unnamed
マネジメントにおいて、部下に直接指示するのではなく、どうすればいいかを考えさせる、そんなコーチング的な関わりが重要であることは近年常識になりつつあります。しかし、いざ実践しようとすると、すぐに壁にぶつかります。それは、どんな言葉からコーチングを始めればいいか、きっかけがつかめないことです。

最初をどんな質問で始めるかでその対話の質が決まると、1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロであるマイケル・バンゲイ・スタニエ氏は言います。では、具体的にどんな質問から始めればいいのか? 著書『1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす』(マイケル・バンゲイ・スタニエ著、吉村明子訳・ディスカヴァー・トゥエンティワン)から再編集してお届けします。

1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす
マイケル・バンゲイ・スタニエ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2025-10-24


■端緒を開く
冒頭のセリフの良し悪しは、その先の展開に大きな影響を与える。「あれは最良の時代であり、最悪の時代だった」(訳注:チャールズ・ディケンズ『二都物語』の最初の一文)、「遠い昔はるかかなたの銀河系で」(訳注:映画『スター・ウォーズ』のオープニングロール)、「天国から落ちたときは痛かった?」(訳注:「君は天使」の意の痛い口説き文句)というセリフがそうだろう。

マネジャーがコーチングを頻繁にやろうとしない理由の1つに、始め方がわからないということがある。始めてしまえば何とかなるという思いは常にあるのだが、ではいったいどうやって始めればいいのだろう?

また、始めたはいいが、行き詰まってしまうこともある。会話が上っ面だけのものになったり、退屈になったり、そもそも役に立ちそうになかったりする。

そんなときは、終わらない雑談、お決まりの議題、的外れな課題設定、の3つの状況のうちの1つに陥っているのかもしれない。

*終わらない雑談
誤解のないように言っておくが、雑談が有益な場合もある。人とつながりをつくって親しくなり、人間関係を築き、私もあなたもお互い人間だ、と確認し合うのに大いに役立つ。

でも、15分の持ち時間のうち8分を雑談に費やしたと気づいたときは、さすがにまずいと感じるのではないだろうか。「まじめな話、冬は寒いとか、夏は暑いとか、あのチームはいつになったら万年最下位を脱するのだろうかとか、毎度毎度話す必要がある?」と思うだろう。雑談は、会話の糸口にはなっても、重要な課題につながることはまずないと心得よう。

*お決まりの議題
定例ミーティングでありがちな状況だ。同じ時間、同じメンバー、同じ場所、そして同じ議題。こんなミーティングは、無味乾燥な事実と数字の報告に終始し、新たな発見もなく、参加者のエネルギーを奪うだけで終わってしまう。

その議題は、1週間前、1月前、あるいは1年前ならば有益だったかもしれないが、今では、重要な問題に取りかかるのを邪魔しているだけだ。

*的外れな課題設定
何が課題かなんて、疑問の余地も議論の余地もない。あなたはよく知っている。ほかのメンバーもよく知っている。みんなよく知っているはず、とみんなが思っている。さあ、始めよう。あなたは駆け出す。運よく本当の課題っぽいものを見つけてすぐに取りかかれた。次々と問題を解決し、物事が進み、快い手ごたえを感じる。

しかし、ちょっと待って。そもそもその課題が的外れだとしたら?あなたが、どれほど手際よく素晴らしい手腕を発揮したとしても、本当の課題解決には役に立っていないのだ。

■はずみをつける質問:「何が気になっていますか?」
うまく会話を始めてすぐ本題に入るにあたって、絶対確実な最初の質問は、「あなたは何が気になっていますか?」だ。これは、間口が広すぎて漠然としているわけでもなく、狭すぎて限定的なわけでもない、ちょうど中庸をいく質問である。

自由回答式の質問で、「はい」「いいえ」で終われない質問である。ただちに問題の核心に迫り、最も重要だと考えていることを話すよう求める質問でもある。あなたは指示したり誘導したりはしない。相手への信頼を示し、相手が自ら課題を選び取る自主性を認めるのである。

同時にこの質問は、焦点を絞った質問でもある。何でも好き勝手に話していいと言っているわけではない。何がワクワクすることで、何が心配の種なのか。全身全霊を尽くしていることは何か。朝4時に目を覚まさせる心配事は何か。胸をときめかせることは何なのか。そんなことを遠慮なく話すよう促しているのだ。

要するに、「一番重要なことを話そう」と言っているのである。お決まりの議題に風穴を開け、雑談を避け、的外れの課題を打破する質問なのだ。

この質問の後は、より焦点を絞った会話を進めていく。しかし、その前に、2つのタイプのコーチングの違いを理解しよう。

■成果を上げるコーチングVS成長を促すコーチング
成果を上げるコーチングと成長を促すコーチングを区別する考え方がある。

「成果を上げるコーチング」が目指すのは、特定の問題や課題を解決することだ。火をおこしたり、消したり、時には長持ちさせたりする。避けて通れない大切な日常業務である。

一方、会話の焦点を問題から問題を解決する人に移すのが「成長を促すコーチング」だ。頻度は低いが、影響力はずっと大きい。心に響き、変化が実感できるコーチングを受けたことがあれば、思い返してほしい。それはきっと成長を促すコーチングだったに違いない。

何かをうまく処理することよりも、あなたが学び、進歩し、成長するよう背中を押すことに重点が置かれていたはずだ。

――単に業務をうまく処理するだけでなく、学び、進歩し、成長するよう背中を押そう。――


マイケル・バンゲイ・スタニエ Michael Bungay Stanier


【関連記事】
■なぜ、マツダは「作りたい車」を作るのか?データやニーズより「アート」を重視するワケ (島青志 経営コンサルタント)
https://sharescafe.net/62891311-20251228.html
■「仕事始め」が憂鬱なのはなぜ? トップセールスが実践する、1月のスロースタートという戦略。 (財津優 セールスコンサルタント)
https://sharescafe.net/62914618-20260108.html
■「社員が私用スマホでAIに業務相談」で情報漏えいリスクも――問われる「質問しやすい上司」の価値 (李怜香 社会保険労務士)
https://sharescafe.net/62895463-20251230.html
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/62674731-20250930.html
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/61186482-20240125.html

【プロフィール マイケル・バンゲイ・スタニエ Michael Bungay Stanier】
独自メソッドで組織の活性化をサポートするカナダのコーチング会社「ボックス・オブ・クレヨン社」の創業者。同社はこれまでマイクロソフト、セールスフォースをはじめとする企業を含む50万人以上の人々にトレーニングを提供している。2006年に「カナディアン・コーチ・オブ・ザ・イヤー」を受賞、2019年にはコーチング部門のNo.1ソートリーダーに任命される。
邦訳書に 『アドバイスしてはいけない』(ディスカヴァー、2024)、『極上の仕事』(サンクチュアリ出版、2011)がある。
オーストラリア出身、イギリス、カナダ、アメリカ在住。オックスフォード大学哲学修士号取得。

訳:吉村明子
滋賀県出身。関西大学法学部、ミシガン大学ビジネススクール(MBA)卒業。外資系企業でコントローラー、財務部長などを務める。訳書に『アンマーケティング』『ダイレクト・ブランディング』(ダイレクト出版)。

1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす
マイケル・バンゲイ・スタニエ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2025-10-24



この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。