unnamed
「部下に懇切丁寧にアドバイスしたはずが、状況がまったく改善しない」マネジャーの多くがこうした経験をしていることでしょう。実は、アドバイスはする側の安心感にはつながっても、行動を変えることにはつながらないことが多いのだと、1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロであるマイケル・バンゲイ・スタニエ氏は言います。

アドバイスしたいモードの出現を止め、リラックスして相手に関心を持ち続けることが容易になる質問とは? 著書『1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす』(マイケル・バンゲイ・スタニエ著、吉村明子訳・ディスカヴァー・トゥエンティワン)から再編集してお届けします。

1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす
マイケル・バンゲイ・スタニエ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2025-10-24


■本物のマジック
私は、自分自身下手くそな素人マジシャンなので、なおのこと本物には称賛を惜しまない。

こんなマジックを見たことがあるだろう。マジシャンが手を高く上げ、どこからともなくコインを取り出して見せる。次は別のものを、その次はまた別のものを、その次はまたまた別のものを。

こんなマジックは私にはできない。足元にも及ばない。私が取り出すのは、「世界で最も優れたコーチングの質問」として商標登録を検討中の質問である。

とはいえこの質問、本物のマジックのような働きをするのだ。

■ほかを聞く質問:「あと、ほかには何がありますか?」
面白くもない言葉に思える。しかし、この短い言葉「あと、ほかには何がありますか?」はマジックのような力を持っている。一見役に立ちそうもないが、よりいっそうの知恵を、洞察を、自己認識を、可能性を、どこからともなく取り出すのだ。

この言葉が力を持つ理由は3つある。(1)選択の幅が広ければ広いほど、よい意思決定ができる、(2)自分を抑える、(3)時間を稼ぐ、だ。

■(1)選択の幅が広ければ広いほど、よい意思決定ができる
アメリカでテレビを観たことのある人ならば、ビリー・メイズやヴィンス・オファーやロン・ポペイルの姿を目にしているに違いない。テレビ・ショッピングの宣伝マンである。野菜カッター、おろし金、洗浄剤、清掃モップなどの家庭用品を19.99ドル(+送料、手数料)で販売する。

このテレビ・ショッピングの始祖、ロン・ポペイルの決まり文句が「お待ちください。まだまだあります……」だった。

覚えておいてもらいたいのは、最初の答えが唯一の答えではなく、最良の答えであることもめったにない。「まだまだある」ということだ。

自明のことと思うかもしれないが、意外と忘れている。チップ・ハースとダン・ハースは、その優れた著作『決定力!正解を導く4つのプロセス』(早川書房)において、ポール・ナットの調査研究を引用している。

「マネジャーの意思決定について誰よりもよく知る男」といわれるナットは、厳格なプロトコルに従って組織内の168の意思決定を精密に調査した。

その結果、意思決定の71%は二者択一であった。つまり、提示された選択肢は「これをやるべきか?」「やらざるべきか?」という単純なものだったのだ。

ナットは、この割合はティーンエージャーが意思決定の前に考えつく選択肢と同程度(実は少しばかり劣る)だと指摘している。そう、若者がやりがちな酷い意思決定と同程度なのだ。若者は少なくとも未熟だからと言い訳ができるが。こうして二者択一で導き出された意思決定の半数以上が失敗に終わったと知っても、驚きはない。

選択肢が多かった場合の成功率もナットは調べている。たとえば、もう1つ選択肢を加えたらどうだろう。「これをやるべきか?」「あれをやるべきか?」「やらざるべきか?」。

結果は目を見張るものだった。選択肢を1つ増やしただけで失敗の割合は約半分、30%程度にまで低下したのだ。

「あと、ほかには何がありますか?」と尋ねれば、より多くの、そしてたいていはよりよい選択肢を得られる。よりよい選択肢はよりよい意思決定につながる。よりよい意思決定は素晴らしい成功をもたらす。

■(2)自分を抑える
本章の主旨を俳句で表現してみるとどうなるだろう。

教えるな 助言は控え よく聴こう

17文字で表現しようがしまいが、これは言うは易く行うは難しなのである。深く根づいた習慣のせいで、私たちはすぐに助言者/熟達者/答えたがり/解決したがり/直したがりモードに入ってしまう。

もちろん驚くべきことではない。そもそも組織というものは正解と確実性を重視する。そのうえ、仕事や生活がますます複雑になって誰もが圧迫感、不信感、不安感を強く感じており、脳が明確さや確実さを強く求めることを考え合わせると、私たちがアドバイスをしたがるのは至極当然だ。

