![]() 若手の就職・転職支援サービスの学情の調査によると、2026年卒の就活生について、大学3年生の冬には学生の2人に1人が内定を保有しているという。 (参考:2026年卒内々定率調査 2025年2月度 株式会社学情) これは、入社までに1年以上もの期間を“内定者”として過ごすということである。就活の早期化と売り手市場が相まった結果、まさに「異常事態」とも言える状況だろう。 「早く内定が出るなら良いことだ」と思うかもしれない。 確かに学生にとっては「内定ゼロ」の不安から早期に解放されるメリットがある。しかし、内定者期間の長期化は「弊害」も生んでいる。SNSや口コミサイトの情報を見て内定先に不安を抱いたり、周りの学生の就活と比較して入社への迷いが生じたりと、モチベーションの低下を招くケースも少なくない。また、就活終了の安心感から生活リズムが崩れてしまうといった、社会人に向けた準備段階における課題も耳にする。 だからこそ、企業は内定期間中のフォローを積極的に行い、内定者のモチベーションを維持する必要がある。 大学3年の冬という、内定直後かつ学生が最も「この会社で頑張りたい」というモチベーションが高い時期に、企業はどのようなフォローを行うと良いのだろうか。人材コンサルタントの立場から考えてみたい。 ■内定者フォローは「辞退防止」で満足してはいけない本質的な理由 総合人材・教育サービスのキャリタスの調査によると、企業が25年卒に実際に行った内定者フォローは、内定式を除くと、内定者懇談会や社員を交えた懇親会、人事からの定期連絡などが主である(図1)。 (参考:調査データで見る「入社に向けた内定者フォロー」2025年卒調査 株式会社キャリタス) ![]() このように、一般的に内定者フォローは「内定者の辞退防止」目的で行われることが多い。 一方で、専門的な立場から私見を述べるのであれば、内定者へのフォローを通し「早期離職を防止し、定着率向上を図る」ことこそが、内定者フォローの本質であると考える。 つまり、入社後の定着率は「どのような内定者フォローを行うのか」で決まる。 ■早期離職の原因「こんなはずではなかった」を防ぐ3つのポイント 早期離職の最大の要因は、入社後に感じる「こんなはずではなかった」というリアリティ・ショック(理想と現実のギャップ)にある。 その内容は多岐にわたり、「華やかな仕事だと思っていたが、実際は地道な作業が多かった」「面接で聞いていた内容と実際の業務内容が異なっていた」「成長できる環境と聞いていたが、単純作業ばかりで成長実感が得られない」などである。 しかしギャップの多くは、次の3つのポイントをあらかじめ理解させることで未然に防ぐことができる。 ■(1)当事者意識を醸成する 1つ目は、自らの決断を正解とし、当事者意識を醸成することである。 早期活躍の実現には「自ら成長し、会社の一員として社会に貢献する」という当事者意識が必要不可欠である。では、選考段階で「御社」と呼んでいた学生に、「自社」という当事者意識を持たせるにはどうしたらよいのか。 第一のステップは、内定承諾を「自らの決断」と再認識させることである。自身の価値観や就活軸を改めて言語化させることで、入社は「自ら選んだ決断」であるという原点に立ち返らせる。 第二のステップは、その決断は正しいと「確信させる」ことである。 内定承諾後も、多くの学生が「本当にこの会社で良いのか」という不安を抱えているため、客観的な事実を元に自社の魅力を改めて整理させることで、「自分の決断は間違っていなかった」と確信させ、決断に対する自信を深めさせる。 この過程を通し、就活時の自分視点が強くなりがちな時期に行った企業理解を多角的に深めることは、入社後ギャップの防止に効果的である。 最後は、アウトプットを通じて、「自社」への意識変革を促すことである。 例えば次年度の就活生に向け、会社の魅力を発信する機会を与えるなど、組織の顔として取り組む経験は、学生から会社の一員への意識変革を促し、内定先を「自社」と捉えるきっかけとなる。 こうした過程を通し、自己理解・会社理解を深めることで、入社後ギャップを最小限に防ぐだけではなく、入社後ギャップに直面したとしても「自ら選んだ決断だから」と、やり抜く強いモチベーションを維持できるのである。 ■(2)入社後にぶつかる壁と、乗り越えるための思考法を理解させる 2つ目は、入社後にぶつかる壁と、乗り越えるための思考法を理解させることである。 新入社員がよくぶつかる壁は3つに分類される。「思っていた仕事と違う」などの“仕事の壁”、「役に立っている気がしない」といった“やりがいの壁”、「意に沿わない配属や転勤」などの“環境の壁”である。 これらに対し、事前の心構えが無い状態で直面すると、想定外のギャップからモチベーションが下がり、早期離職を招きかねない。 特に、安定志向の強い現代の学生にとって、転勤や異動は心理的障壁が大きい。 これに対し、高額な転勤手当を支給する企業が度々話題になっている。