![]() “宇宙交通”の安全はどのように守られているのか? 急速に広がる宇宙ビジネスの実態を、イメージしやすいよう漫画、アニメで大人気の『ONE PIECE』(尾田栄一郎・集英社)に例えながら、理学博士の佐々木亮氏が解説します。著書『「稼げる仕組み」が1時間でわかる 宇宙ビジネス超入門』(佐々木亮・PHP研究所)から再編集してお届けします。 ■「宇宙×天気」生死を分ける“天(そら)読みスキル” 麦わらの一味で航海士を務めるナミは、雲の切れ目や風の匂いから嵐を読み取り、船を最短かつ安全なルートへ導きます。 実は宇宙にも「天気」があります。世界的に宇宙天気(SpaceWeather)という言葉が使われたのが1950年代でした。そこから少しずつ注目を集めていく中で、日本は先行して茨城県ひたちなか市の情報通信研究機構(NICT)平磯太陽観測センターで“宇宙天気予報”という言葉を使って、予測をし始めたという歴史があります。今でも日本は、宇宙天気をリードする立場にいます。 *宇宙の天気を司る太陽 宇宙天気を左右する主役は太陽です。太陽フレアやコロナ質量放出(CME)が吹き出す数億トン規模のプラズマと強磁場は、わずか数十分で地球圏へ到達し、衛星の電子機器に誤作動を招き、宇宙飛行士を危険な線量で被曝させます。 2022年2月には打ち上げ直後のStarlink衛星38機が中程度の磁気嵐の大気抵抗を受けて脱落し、数千万ドル規模の損失が生じました。 まさに“宇宙の荒天”が航路を左右した実例です。こうしたリスクに備える“宇宙版ナミ”が宇宙気象予報士です。 日本のNICTは世界初の定常宇宙天気予報を実施し、太陽観測衛星SDOや地上電離圏モニタを解析してフレア警報・放射線ストーム速報を発信しています。 ESA(ヨーロッパ宇宙機関)もSpace Weather Service Network(宇宙天気サービスネットワーク)を整備し、発生から数分以内に衛星運用者へ危険度“赤・黄・緑”アラートを送出しています。 運航管制官はこれを受けて宇宙ステーションを放射線が強い領域から離脱させ、医療担当は宇宙船の遮蔽区画待避を指示できます。 *“宇宙天気を読む力”はなぜ大事なのか 宇宙天気については、個人的にものすごく贔屓にしたい分野です。私は大学院時代、太陽より100倍から1000万倍も強力なフレアを放つ恒星を対象に、それらを分析して統計的にまとめることをしていました。そこから、「どこまで大きな太陽フレアが発生しうるのか」といった大きな問いに挑んでいました。 そのため、太陽で発生する巨大フレアに非常に興味があり、その先にある私たちの文明を脅かすかもしれない被害には、注目していきたいし、多くの人に知ってほしいと思っています。もし遠い系外惑星に文明があるとすれば、彼らはより高度な宇宙天気予報を行っている可能性があります。 詳しくは『やっぱり宇宙はすごい』(佐々木亮・SBクリエイティブ)でも触れましたが、“宇宙天気を読む”スキルは恒星系を問わず通用する普遍的な航海術なのです。 ナミが雲のわずかな色味で進路を変えるように、宇宙気象予報士は太陽面のX線輝度変化や電波ノイズからフレアの兆候を察知し、衛星・探査機・宇宙飛行士を守る羅針盤となります。 宇宙ビジネスが月や火星、さらには他の星系へ広がるほど、「宇宙×天気」は航路設計・医療防護・通信インフラの根幹を支える職能になるでしょう。 ■「宇宙×操舵」緊急時に頼れるのはAI、それとも人間? 麦わらの舵取り役ジンベエが潮流を読み船を導くように、軌道上で舵をとる重要な場面もあります。 ヒューストンのフライトディレクターはISSの姿勢と高度を24時間監視し、宇宙ゴミ(デブリ)接近時には推進剤わずか数m/sの「回避マヌーバ(衝突を避けるための機動操作)」を即断します。 2025年4月には2005年製ロケット断片が衝突コースに入り、プログレス補給船を3分33秒噴射して軌道を持ち上げ、安全のための距離を確保しました。 “舵輪”そのものがデジタル化しています。SpaceXのクルー・ドラゴンは自律飛行が基本ですが、タッチパネルで手動ドッキングに切り替えも可能です。 乗員は数百時間のシミュレーターで異常シナリオを反復練習し、1990〜2009年にスペースシャトルがハッブルへ相対速度2cm/s以下で接近した“匠の操船”をデジタルで再現しています。 *宇宙の操舵手が最終判断を下す 課題は交通量の激増です。米宇宙軍カタログには直径1cm超の物体が50万個。2019年にはESAの衛星AeolusがStarlink衛星との衝突を避けて自力で軌道変更し、「同一高度に複数事業者が存在する時代」の到来を告げました。 今後はAIが衝突確率を計算し自動回避を提案する“宇宙信号機”が導入されますが、最終ボタンを押すのは人間の操舵手です。 JAXAも独自のSSA(宇宙状況把握:Space Situational Awareness)システムで衛星とデブリの接触リスクを常時可視化し、判断材料を提供しています。 深宇宙では自律航法と“保険の舵取り”がセットになります。小型探査機キャップストーンCAPSTONEは月周回ハロー軌道を自己維持しましたが、ソフトウェアの想定外動作で姿勢が乱れた際に地上チームが緊急復旧コマンドを送り、最終的に人間の判断がミッションを救いました。 こうして宇宙の操舵手は「デブリを避ける交通管制官」「有人船を手動で寄せる匠」「AI航法を監査する監督官」へと役割を広げています。 VRシミュレーターや自律システムが進化しても、最後に“舵を切る”のは状況を総合判断できる人間。ジンベエさながらに星海の潮を読む感性が、これからの宇宙交通の安全を左右するのです。 佐々木亮 理学博士 【関連記事】 ■「宇宙版ロードサービス」も実現!身近な分野とのかけ合わせで急速に広がる宇宙ビジネスの世界とは (佐々木亮 理学博士) https://sharescafe.net/62966788-20260128.html ■宇宙で手術はできるのか?広がる「宇宙×医療」ビジネスの世界 (佐々木亮 理学博士) https://sharescafe.net/62965060-20260128.html ■無重力でサッカー・掃除はできる?「宇宙×○○」で無限に広がるビジネスの可能性 (佐々木亮 理学博士) https://sharescafe.net/62964738-20260127.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 佐々木亮 理学博士 専門は、宇宙物理学・X線天文学。独立行政法人理化学研究所、アメリカ航空宇宙局(NASA)の研究員を経て、現在、サイエンスライター、株式会社ディー・エヌ・エー AI事業の事業責任者、中央大学非常勤講師など。Podcast「佐々木亮の宇宙ばなし」を2020年から毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回JAPAN PODCAST AWARDSで、Spotifyネクストクリエイター賞受賞、UJA科学広報賞2025大賞受賞。著書に『やっぱり宇宙はすごい』(SBクリエイティブ)やAI関連の書籍などがある。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


