の一つ」になっています。

二つ目の理由は、企業が「何を提供するか」しか語っていないことです。多くの求人には、「研修制度があります」「OJTで育てます」「風通しのよい職場です」といった特徴が並びます。これらは間違っていませんし、必要な情報でもあります。

ただし、ここで語られているのは、あくまで企業側の提供内容です。「研修がある」という事実は分かっても、その結果として、自分はどう成長できるのか、どんな力が身につくのかは見えてこないのです。

■人は求める「変化」に心が動く
採用メッセージが響かない理由は、条件や特徴が足りないからではありません。多くの場合、「そこで働くことで、自分がどう変わるのか」が見えていないからです。大事なのは求職者が得られる変化なのです。

ライザップのCMを覚えていますか。少し前まで頻繁に流れていた、あの印象的な映像です。

ちゃんちゃら、ちゃんちゃら……

軽快な音楽に合わせて、たるんだ姿が映し出され、次の瞬間、引き締まった身体へと切り替わる。

ライザップのCMが伝えていたのは、トレーニング器具の性能でも、施設の充実度でもありません。「ここに通うと、あなたはこう変わる」顧客が求める変化を強烈に示していました。

採用でも、同じことが起きています。多くの求人では、仕事内容や制度、研修内容が丁寧に書かれています。しかし候補者が本当に知りたいのは、それを通じて自分がどう変わるのかです。

入社前の自分と、入社後の自分。どれだけワクワクする自分になれるか。その変化が見えなければ、どれだけ条件や特徴を並べても、そこで働く魅力は、十分には伝わりません。

採用が難しくなっている企業の多くは、この「変化」を十分に描けていないのです。給与や休日、研修制度は前提として必要です。しかし今、求職者が本当に求めているのは、そうした条件ではなく、その先にあるワクワクする変化なのです。

■特徴や実績は、主役ではない
多くの求人では、
・独自の研修制度
・長年の実績
・充実したサポート体制
といった特徴や実績が前面に出ています。しかし、それだけでは候補者の心は動きません。理由はシンプルです。

特徴や実績は、それ自体が目的ではないからです。求職者が知りたいのは、「その会社が何をしているか」ではなく、「それによって自分がどう変われるのか」 です。

変化こそが主役であり、特徴や実績は、その変化を裏付けるための大切な脇役です。たとえば、「独自の営業メソッドがあります」「手厚い研修を行っています」と書かれていても、それだけでは判断できません。

一方で、一例として「当社では、転職市場で高く評価される営業スキルを1年で習得できます。その理由は、独自の営業メソッドと手厚い研修制度があるからです。」と書かれていれば、内容の伝わり方は大きく変わります。

何が違うのか。前者は企業側の説明で終わっていますが、後者は候補者の変化を描いています。特徴や実績は、その変化が実現できる理由として添えられているだけです。

採用で問われているのは、何を持っているかではなく、それによって誰を、どう変えられるのかなのです。

■採用の本質はマーケティング
採用がうまくいくかどうかを分けているのは、条件や露出の多さではありません。鍵になっているのは、求職者がどのような変化を求めているのかを、どこまで理解できているかなのです。

そしてもう一つ重要なことは、その求職者が求める変化を自社の特徴でどのように実現できるのかを、きちんと結びつけて描けているかどうかです。

求職者の期待と、自社が提供できる価値。この二つをつなげて考える視点こそが、採用において決定的になっています。

マーケティングとは、本来、広告やテクニックの話ではありません。相手が置かれている状況や求めている変化を理解し、それに応える形で価値を提供することです。採用も同じです。誰に、どんな未来を提示できるのか。そこを描けるかどうかが、いまの採用の結果を分けているのです。


木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役


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■プロフィール 木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役
kinoshita
魅力はあるのに伝わらないという課題を中心に、中小企業や個人事業主200社以上を支援。外資系企業で13年間マーケティングに従事。ベンチャー支援団体ではリードパートナー兼PR・マーケティング担当を経験し、「人の志の実現を支援したい」という想いから株式会社ユアウィル(Your Will=あなたの志)を設立。支援した人事コンサルタントや中小企業診断士などの専門家が次々と雑誌に掲載されるなど、多くの成果を挙げる。 自身も専門家として30冊以上の法人向けビジネス誌や日本経済新聞に寄稿するなど専門分野での発信を行う。商工会議所や大学校などの教育機関では講演活動にも取り組み、実践的なノウハウを提供。近著に『コンサルタント・講師のためのPR戦略』(同友館)

公式サイト https://practical-marketingpr.com/
著書 『コンサルタント・講師のためのPR戦略』https://www.amazon.co.jp/dp/4496057603

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