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素晴らしいチームとは、どのように作られるのか? オリンピアンやプロアスリートの支援も行うスポーツドクターの辻秀一氏によれば、メンバーの一人ひとりが「Flow Do It(ご機嫌な状態で行動すること)」が重要だと言います。では、人をご機嫌な状態にするリーダーとはどのような人のことなのでしょうか? そこには、一般的にリーダーが行っている共感や期待ではない姿勢が求められるのです。

著書『チームワークの大原則「あなたが主役」で組織が変わる』(辻秀一・WAVE出版)から、再編集してお届けします。



■人をご機嫌にする「支援」は、心に寄り添う姿勢でつくられる
人はどんなことをしてもらえると心の状態がご機嫌に傾くのでしょうか? それは、自分の体験からしか気づくことができません。そこで、自分自身に問いかけてみて、思い出し、それを書き出してみましょう。

自分なら、どんな風に接してくれたら、ご機嫌な心になるでしょうか? また、ご機嫌になるために、どのような接し方をしてほしいのでしょうか?

ここで重要なのはモノやお金が必要なことは除外するということです。「おごってほしい」「プレゼントがほしい」「休みをくれると、ご機嫌になる」といったことは対象外です。それは条件が必要な認知的アプローチになるためです。

ここではあくまでリーダーシップにつながる他者の心への支援の姿勢について考えます。そのため、自分自身の経験から得た「人としてのあり方」に基づく接し方が問われます。モノや行動で支援するのではなく、心に寄り添うための姿勢が求められるのです。

非認知脳を働かせて自分自身が周りと接するだけで、その関係にフローが生じます。結果として、組織のウェルビーイングの芽が生まれるかもしれません。今はまだピンと来ないかもしれませんが、ぜひ想像してみてください。

認知的な脳だけで生きていて、結果や定量的な要素だけで行動している人々が集まった組織と、自分の心の状態にも価値を重んじ、そのために非認知脳を働かせて生きる人々が集まった組織――。

この違いを考えたとき、後者の人々は、お互いの心に配慮して支援し合うことができるでしょう。なぜなら、その姿勢に価値があると理解しているからです。

当然のごとく、その結果、そうした人々が集まる組織は一人一人がウェルビーイングな状態であり、チーム全体もウェルビーイングであり、ご機嫌であり、エクセレントになるのです。

■人間の本能的な願望を理解し、「コーチ力」を磨く
それではここで、具体的にすべての人に通じる「コーチ力」の姿勢をご紹介しましょう。

まず、どんな人も「わかってほしい」という強い本能があります。このため、「わかってあげる姿勢」が重要です。

それでは、人は何をわかってほしいのでしょうか? それは「感情」です。自分自身の感情は、生きる上で自由であり、生きる尊厳とも言えるものです。

認知的な社会で行動が常に制限されている一方で、「自分は自由に感じてもいい」という尊厳があるからこそ、人は生きていけるのです。

みなさんも、自分の感情をわかってもらえず、ノンフローな(機嫌が悪い)心の状態になった経験はないでしょうか? 多くの人はわかってほしいという本能が強いため、「わかってあげる」よりも「わからせる」ことが優先されがちです。

特に認知脳が優位であれば、指示をするために「わからせる」傾向が強くなります。そこで、非認知脳を働かせて、自分の自由な心の状態を重んじることができれば、他者の感情も「わかってあげて」、重んじることができるはずです。

ここで大切なことは、「わかってあげる」とは「共感」ではないということです。今の社会は「共感」が流行していますが、他者や周りとまったく同じ感情になれるかというと、それは決して簡単なことではありません。両者の根底には少なからず感情の齟齬が生じているため、「自然なご機嫌」にはなりにくいものです。

重要なのは「共感」ではなく「理解」することです。わたしはそれを「同意より理解」と表現し、自ら意識してみなさんにも伝えています。同意や共感ができなくても、相手の感情を理解し、「わかった」と伝えることが何よりも大切です。

人は共感される前に、自分の感情を「わかってもらえた」ことで心の安心を得ることができるのです。それは感情の自由、すなわち人の生きる尊厳を認め合う関係になるからです。こうした姿勢は、他者への支援として極めて重要なのです。

その原点は、自他ともに心の状態に価値を重んじる、非認知的な脳を働かせることから始まります。

■「一瞬」ではなく「時間の幅」を見る声かけ
また、人には「見通してほしい」という思いがあります。「見通す」とは、時間の幅を持って見てほしいということです。一瞬だけを切り取られて判断・評価されると、人はストレスを感じ、ノンフローになりやすくなります。

