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アートに触れる機会を増やすことは、創造性を高め、問題解決能力を向上させ、仕事の効率化にもつながります。最近ではビジネスパーソンの間で絵画鑑賞も注目されています。しかし、いざ美術館で名画を目の前にしても、どこをどう見ればいいのか分からず、ピンと来ないまま帰ってきてしまった、ということも珍しくありません。経営コンサルタントの島青志氏によれば、ビジネスパーソンの創造力を高める鑑賞の仕方にはポイントがあると言います。そのポイントとは? 著書『頭のいい人の思考のコツ 考えるスイッチ(島青志・総合法令出版)』から再編集してお届けします。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
島青志
総合法令出版
2025-11-11


■アートに触れることで創造力を高める
アートを活用することで、私たちの創造性は高まります。日常生活の中でアートに触れる機会を多くすることが、創造性を高め、問題解決を行い、優先順位を素早く定めて仕事に臨むことができるようになります。

普段から文章を書いたり、楽器を弾いたり、絵を描いたりなど、手軽にできるアート活動を取り入れることで、脳はより柔軟になり、創造力が高まります。

音楽活動をするとか絵を描くのはハードルが高いという方でも、絵画鑑賞をするだけでも、創造性の向上に効果があります。それもあって最近では、ビジネスパーソンの間でもアート鑑賞が注目されているのですね。

美術館に飾ってある絵をただ観るだけでも良いのですが、創造性を高めるための絵画鑑賞では、少し心がけておきたいことがあります。

まず、何よりも大事なことは、ゆっくりと絵を観ることです。美術館で一枚の絵にかける時間は平均で十数秒といわれています。それだけの時間で、どれだけその絵について理解ができるのでしょうか。

ある調査では、絵を観たすぐ後の人に、その絵についていくつか質問をしたところ、多くの人がまったく答えられませんでした。また答えられた人も絵そのものではなく、解説文に書かれていたことを述べた人が、ほとんどだったそうです。

そのほかの注意点として、絵を批評しながら観るのは避けてください。絵画コンテストの審査員のように考え始めると、脳の外側前頭皮質が活性化して、内側前頭皮質の活動が抑えられてしまいます。もちろんアートを観てどういう感想を持つかとか、あるいはそれに対して自分の意見をぶつけるのも、それはその人の自由なのですが、ここでは「是非や判断をすぐに下さない」ことを心がけてほしいと思います。

哲学用語でいえば、「エポケー(判断停止)」状態になっています。判断をまったくしないと言うことではなく、「括弧に入れる」「脇に置く」イメージですね。

あくまで、作者の意図について考えを巡らせる。それに対する自分の感想はちょっと「脇に置いておく」、あるいは「括弧の中に入れて」それも客観視することです。

また、「この絵は印象派の◯◯が描いたもので、△△という技法を使っている」のように、知識で絵を捉えるのも、創造性を高めるためにはお勧めしません。創造力を得るためには、できるだけオープンな心で絵を観ることが大切です。私たちは普段、物を見るときに無意識に評価して、知識を持ち出して見ることが多いと思います。純粋に感じることを意識してみることが、創造性を高める近道になります。

■創造性を高める対話型鑑賞法
創造性を高める鑑賞のやり方として、お勧めしたい方法が「対話型鑑賞法」です。

対話型鑑賞法とは、観る人同士が感じたことについて、意見を交わしながら絵を鑑賞する手法です。「この絵を観てどう感じるか」「何が描かれているように見えるか」など、互いに意見を交わすことで、新たな発見や視点が生まれてきます。

対話型鑑賞のやり方はいくつかありますが、ここではよく知られた手法である「Visual Thinking Strategies(VTS)」について紹介しましょう。

VTSは、一九九〇年頃、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のフィリップ・ヤノウィンらによって考案されました。

この方法の特徴は、鑑賞者同士が感じたことを共有し合う対話形式にあります。作品のタイトルや作者名などの情報はあえて提供されず、鑑賞者が自身の感覚に基づいて作品を語り合うことで、自由な発想や深い理解が得られます。

VTSでは、進行役としてファシリテーターが置かれます。ファシリテーターは鑑賞者に対し「この作品を見てどう感じますか?」「どの部分がそう思わせたのでしょうか?」といった質問を投げかけます。このようにして、鑑賞者同士が自由に感じたことを共有し合いながら、作品への理解を深めていきます。

この方法の良いところは、鑑賞者が自分の意見を自由に表現し、ほかの人の感じ方を聞き、新しい視点を得られることです。

例えば、誰かが「この絵の色使いから温かさを感じます」と言えば、それを聞いた別の人が新たな気づきを得るかもしれません。こうしたやりとりによって、絵の本質に迫っていきます。

そしてこのVTSの最大の特徴が、ファシリテーターが投げかける「三つの質問」です。この質問を通じて、鑑賞者は感じたことを言葉にし、他者との対話を通じて新たな視点を得ることができます。

質問(1)「この絵で、どんなことが起きていますか?」
これは、鑑賞者が作品をどのように受け取っているのか、直感的な反応を引き出すためのものです。この質問を通して、鑑賞者は作品に対する最初の印象や、自分の中に湧いた感情や思いを自由に言葉にすることができます。何が描かれているのか、どんな意味が込められているのかを自然に考え始めるきっかけとなります。

質問(2)「この絵のどこから、そう思いましたか?」
この質問によって、鑑賞者は一問目の質問で考えた解釈の根拠を振り返ることができます。「この絵のどの部分がそういう印象を引き起こしたのか?」という視点で、作品をさらに細かく観察することが求められます。このプロセスを通じて、鑑賞者はより深く考え、自分の感じたことを具体的に説明する力が育まれていきます。

質問(3)「もっと発見はありますか?」
この最後の問いかけは、鑑賞者にもう一度作品に目を向けさせ、見逃していた部分や新しい視点を探すチャンスを与えます。この質問によって、対話が広がり、鑑賞者はさらに深いレベルで作品に向き合うことができます。

この三つの質問を繰り返すことで、鑑賞者たちはお互いに意見や気づきを共有し合い、作品の「意味」や「目的」を探ることができます。対話を重ねる中で、ほかの人の感じ方や考え方に触れることで、自分自身の視点も柔軟に広がり、新たな見方も生まれるでしょう。

こうした集団での対話は、アート作品への理解を深めるだけでなく、自分自身の考え方や価値観を再発見する貴重な機会にもなります。


島青志 イノベーションデザイナー・ブルーロジック株式会社 代表取締役・経営コンサルタント


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【プロフィール 島青志 イノベーションデザイナー・ブルーロジック株式会社 代表取締役・経営コンサルタント】
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イノベーションデザイナー。アート、デザイン、システム論を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供するブルーロジック株式会社代表取締役。リゾートホテル業や会計事務所で接客や経営に携わった後、インターネット業界へ転身。インターネットベンチャーやネット広告会社で新規事業を数多く立ち上げ、2010年に独立。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。著書に『熱狂顧客のつくり方』『ソーシャルメディアの達人が教えるリンクトイン仕事革命』。

公式サイト https://bluelogic.jp

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