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日本の経済が長期停滞した「失われた30年」に育った親世代は、これまで「正解」とされてきた「良い大学に合格すれば成功」という価値観を、いま見直す必要に迫られています。

2024年についに到来した「大学全入時代」。知識先行・詰め込み型から、表現力・創造性重視の教育への変化。こうした背景のなか、親の価値観はどのようなアップデートが求められているのか?

5人の子の父であり、自身も受験で悩んだ経験のある医師・蓮池林太郎の著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。

塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略
蓮池 林太郎
セルバ出版
2025-11-27


■失われた30年
*親世代に必要なアップデート
「失われた30年」という言葉があります。バブルが崩壊して以降、日本の経済は停滞、平成はほぼ成長のない横ばいの時代だったといわれています。

かつては世界をリードした生産力も後進国に次々と抜かれていってしまいました。この30年の間に子ども時代を過ごした人々が、いまは子育て世代となっています。経済停滞の原因は多岐にわたります。主要因としてあげられるのが経済政策の失敗、ほかに少子高齢化も一端を担っているでしょうし、グローバル化や構造改革への着手で他国に遅れをとったこともあることでしょう。

日本元来の保守的な思想はとくに厄介で、企業や政党など組織が変革を拒み、人々も新しいものに対して拒絶反応を起こしやすかったのも、停滞に一役買っているかもしれません。また保守的な面はリスク回避思考を育み、投資よりも貯蓄に専念したことも、経済停滞の原因を生んだかもしれません。そんな社会的な話を細かくするつもりはありません。

とにかくここで投げかけたいテーマは、そういった時代に教育を受けた私たちは、当時のことをどのように評価し、どう活かして、次の世代につなげていけばいいかということです。

失われた30年は負の遺産、悪い教訓と見なし、現代の変革を後押ししています。働き方改革がもたらされ、起業やイノベーションを奨励する風土づくりが企業や政府でも強化、グローバル人材育成も余念がありません。積極的に投資ができて経済の回りを活性化する仕組みづくりも整ってきました。

教育現場でも、知識先行の詰め込み型のものから、表現力や創造性を重視した授業へと、教育の主旨が移行しています。実際に社会に出て働いている人を招いての講義や、職場体験ができる授業も設けられています。高校や大学の入試では、勉強以外の要素を評価する形式も広がっています。

失われた30年の遅れを取り戻すため、より実戦的で即社会に通用するような人材育成に、重点が置かれるようになっているのです。時代は移ろっていくわけですから、私たちが受けてきた教育、育んできた人生観や価値観といったものが、必ずしもいまを生きこれから成長していく子どもたちにも当てはまるとは限りません。私たち親世代も日々アップデートしなければなりません。

私たちの時代の常識は現代では通用しないと覚悟するべきでしょう。失われた30年の苦難を子どもたちに繰り返させないためにも、柔軟な思考が求められます。

■大学全入時代
*「大卒」だけでは武器にならない
大学入学希望者数が、大学募集定員数を下回る。そんな「大学全入時代」がやって来ることは、私が学生時代のころからすでに叫ばれていました。

2024年、ついにそのときが到来します。文部科学省の調査によれば、入学者数を定員で割った定員充足率は98%となり、集計以来初めて100%を下回ったのです。正真正銘の大学全入時代へと突入しました。数字上は、大学入学希望者全員が大学に入れるわけです。

もちろんこれには注釈があり、入学希望者が希望の大学に入れるという意味ではありません。人気の大学は依然として競争が続いています。とはいえ若者の多かった時代に比べれば争いは軟化しており、上位の国立大学(国公立大学)でさえ倍率は下降しています。

大学全入時代となるよりも以前から、「大学に行って当たり前」「高卒では真っ当なキャリアを築けない」といった価値観が根強く存在しました。現代ではより一層その意識は強まっており、親たちは子どもをなんとしても大学へ、少しでも上位の大学へ進学させようと奮闘します。

とくに、自身が希望の大学へ進学できず、キャリア形成に苦しんだ親は、強い学歴コンプレックスを抱え、子どもに上位大学進学への夢を託す傾向にあります。

その期待に応えられるだけの素質が子どもにあればいいのですが、学力は遺伝に依る部分も多く、過度な期待は子どもに無理を強いるリスクを伴います。度が過ぎてしまえば教育虐待のような悲劇につながることもあります。

「とりあえず大学に行っておけば将来は安泰だろう」と、安易な気持ちで手の届きやすい大学を目指すことも歓迎できません。入学難易度の極めて低いいわゆる「Fラン」と揶揄されるような大学に行き、何も研鑽を積まず、アルバイト漬けや遊び三昧で過ごしてしまったら、自身の価値を高められず、就職市場での競争力を得ることはできません。人生の貴重な4年間を無駄に過ごしてしまいます。

大学全入時代の今だからこそ、「大学に行くべきかどうか」を根本から考える必要があります。

私自身、子どもたちには大学に行ってほしい気持ちはあるものの、絶対に行かせるべきとは考えていません。本人が強く希望するのであれば、高卒で社会に出てもいいですし、専門学校など別の道への進学も選択肢にはあると思っています。そのほうが子どもにとって適切で、人生の満足度を上げられるのであれば、受け入れることになるでしょう。

少なくともいえることは、大学全入時代の到来によって「大卒」という肩書きだけでは何のインパクトも与えなくなったという事実です。大学に行くことは誰でもできることとして、では大学で何をやってきたのか、自身のどういった成長につながったのか、根拠を明確に示せる人材を育てることが、私たち大人の役割となりました。


蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長


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■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長
1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。
医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。
2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。
子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。


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蓮池 林太郎
セルバ出版
2025-11-27


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