もちろんそういった手当も有効な施策だが、より本質的な解決には、会社都合の環境変化を「自己成長の機会」と捉える思考法を理解させることが必要である。 転勤や異動が、自身の視野や人脈の広がりにつながるというプラスの側面を伝え、予期せぬ変化を柔軟に受け入れるマインドセットを促す。こうした事前の学習が、想定外のギャップを成長への糧へと変える力になるのである。 ■(3)学生と社会人の違いを理解させる 3つ目は、学生と社会人の違いを理解させることである。 学生と社会人の違いを、「通勤が必要になる」「仕事のためプライベートの時間が減る」など、漠然と捉えている学生は少なくない。 そこで、学生と社会人では評価の基準や考え方などが大きく変わることを、内定期間中に具体的に理解させ、マインドセットを行うことが重要である。 例えば「取り組みへの評価」について、学生時代は取り組みの“プロセス”が重視されることが多かった。そのため、例え結果を出せなくても、普段から見守ってくれている親や教師が過程を評価してくれた。 しかし社会人は、過程に加え“結果”が重視されるようになる。いくら過程で努力していても、会社やお客様に対し結果が出せなければ評価されない。 この様に、学生から社会人への“当たり前”の変化に気づかず、心構えができないまま社会人になると、入社後ギャップに苦しむことになる。 同時に、考え方においては、 ・個別最適から全体最適 ・他責スタンスから自責スタンス ・自分視点から相手視点 へ転換が必要である。 学生時代、特に就活中は「自分がどうしたいか」という“自分視点”・“個別最適”の考え方が強くなりがちである。だからこそ、「会社やお客様のためにどうするか」といった“相手視点”・“全体最適”への転換を促すことが重要である。 多くの企業が入社後前後に行っているビジネスマナー研修も、本質は相手への気遣い(=相手視点)である。 ビジネスでは相手との信頼関係の構築が必要不可欠だからこそ、「この言い方は感じが悪くないか」「この態度は相手に気を遣わせないか」といった相手視点が求められる。そのため、単にビジネスマナーを学んで終わりではなく、もう一歩、相手視点に踏み込んだ研修ができると良いだろう。 また、「自責スタンス」は社会人になれば自然と身につくものではなく、学生も「自責スタンス」と言われてもピンとこない。 そのため、ケーススタディなど学生がイメージしやすい設定を通して、なぜ自責スタンスで行動するべきなのか、自責スタンスが不足していると周囲や仕事にどういった影響を与えるのかを具体的に理解させ、自責スタンスでいることのメリットを理解させることが重要である。 この3つのポイントを学生に理解させることで、入社後の「こんなはずではなかった!」というギャップを解消することができるのである。 ■内定者期間の過ごし方が未来の「定着率」を決める 改めて提言したい。 企業は内定者フォローの目的を、単なる内定者の「辞退防止」に留めるべきではない。内定者が持つ高いモチベーションを「早期離職の防止・定着率向上」に昇華させるべきである。 そのためには、内定者期間中に「自らの決断」に自信を持たせ、入社後に直面するであろう壁とその乗り越え方を提示し、その前提となる学生と社会人のスタンスの違いを正しく理解させることが必要不可欠である。 あけおめ退職や入社直前の不安が話題にのぼるこの時期、改めて「内定者フォロー」の在り方を考え直してみてはどうだろうか。 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 【関連記事】 ■【年明け内定辞退の衝撃】新卒就活の現場を揺るがす「オヤカク」への向き合い方(河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62869078-20251219.html ■「優秀だけど育てにくそう」な人材を落とす大間違い――「初任給40万円」だけでは解決しないDEI時代の採用問題 (河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62808898-20251127.html ■部下に「ついアドバイスしたくなる」気持ちを押さえ、深い思考を引き出すたった一つの質問 (マイケル・バンゲイ・スタニエ) https://sharescafe.net/62916048-20260107.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 ![]() 2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。 公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/ Tiktok:https://www.tiktok.com/@kawamoto_saiyo @kawamoto_saiyo シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



