![]() 1月は助走で差がつく。お正月休みが終わり、カレンダーが仕事始めを告げる頃、多くのビジネスパーソンの心には重い雲が垂れ込めます。 「またあの満員電車か」 「溜まったメールを見るのが怖い」 「休み気分が抜けず、集中力が全く戻らない」 SNSを開けば「仕事辞めたい」「休みが足りない」という言葉が飛び交い、正月ムードから現実へのギャップに、脳と体が悲鳴を上げている状態。いわゆる“正月病”や“仕事始めブルー”は、単なる怠けではなく、多くの人が直面する避けがたい心身の反応です。 特に営業職や、日々数字に追われる立場の方ほど、早くエンジンをかけなければと焦りを感じているのではないでしょうか。しかし、その焦りこそが、実は1年のスタートを台無しにする最大の敵かもしれません。 この記事では、外資系企業のセールスとして「世界No.1」にもなったことのある立場から、仕事始めが苦痛になる理由と、1月はあえてスロースタートがいい理由についてお伝えしたいと思います。 ■仕事始めが苦痛な脳科学的理由 なぜ、仕事始めはこれほどまでに苦痛であり、かつ空回りしやすいのでしょうか。 それは、私たちの脳が持つ現状維持バイアスと、急激なアクセル全開の相性が最悪だからです。 脳は変化を嫌います。リラックスしていた休暇モードから、緊張感のある仕事モードへの切り替えには膨大なエネルギーを消費します。ここで無理にフルスロットルで加速しようとすると、脳内のストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されます。 すると、思考は短期的になり、冷静な判断力が低下します。結果として、自分だけが空回りし、周囲のペースを無視した一方的なコミュニケーションを押し付けてしまうのです。 ■新人時代の大敗とマメな先輩 営業職についたばかりの私は、まさにこの1月の罠に完全にはまっていました。 色々な先輩や書籍での学びから、誰よりも早いスタートダッシュこそが勝利の鍵だと信じて疑いませんでした。いわゆるコスパとタイパを極限まで追求するスタイルです。 ある年の私は、年明けの仕事始めの朝からアクセルをベタ踏みしていました。多くのクライアントに対し、新年の挨拶という名目だけで、実際には強引なアポイントと提案をねじ込もうと躍起になっていたのです。 一方で、私の隣には、いつも涼しい顔でスロースタートを切るマメな先輩がいました。彼は1月の最初の1週間、無理な商談を一切入れませんでした。その代わり、顧客一人ひとりの顔を思い浮かべながら、手書きの年賀状の返信を書いたり、昨年の感謝を伝える短い電話を一本入れたりすることに時間を使っていたのです。 当時の私は、そんな先輩を見て、なんて非効率なんだ、これだからマメなだけの人は遅いんだ、と心の中で馬鹿にしていました。しかし、1月の成績はその先輩が部署でトップだったのです。 先輩は、相手がまだ正月休み明けで暖機運転が必要な時期であることを熟知していました。相手のペースに合わせるペーシングを丁寧に行った先輩に対し、私は自分の都合だけで全力疾走を強要していたのです。 ■AI時代にこそ価値を増す信頼ホルモン 営業の本質、そして人間関係の本質とは、相手のコンディションに同調することにあります。 ここで脳科学的なエビデンスを一つご紹介します。対面でのコミュニケーションや、深い共感が行われる際、脳内ではオキシトシンという信頼ホルモンが分泌されます。このオキシトシンは、相手との関係性を深めるだけでなく、ストレスを軽減し、前向きな意思決定を促す働きがあります。 1月早々からガツガツと攻め立てる営業は、相手の脳を防御モードにさせますが、相手の状況を気遣い、ゆっくりと対話を始めるスロースタートは、相手の脳にオキシトシンをもたらします。 一流の営業マンは、1月を狩りの時期ではなく、土壌を整える時期と捉えます。土が凍っているうちに種をまいても芽は出ません。まずは土を耕し、水をやる。その非効率に見える手間こそが、後の収穫量を決定づけるのです。 また、心理学ではアイケア効果(IKEA効果)と呼ばれる現象があります。人間は手間をかけたものに対して強い愛着や価値を感じるという法則です。生成AIが数秒で完璧なメールを送れる時代だからこそ、人間が費やす時間や手間という非効率なコストが、逆に強力な差別化要因になります。 ■1月を助走期間に変える具体的な3つの技術 では、具体的にどのようなアクションで1月を過ごすべきでしょうか。 1.最初の3日間は内省と環境整備に徹する いきなり外へ打って出るのではなく、まずは自分のデスク周りや、顧客分析など、事務的な作業から始めます。脳を低い負荷から徐々に慣らしていくことで、現状維持バイアスによる抵抗を最小限に抑えられます。 2.ギブだけの連絡を10件入れる 売るための連絡ではなく、相手の健康を気遣う、あるいは相手が昨年言っていた小さな悩みに答えるような情報を届けるなど、相手の利益に100パーセントフォーカスした連絡を入れます。これは心理学の返報性の原理を、最も純粋な形で発動させる種まきになります。 3.相手の歩調に合わせるペーシング 1月上旬は、相手の返信速度やトーンに注意を払ってください。相手がゆっくり始動しているなら、こちらも少し余裕を持って接する。この足並みを揃える行為そのものが、相手に、この人は自分を分かってくれている、という深い安心感を与えます。 ■技術が進化するほど最後は人に還る 1月上旬に無理をして体調を崩したり、精神的に疲弊したりするのは、プロとして最も効率の悪い行為です。 AIがどれほど進化し、24時間365日休まずに稼働するようになっても、私たち人間にはバイオリズムがあります。冬には冬の、始まりには始まりの、ふさわしい歩き方があるのです。 かつて営業でスローペースな先輩に負けた私が得た教訓は、「速く行くなら一人で行け、遠くへ行くならみんなで行け」という格言そのものでした。顧客と遠くへ行くためには、1月の暖機運転を共にする優しさが不可欠なのです。 最強のスタートダッシュは、静かな一歩から始まる。 今日、デスクに座ったらまず、今年、一番笑顔にしたい顧客の名前を3人だけ書き出してください。その3人に、営業要素を一切排除した昨年の感謝と、相手の1年を案ずる言葉を、あなたの言葉で送ってみてください。その非効率な5分間が、あなたの1年を、誰よりも確かなものに変えてくれるはずです。 財津優 セールスコンサルタント 【関連記事】 ■「年が明けたら目標立てよう」では遅すぎる――世界No.1営業マンが教える、実現する目標設定のコツ (財津優 セールスコンサルタント) https://sharescafe.net/62878712-20251224.html ■なぜ「仲良し営業」は最後に裏切られるのか?心理学で解くプロの距離感 (財津優 セールスコンサルタント) https://sharescafe.net/62863304-20251217.html ■三日坊主・石の上にも三年はなぜ「3」なのか?高いモチベーションの秘訣が「3の倍数」である理由 (財津優 セールスコンサルタント) https://sharescafe.net/62846209-20251211.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 財津優 セールスコンサルタント ![]() 教育・社会貢献活動にも尽力し、家庭環境に恵まれない子どもたちへ食事付きの無料塾を提供する“NPO法人維新隊ユネスコクラブ”(ユネスコの連盟団体)の理事を務める。その他3社で営業責任者も務める。著書に『世界No.1営業マンが教えるやってはいけない51のこと』(明日香出版社)『リモート営業の極意 』(WAVE出版) Instagram: https://www.instagram.com/zai.yu @zai.yu シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