アドバイスをすると、たとえそれが見当外れでも――実際、往々にしてそうなのだが――安心感が得られる。質問をするときの落ち着かない気分とは大違いだ。

私たちのトレーニング・プログラムでは、このアドバイスをしたくてしょうがない衝動を「アドバイス・モンスター」と呼ぶ。あなたは、相手に関心を持ち続けながら、よい質問をいくつかするつもりでいる。

出だしはよい。しかし次の瞬間、あなたがよい方向に進もうとするまさにその瞬間、アドバイス・モンスターが暗闇から躍り出て、会話を乗っ取る。実はあなたは無意識に心の中で「答え」を探しはじめていたのだ。さあ、ここぞとばかりにアイデアを、提案を、お薦めを、ご教示しよう。

アドバイスをすべき場面も確かにある。誰に対しても、いついかなるときも、決して答えを言うな、などと言うつもりはない。ただ、アドバイスの出番が多すぎで、しかも役に立たないことが多いのである。

自分がどれほど容易くアドバイスしたいモードに入るかを観察するのは、(難しいが)興味深い実験である。一日(あるいは半日、あるいは1時間)の間に何度アドバイスしたくなるか数えてみよう。

よく引用されるハワード・ベックマンとリチャード・フランケルの1984年の研究によれば、医者が会話を遮る平均間隔は18秒であった。あきれて「医者ってやつは」と声を揃えたいところだが、私が接してきたマネジャーやリーダーの多くも同程度の平均間隔であった。

要するに、たとえその人にとって何が問題であるのか、その人に何が起こっているのか、よく知らなくても、私たちは相手に必要なアドバイスができると信じているのだ。

「あと、ほかには何がありますか?」がアドバイスしたいモードの出現を止める。この質問を習慣化すれば、リラックスして相手に関心を持ち続けることが容易になる。まさに、アドバイス・モンスターを手なずける自己管理ツールである。

――何が問題なのか、本当は知らなくても私たちは必要なアドバイスができると信じて疑わない。――

■(3)時間を稼ぐ
これはあなたと私の間の内緒の話である。

私は初代カナディアン・コーチ・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。受賞歴があり、尊敬されるプロのコーチとして、あなただけにそっと教えよう。何が起きているのか完全に把握しているわけではないとき、事態を理解するのに一呼吸か二呼吸欲しいとき、「あと、ほかには何がありますか?」と尋ねれば、少しばかり時間が稼げる。

しかし、これは秘密の話。誰にも言わないように。


マイケル・バンゲイ・スタニエ Michael Bungay Stanier


【関連記事】
■部下が考えるべき内容に一瞬でフォーカスするようになる、たった一つの質問 (マイケル・バンゲイ・スタニエ)
https://sharescafe.net/62916033-20260107.html
■なぜ、マツダは「作りたい車」を作るのか?データやニーズより「アート」を重視するワケ (島青志 経営コンサルタント)
https://sharescafe.net/62891311-20251228.html
■「仕事始め」が憂鬱なのはなぜ? トップセールスが実践する、1月のスロースタートという戦略。 (財津優 セールスコンサルタント)
https://sharescafe.net/62914618-20260108.html
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/62674731-20250930.html
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/61186482-20240125.html

【プロフィール マイケル・バンゲイ・スタニエ Michael Bungay Stanier】
独自メソッドで組織の活性化をサポートするカナダのコーチング会社「ボックス・オブ・クレヨン社」の創業者。同社はこれまでマイクロソフト、セールスフォースをはじめとする企業を含む50万人以上の人々にトレーニングを提供している。2006年に「カナディアン・コーチ・オブ・ザ・イヤー」を受賞、2019年にはコーチング部門のNo.1ソートリーダーに任命される。
邦訳書に 『アドバイスしてはいけない』(ディスカヴァー、2024)、『極上の仕事』(サンクチュアリ出版、2011)がある。
オーストラリア出身、イギリス、カナダ、アメリカ在住。オックスフォード大学哲学修士号取得。

訳:吉村明子
滋賀県出身。関西大学法学部、ミシガン大学ビジネススクール(MBA)卒業。外資系企業でコントローラー、財務部長などを務める。訳書に『アンマーケティング』『ダイレクト・ブランディング』(ダイレクト出版)。

1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす
マイケル・バンゲイ・スタニエ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2025-10-24



この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。