例えば、まだやっていない仕事があった場合、いきなりやってきた上司に「まだやってないのか?」と指摘されると、心は穏やかではなくなるでしょう。「やろうと思っていたのに……」と、余計にやる気がなくなるかもしれません。

しかし、「どんなことがあって、できていないんだい?」と尋ねられれば、時間の幅を感じられます。また、「今はまだできていないけど、この後どうするつもり?」と言われれば、その瞬間だけで判断されていないと感じ、ストレスを感じにくいのではないでしょうか。

時間の幅を持って、見通す姿勢で周りに接するには、「結果より変化」を意識する必要があります。結果は「点」であり、時間の幅がありません。一方で、認知脳が優位なわたしたちは結果だけを見がちであり、また見られがちでもあります。

結果は「点」であるため、それを評価しようとすると、さまざまなものと比較せざるを得なくなります。それにより、多くの人がノンフローな状態に陥ってしまうのです。

一方で、変化には時間の幅が必要です。つまり、他者への変化の視点は時間の幅を意識しなければ生まれないものと言えるでしょう。

また、変化には大きく分けて「成長」と「可能性」の2種類があります。「まだまだだけど、成長しているね」「まだまだだけど、可能性はあるね」といった接し方は、相手の心を配慮した支援の姿勢そのものなのです。

なぜそのような意識や姿勢で周りと接するのでしょうか? そうした接し方の方が、相手もフローに傾くという「フローの価値」を有しているからなのです。したがって、自分自身が非認知脳を働かせて自分の心の状態を整え、BX(脳の変革)を行うことがまず重要なのです。

■「期待」ではなく、「応援する姿勢」が必要
もう1つのコーチ力は「応援してあげる姿勢」です。

認知脳は他者に対して「期待」という思考を抱きがちです。期待とは、自分勝手な枠組みを他者に当てはめ、見返りを求めることです。期待=勝手×枠組み×見返り、ですから、相手はまるで檻の中に閉じ込められたような状況になり、心は穏やかではありません。一時的には「がんばろう」と思うかもしれませんが、ずっと期待されているとプレッシャーでしかなくなり、支援どころか負担を与えることになります。

期待の主役は、実はがんばっている相手ではなく、その期待を抱いてプレッシャーをかけている側にあります。これでは相手に対する支援にはなりません。

また、期待思考の強い人ほど怒りやすく、頻繁にイライラして、ノンフローな不機嫌な状態に陥りやすくなります。これは、「個人的な期待」という、勝手な枠組み通りにはいかないからに他なりません。

中には、この期待を「愛」だと勘違いしている人もいるため、さらに厄介です。この思考が蔓延すると、期待をかけている側、かけられている側、両者にとってフロー状態が生まれにくい環境になります。もちろん、そのような思考の人の集まりはチームとして機能せず、ワークできなくなるのです。

一方で、応援思考は無条件のエネルギーや思いを他者に与えることで、主役は間違いなく相手にあります。

応援してもらえたらどんな人もフロー状態でしょうし、応援している方も気持ちがいいはずです。応援という支援思考を持つ人々が集まったチームでは、一人一人がFlow Do It(機嫌がいい状態で行動)し合えるようになります。このような心を配慮する支援としてのコーチ力は、自分だけではなく、視野を広げて周りの心を配慮したアプローチと言えるでしょう。

フローな心の状態を自ら広げ、周りの人にも導いていける人が増えれば、エクセレントチーム(素晴らしいチーム)に近づくはずです。

チーム内にはフローの姿勢を持たない人ももちろん存在していますが、自分のチームを機能させるためには、まずあなた自身がBXを始めてみましょう。ノンフロー状態の人を変えることよりも、あなた自身が「自分もチームにいる仲間の一人なのだ」という考えを持ち、視座を上げることが重要です。

そして、そのために自分ができることから始めるアクションが、結果的に、自分自身の成長につながり、チームのためになっていくのです。


辻秀一 スポーツドクター 産業医 株式会社エミネクロス代表


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■プロフィール 辻秀一 スポーツドクター 産業医 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学病院にて内科研修。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター勤務後、人と社会のQOL 向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。
応用スポーツ心理学をベースに個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、自然体な心の状態「Flow」すなわち「ご機嫌」を生み出す非認知スキルのメンタルトレーニングを展開。
オリンピアンやプロアスリート、音楽家や企業の健康経営のサポートやフローカンパニー創りにも取り組む。
著書に『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)、『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)、『いつもごきげんでいられる人、いつも不機嫌なままの人』(サンマーク出版)他多数。

公式サイト https://doctor-tsuji.com/


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